第130話  葬儀

 俺は意識を取り戻す。オリヴィアの部屋を、けたたましくノックし、大丈夫かと誰かが呼んでいる声がする。


 返事がないのでドアを開けて数人が入ってくる。そして絶叫と共に駆け出す。

 セチアとクロエ、三宝姫とユリアもだ。俺の体に近づきその凄惨な光景に絶句している。俺は口の周りが血だらけで、体も血だらけだ。しかもオリヴィアの手には俺の左手が握られている。但し体にはくっついていない。


 皆、俺とオリヴィアに抱きつき状態を確かめるまでもなく、泣いていた。

 息絶えているのがひと目で分かったからだ。


 俺の状態もオリヴィアも酷かった。心臓に手をやり苦悶の表情なのだ。

 ただ、不思議と死後硬直をしていないのだ。


 ユリアが唯一直ぐに正気になり、部屋から駆け出してタオ殿を呼びに行っている。


 程なくしてタオ殿とお母様が駆けつけ、お母様は、気絶してしまった。タオ殿は懐から何かを取り出し、メイドの一人に領主を呼ぶように送り出した。


 皆泣いている。メイドや執事は狼狽えていた。


 俺は魂が体から抜けたような状態で、天井付近から眺めていた。そこから動けないのだ。


 暫くすると意識を失い、場面が変わる。いきなり俺とオリヴィアの国葬の最中だ。俺とオリヴィアの体をよく見ると魔力が体内をゆっくり循環していて、既に心臓は修復しているっぽい。呼吸はしていないが、どうやってか酸素を取り込み、魔力が血液を循環させているようだ。体は、肉体再生の影響で修復しているっぽい。三宝姫とユリアも含め俺の女性陣と、バトルシップの4人には肉体再生を付与済みだ。


 つつがなく葬儀を行っているのは前国王だ。

 どうもオリヴィアとの刻印の儀式から1週間経過しているようだ。葬儀のあと火葬という。


 俺は必死に


「体は、まだ生きている!待て、待つんだ!」


 必死に叫んでも誰にも届かない。気が付いてほしい。俺とオリヴィアの体が死後一週間の体じゃなく、仮死状態だと。


 念話を試みたり、神の手を発動しようにも出来なかった。


 国葬は城の前の広間で行われ、多くの国民が集まっていた。

 特にクロエの取り乱し方に涙が出てきた。


「駄目なのよ!!! まだ生きているの。刻印がまだあるの!死なないと消えないのよ!」


 遺体の前に駆け寄ろうとするが衛兵に防がれ向かえないのだ。


 国王の演説のあと、神殿の最高司祭が弔いの言葉を述べている。


 それが終わると、正装をした騎士と、バトルシップの面々が棺に蓋をして、別の場所に棺を移動しているのだ。


 祭壇から少し離れた所に木を大量に並べられた台座の上に棺を2つ並べて、その周りに木を並べて、棺の周りにオリヴィアが好きだった真っ赤な花を神殿の巫女と言うかシスターが大量に並べている。そして棺に送り出す為のお酒を掛けている。それと金貨を6枚、棺の上に並べているのだ。


 そう、間もなく送り火の儀式が始まる。俺は悔しかった。折角生きているのに、誰にも気が付かれなく、自らの体が火葬にされる様を見る事になるのだ。


 そして棺の周りに油が撒かれて、いよいよ火がつけられる。


 火を点けるのはアリゾナだった。

 流石に肉体再生があっても、この木が燃える中では追いつかず、灰となるだろう。


 アリゾナの持つ松明に火が着けられた。



 そしてーうやうやしくお辞儀をして、棺に燃える松明を投げ入れて、燃え始めた。


「俺もここまでか。ナンシーやシェリー、如月さんに会ってみたかったな。無念だ。ぼちぼち体に火がつくだろう」


 呆然と自分が燃やされるのを、ただただ見ているだけだった。


「さようなら。愛しているよ!    ファイン」


 そして意識がなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る