第112話 異変

 11階層は一味違っていた。

 11階層に入る扉を開けた俺は思わず一歩下がり振り向きそっと扉を閉めた。


「み、見なかった事にしても良いよね?もうお家に帰っても良いよね!」


 ユリアはオ・レに同調した。しかしアリアとオリヴィアに腕を掴まれ引っ張られていくのだ。俺の中ではドナドナの曲と共に。


 ユリアは泣いていた。無理だとこれ以上先に進むと心が折れると言うもセチアに腕を引っ張られドナドナされていく。


 いつの間にか俺はユリアと抱き合い二人共涙を流しながら必死に


「やだやだ帰るもんやだやだ」


 と言うもオリヴィア、アリア、セチアの三人に


「駄目です。いくらランスロット様の願いでもダンジョン攻略をやめる理由にはなりません。さあ我儘を言わずに焼き払ってください!ファイヤー系は得意でしょう?困らせないでください!一体どうしたと言うんですか?」


 三人は嫌がる俺を無理やり扉の前に立たせると頷き、アリゾナが扉を開けると俺は目を瞑りながらひたすら扉の向こうにファイヤーボールを撃ちまくり、動く物の気配がなくなりそっと中を覗いたがやっぱり無理だった。


 きっちり区画された人工の壁と床があるそんなフロアだった。

 先頭をアリゾナとホーネットが進みながら黒焦げになった死体を脇によけるのだが違和感がある。ダンジョンの魔物は死ぬと魔石をドロップするはずなのだが死体が残っている。せチアに聞くと


「何言ってるんですか?あれはゴラムという虫の一種で大抵は暗くジメジメした所を好んで生息しています。時折ダンジョンでも見かけますよ」


 当たり前の事と言う感じで答えていたが、そいつの正体はお馴染みの黒い、そう、あの台所などでカサカサしてるあいつだ。でかく大きい。無理だろう! 奴のデカバージョンでしかも体長30cm位あるんだ。

 みんな想像してくれ!あいつらが大量にしかも大きんだ。俺の気持ち分かるよね!ね!


 志郎は誰に言っているのかひたすら嫌がって同意を求めているのだ。


 そうしていても仕方がないので志郎とユリアは目を瞑りながらアリア達に手を引かれていく。

 男衆が魔物を倒していって先に進んで行き、ようやく奴らの死体が無くなったので志郎は元気を取り戻していく。魔物は獣型が中心で出たが、通路は一辺が3m大して広くないが何故かグリフォンが出た。

 飛ぼうと思うが、たかだか3m程度の高さなので天井に当たり即落ちるので首を刎ねる感じで、この階層を抜けるまでに10体程出ている。


 本来ならばグリフォンは11階層に出る強さではないが、明らかにリポップしているのでこの階層の魔物のようだだったが、グリフォンはBランクだからおかしいのだ。下の階層から上がってきたのなら分かるのだが、ひょっとすると天井の高さが低く脅威判定が下がったのだろうか?異変が他になければ良いなと思いつつ12階層へ向かっていったのだ。


 12階層は作りが同じだが違和感があった。先程のフロアは石作りな感じで色は特になんとも思っていなかったが、このフロアは床以外金色なのだ。はっきり言って目が痛い。

 今度はハーピーが出てきて男達を誘惑して、4人共魅了に掛かってしまった。志郎はずっと頭に「レジスット成功」

 と『これが手帳にあるエラーか』と呟き、次々にアイスアローで駆逐し、周辺からそいつらがいなくなると男達が我に帰っていたが、既に背中に爪を立てられて切り裂かれる直前だった。


 この世界のハーピーは鳥と人が融合しているようなもので、腕と脚は鳥でそれ以外は殆んど人型で、顔は美形が多いという。

 男に対しては魅了で手元に引き寄せ、その胸に抱きよせて胸の感触に恍惚を感じ快楽を貪っている最中に爪を突き立て、一気に切り裂き殺す事を常套手段としている。

 基本的に男にしか魅了が効かないので、女相手には鬼のような形相でがむしゃらに襲い掛かってくる性質を持っている。


 このフロアはハーピーだらけなので男衆は目を瞑り、魅了に掛からないようにしていたので、はっきり言って役立たずな状態だった。


 そこからは時折下層の魔物が出口に向かって来ているのと遭遇するくらいで特に何もなく、20階層のボス部屋まで順調に来ていた。


 もう夜の時間なのでボスを倒したら休憩となった。この先は時間がかかるから今日は切りの良い20階層を終えるのを目標にしていた。


 ボス部屋は女性陣がやらせて欲しいと言うのでピンチになるまでは手を出さないように決めていた。

 出てきたのはミノタウロスだ。


 4人の中で一番強いのはAランク冒険者もしているオリヴィアだ。残りの3人は魔法などで援護やオリヴィアに加護を掛けたりしていたが、10合位で魔法が腕に当たり剣を落としてから一気に腕を切り落とし、勝敗が決した。

 事前に可能ならボスのとどめは志郎がする事になっていて、胸部を串刺しにした状態から志郎が首を落として終わった。


 乙女の衣という魔法の女性用の衣が4着出たので女性陣4人が着る事となった。魔石で強化するが、現状の防御力が金属のフルプレートメイル相当あるが衣というチートなアイテムだ。見た目も上品なので俺の妻たちには絶対に合うと自信があった。


 ボス部屋を出た所にセーフゾーンがあるのでそこで今日は野営を行う事となったが、皆くたくただった。


 先日ふと思い浴槽を購入していたのでテントを設置してその中に浴槽を置き、女性陣から順番に入浴をさせて疲れを取ってもらったが、やはり無限収納の有難さは格別だった。


 疲れが大きく、見張りの当番以外は眠りにつく。朝食の関係で今日は俺とアリアが最後の番になったのだった。



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