第82話 隣国へ
day34
いつも通りの目覚めでは無く、クレアに起こされた。体を軽く揺すってきている。
何故かクレアが泣いている。
「おはよう。どうしたの?」
「おはよう御座います。何か恐ろしい事が起こると予知を感じるのですが、何かが分からないんです。」
「そうか、何か分からないのは不安だよな。教えてくれてありがとな。ここを引き払うつもりで準備を進めよう!」
「折角手に入れたお屋敷なのに残念です」
「また買えば良いさ。君達が居てくれさえすれば、野宿でも俺は大丈夫だから」
そう言うと頷いて出ていった。俺は二人を起こして見張りの番に就く。
そう言えばシェリーに渡しそびれていたネックレスを渡して着けてあげた。
シェリーはうっとりと宝石を眺めていた。見張りは俺一人で十分なので、二人には装備の点検と大事な物を身につけさせた。万が一ここを占拠されても、お金で何とかなる物はしょうがないが、思い入れのある物とかは持ち出しの準備を指示した。屋敷周辺の人の動きが良くない。
普段と違う事をすると目立つので、早朝のランニング時間になり、皆を起こしてランニングを始めた。
表立って普段と違う事は無いが、監視されている事がひしひしと分かった。
ほどほどにして切り上げて屋敷で稽古を行った。馬の世話等、普段行っている事を一通り行った。その後で皆と食事をし、見た目は普段と同じ行動を行った。
ナンシーをゲートでギルドに連れて行き、ギルドマスターに奴隷商人の事は伏せて、さる情報筋より入手した情報として良くない状況と、ナンシーが当面出勤出来そうに無い旨を伝えた。暫くの間他国に身を潜めるつもりだと伝えると、何やらナンシーに一筆書いた書類を、封筒に入れ封をして渡していた。
ギルドでも異変を感じており、注意を払うという。
ギルドから直接奴隷商にゲートで向かい、屋敷の外出メンバーには出発の準備を行って貰らう。各自の装備以外でテント等、俺が強化した物は全て持ち出しの指示し、出発の準備を行った。屋敷組に今日の内に、撤収出来る準備完了するようにお願いしておいた。
奴隷商にゲートで入ると、奴隷商の主の部屋に向かった。主人には予め転移で直接来ると伝えておいたが、既にトマスと、その婚約者が待機していた。
トマスと握手をして早速欠損の修復を行い、無事修復を終えた。
奴隷商に、次回のオークションの参加はナンシーと俺とセレナで各々申し込んでおいた。セレナについては、変化後を見せているので大丈夫だろう。
転移しても良い場所を確認しておいた。
ついでに目玉になる娘と面談した。
確かに見目麗しいが、やはり子供だ。面談室に通された後、黒髪黒目でひょっとして日本人か?そう思い、カマを掛けた。
「俺はS級冒険者の藤久志郎と言う。君は西暦何年生まれだ?俺は岐阜県出身だ」
そう言うと一瞬ドキリとした表情をするも
「西暦とはなんでしょうか?岐阜というのはどの辺りでしょうか?訪れた事はありません」
言葉を選んでいる。あらかじめ嘘は禁じられている。普通は聞いた事の無い地名や、知らない地名等と答えるだろうし、日本人だと知らないわけが無い。47都道府県は既に習った年齢だ。
「噂通り頭が回るようだね。言葉を選んでいるのが分かるんだよ。イエスかノーで答えて欲しい。君は俺と同じ国の出身だろう?イエスかノーか?」
彼女は強張ってイエスと言わざるを得なかった。
「次回のオークションにて、俺か俺の妻達が君を落札する。一緒に付いてこい。同郷だし助けよう。君はこの世界に来て何年だ?俺は転移させられて34日目だ」
その様に尋ねると彼女は涙を浮かべて色々語り出した。
三年前にこの国に召喚されて、一緒に召還されてきた者達は皆流行病であっという間に死んでいったと。自分は死を偽装し、何とか逃げ出した。しかし、逃げている道中、盗賊に捕まり、金になると思われ奴隷商に売られたと。
時間軸がおかしかった。彼女が転移させられたのは、俺達が転移した三ヶ月後で、俺達の転移は画像も出回っていて大混乱になったという。俺が45歳と言うと、一人サラリーマンが一緒に巻きこまれたという動画も見たという。俺よりも未来から来て、過去に飛ばされている。
彼女は 谷村 水樹
転移時は小学校五年生で、79人全てが自分より低学年の生徒だったという。
術式が失敗して低年齢層の召喚になったのだろう。
抵抗力がなさ過ぎて、この世界の環境に体が適合出来なかったのだろう。可愛そうに。それでもこの子だけでも救ってやりたい。強引にここからゲートで逃げる手もあるが、それは民間レベルで逃亡者になる事を意味する。
ギフトはダンジョンマスター
。どうやらダンジョンを作ったり支配できるようだ。俺の持っているコアも役に立つかな?
それと収納は0.5トンだった。
一応記憶を失っていて、体付きなどからどこかの元貴族の娘との扱いになっていた。
彼女と握手をしたが幻影が見えた。
大人になった彼女とダンジョンに挑んでいた。歳は18から20だろうか。恋人か妻だった。少なくともそう言う距離感に感じた。
うーん凄まじく綺麗だった。今も子供とは言え将来有望と思える外観だ。成長した彼女はボン・キュッ・ボン。
俺の傍らで、俺になにやらアドバイスを行っていた。どうやら知恵袋的な存在だと感じ取れた。数年後の彼女なら俺のどストライクだ。光源氏計画スタートかな。
それはさて置き、彼女が18歳以上という事は、つまり数年後も彼女は帰れない。逆を言うと俺も帰れていない。そういう事だろう。
別の考え方だと、二人共数年後は生きており、少なくとも数年後の時点で二人は自由だと言うのが読み取れる。
今不穏な動きがあるが、仮に今拘束されてしまっても、数年後は乗り切っているという事だろう。一緒に居る中にナンシーやセリカや知らない者の姿がちらっと見えた。数年後も彼女達と一緒と言う事だな。
水樹は俺と同じく驚いていた。
俺の隷属の事を説明して、一旦俺の奴隷にしてあげた。隷属の首輪が外れてしまったので、カモフラージュで何とか装着して、一度魔力を強く込めると破壊されるアイテムに作り替えた。何故か思ったら出来た。
水樹は幻影というか、予知を見たのもあるが、俺の庇護下に入る事を望んだ。こっそり、どら焼きの様な甘味を出してあげて食べさせたら喜んでいた。
念の為ステータスを偽装した。これには彼女が召喚者と分からない様にする為だ。
一応他の奴隷も見るもこれと言ったのはいなかった。見た目は綺麗な娘ばかりだが。
奴隷商から屋敷に直接移動した。
妻達には水樹と接触した時の幻影を話した。数年後は生きていて皆一緒だから、何が有っても諦めず頑張ろうと。それと13才の娘を、オークションで奴隷引換券を使い購入する事。ひょっとして、その子も異世界からの転移者で有ると伝え、ちゃんと守ってやって欲しいと、家族になってあげて欲しいと涙を流しながら頼んでいた。
馬車小屋にゲートを出し、皆を移動させて、そこから旅の続きへと移動した。屋敷には最小限のメンバーのみとなり、俺達は隣国を目指した。
移動開始時、セレナに伝える必要の有る事を伝えた。
幻影の事で、日本に帰る希望がかなり薄い。少なくとも数年先はこの世界に居るはずの幻影だったと伝えた。
彼女は泣きながら
「もう貴方と人生を歩む覚悟をしているの。貴方が居る場所が私の居場所なの。だから、一緒にこの世界で生きていきましょう」
お互い抱き合って暫く泣いていた。
その間も粛々と馬車は進んでいった。
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