第13話 今後の事と風呂の使い方
宿に戻ったので明日の事について考えてみた。
これからこの世界で生きていく為に
考えなくては行けない事は
1 お金の事 今有るお金はいずれ尽きる。収入源が必要
2 強さについて お金に困る事が無くなったと仮定してだが、この世界で生きる為には単独でも、先の盗賊団位は余裕でねじ伏せる強さが居る。お金を持っていれば押し入り強盗等も多い世界としか思えない
3 俺の事について 過去の記憶がおかしくなってきている。記録に残しておかなければ忘れてしまいそうだ。又、信用できそうな人に俺の秘密を伝え、生きていくサポートを求める必要が有る
4 文字 この世界での識字率がどれ位かは分からないが、食堂の店員の様子からは、字が読めない事に対して驚いた様子が無かったから、普通の事なんだろう。出来れば早急に覚えたい
5 シェリーの事 まだ知り合ってから2日。尤も俺がこの世界にきてまだ一週間も経ってないのだが。奴隷ってどう扱えば良いのだろうか?まずは奴隷がどんな制度か理解しないと。出来ればシェリーの事は奴隷じゃ無く普通の女性として扱いたいが、彼女がそれを拒否している素振りが有る。可能かどうか分からないが、単純に奴隷から解放するだけの問題ではなさそうだ。面倒だな。
何をするにも先ずは生きていく為の力を付けて貰う必要が有るな。
幸いゲームのようなふざけたレベルの概念が有るので活用しよう。
6 王女について 当面の大きな目標は王女を懲らしめる事。とっ捕まえてけじめを付けさせてやる。出来れば奴隷にしてやり、俺が味わった死の恐怖を知って貰いたい。
とこんなもんかな。シェリーと相談してみよう。
宿に戻り、早速1のお金の事について聞いたが、シェリーは「冒険者はどうか」と言った。そう言えば門番も冒険者について何か言ってたな。
冒険者は依頼を達成する事で対価を得る。
大きく分けると、魔物等の討伐依頼、今回奴隷商が襲われたが冒険者が受けていた護衛依頼、薬草や貴重な資源や植物の採取依頼があるそうだ。
薬草等は、ギルドや道具屋等で買い取って貰える。
魔物は討伐すると、ギルドで討伐証明を換金できる。ギルドや道具屋等で魔石を売ればそこそこ良い稼ぎになる。そう言えば、冒険者の手引きにも書いてあったな。
次は通貨について聞いてみた。
単位はゴールド又はG。
相場は宿屋の従業員に聞いた。この国に来たばかりでこの国の相場が分からないと聞くと、少し教えてくれた。
恐らく召喚者が備えていると思われる翻訳能力がそうさせているのだろう。翻訳能力が無ければ会話ができている事に納得が出来ない。お金の呼び方も本当はもっと別なんだろうな。
硬貨は鉄、銅、銀、金、大金、白金があり、
1銅貨=10鉄貨
1銀貨=10銅貨
1金貨=10銀貨
1大金貨=100金貨
1白金貨=100大金貨
普通の生活をするのには、月に金貨10枚位で済みそうだった。
宿屋も安宿だと一泊しても3000で食事は一般的なお店で、昼食を食べると一人につき500~1000G位だそうだ。
ややこしいので取り敢えず1G=1円と脳内換算をしてみる。
つまり1金貨は1万円、1銀貨は1000円相当かな。白金貨1億って見る事はないんだろうな。
そう言えば、自分も少し臭っている自覚が有ったが、実際問題シェリーの方が臭いが強い。しかし、とてもじゃないが年頃の女の子に臭うよとは言えない。奴隷の扱いが酷いのだろうが、先ずは綺麗さっぱりにしたい。
お風呂のお湯を張ろうとしたら
「私がやりますのでランスロット様はお休み下さい」
「お風呂の使い方が分からないから教えて欲しいのと、自分でも出来るようになりたいからさ」
そう言うと、渋々とだが一緒に風呂場に入れてくれた。
水は水道が引かれているので、蛇口を捻れば出るのだが、お湯はお湯を作る魔道具に魔石を入れるか、魔力をつぎ込むとの事で、シェリーの場合魔力を全て注ぎ込んでもぬるま湯にしかならないそうだ。
普通は自前の魔石か、宿の受付で魔石を購入するのだそうだ。
照明の分は宿代に含まれているので宿の方が毎日魔石を入れているとのこと。照明はゴブリンの魔石で1日分になる。お風呂で使う魔石は金貨1枚と結構値が張る。お風呂が有る宿は少ないのだが魔石の値段から魔力の強い上級魔道師や宮廷魔道師、お金に余裕の有る商人や貴族位しか日常的には使えないんだそうだ。安宿には風呂場は無いそうだ。
お風呂の作りは、洗い場は1坪位の面積で、木製の浴槽が置かれている。
浴槽にお湯が張れるように、水と魔道具からの蛇口が有った。風呂場にはタライも置いてあり、普通の人は桶にお湯を入れてそれで湯浴みをする位。
因みにゴブリンの魔石だとお湯を30秒位しか出せず、普通の人の魔力だと、精々桶にお湯を入れても2~3回入れられるかと言った量だそうだ。
取り敢えず魔道具に手をかざし魔力を流してみるとぐいぐい魔力が無くなる感覚が有ったが、程なくチャージ完了を知らせる光が発せられ、それを見たシェリーが
「えっ!えええ」
驚いて俺の手を握ってきた。
シェリーにお湯を入れるようにお願いして操作して貰ったが、何の事は無く蛇口を捻るだけだった。
暫くしてお湯が貯まったと、シェリーが伝えてきたので、今後についての考察を一旦中止した。
「それじゃあ先に風呂入ってね」
そう伝えたが、
「そんなのダメです。ご主人様を差し置いて湯浴みならまだしもお風呂は頂けません」
「今少し考えを集中したいし、夜は早目に寝たいから先に入って貰わないと俺が困る。俺の我が儘だからさ、先に入って」
と諭しても、ジト目でこちらを見つめてくる。
「長目に考え事をしたいからゆっくり入るんだよ」
そこまで言うと、渋々とだが先にお風呂に入ってくれた。
その間に仕事用の手帳を取り出し、今覚えている地球での事を思い出しながら書き込んでいく。
転移した日付。これも分からなくなっていたが、まだ電池が残っているスマホのカレンダーから分かった。家族の連絡先も発信履歴と電話帳から控えた。妻の名前もスマホから出てきた。
妻の名は直子。
子供は上の子が中3の女の子で名前はさゆり。
下の子は中1の男の子で雄高。
子供の年は何となく覚えていたが、名前が出てこなかった。スマホの登録にある名前を見て、そういう名前だったような気がしてきた。
少なくとも、自分に子供が居る事だけは思い出せた。
そして自分の年齢もスマホのプロフィールから拾った。
色んな事が曖昧になってきた。取り敢えず生年月日と転移した日付と、その時の元の年齢、ステータスカードの年齢を記載し、転移後記憶が曖昧になってきていると記録を残す。こちらでの日付と転移日、書き記したのが転移後4日目と。
所属していた会社の事も忘れてきた。
名刺や手帳の記録から何となく思い出してきたが、いずれ記憶から無くなるのだろうな。
10人の部下を抱えて、設計と試作を行っていた。作っていたのはスポーツ向けの折りたたみ自転車のフレームだった。
大ざっぱな自転車の図面を書く。ゴムチューブとホイールの設計は得意じゃ無いが、基本は押さえていた。そう遠くない間に記憶から無くなる可能性が高いので、今後の事もあり残しておいた。
自宅の住所も記録した。18歳の時の記憶は、はっきりしているので最悪18歳まで記憶が無くなる可能性があるからだ。涙が出てくる。自分が今まで生きてきた全てが否定されているようだと。その思いも残した。
そうこうしているとシェリーがお風呂から上がってきた。これから夕食があるからか、今朝買った服を着ていた。
髪も綺麗に洗われた為、今まではぼさぼさで小汚かった髪が綺麗になり、顔の汚れも取れた。元々可愛いと思ってはいたが、天使か!と思うほどの少女がそこに居た。
俺も風呂に入る。体を洗うと結構汚れていたんだなと感じた。そうしていると突然
「失礼します」
とバスタオルを巻いただけのシェリーが入って来て俺は固まった。着痩せするのか胸は意外と有り、双丘が存在を大きく主張していた。谷間についつい目が行ってしまうのは男の悲しい性だよね。
「お背中お流しします」
そう言い、返事をするまでも無く俺の手からタオルを奪うと、背中を洗いだした。前も洗おうとしたので、背中を洗ってくれたお礼を言って、前は自分で洗うからと固辞したら大人しく出ていった。
お風呂を上がり脱衣場に行くと、バスタオルを手にし待ち構えていたシェリーが居た。
「お体をお拭きします」
俺は固まってしまったが、辛うじて背中を向けた。背中だけ拭いて貰い、後は自分でするからと追い出してしまった。
服を着て部屋に戻ると、シェリーが泣いていた。
「どうしたの?」
「ランスロット様は私の事が気に入らないので、捨てられるのですか?このまま何処かに売られるのでしょうか?」
シェリーは震えていた。
どうやら奴隷の教育で、女性の奴隷はご主人様の入浴のお世話をし、全身を洗い体も全て拭き取る等、尽くす必要が有る。ご主人様の寵愛を得ないとすぐに捨てられると、教え込まれているようだった。
シェリーの受けてきた扱いが分からなかった為、意図せずに不安にさせてしまったようだ。奴隷にとって主人から捨てられるというのは、死活問題なのだ。次に売られていった先の主人はもっと酷く、命を奪われる恐れが高くなる等、自分の命に関わるから必死なのだ。
取り敢えず、シェリーを抱き寄せて
「不安にさせてごめんね。シェリーの事は絶対に捨てないよ。今まで奴隷と接した事が無いから、俺もシェリーとどう接したら良いか分からないだけだよ。もう食事の時間だから、その後で今後の事や奴隷制度の事等を教えてね。色々お話をしようね」
そう言ってから食堂に向かうよう促した。
シェリーに食事について釘を刺した。
「俺は奴隷とも同じテーブルに座って、一緒に食事をする事を求める。奴隷メニューを禁止する」
そう伝えたらまた泣き出した。うーん。
抱き寄せて頭をなでてやったら、頷いて理解した旨を伝えてきた。食堂に向かうがシェリーは俺の服を掴んで、よろよろと着いてきた。なんか餌付けしたペットみたいだ。
食堂は結構混んでいる。ただし、宿泊者専用席に空席が有ったので、そこに席を確保し、注文を行った。俺には分からないのでシェリーに注文をお願いした。注文したのはホーンラビットのステーキ定食。
あっさりしていて肉も柔らかく美味しかった。何より美味しそうに、幸せそうに食べるシェリーの笑顔が眩しかった。この子の笑顔を守ろうと心に決めた。宿泊者サービスで半額だが、銀貨2枚だった。
食事をして部屋に戻り、これからの事について話をしなきゃなと思いつつ食堂を後にするので有った。
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