第17話 天才魔法使い、事情を話す
中にいたのはデルガンダ王国の陛下とマルクス王子、ストビー王国のラエル王女とその妹のリエル様、魔族の長である魔王様とその妻のサリィさん、そしてリントブル聖王国のエルミス王子と勇者ロイドである。誰が聞いても驚く面子だ。
そんな中で真っ先に口を開いたのは陛下だった。
「リク殿、シエラ殿がどこかへ行ったと言っておったが大丈夫だったのか?」
あぁ、それで転移魔法で移動したのが見つかって帰って来た時に皆がいたのか。
「ご心配をおかけしました。少し賢者の村まで行ってまして……」
僕の言葉にエルミス王子が首を傾げた。
「なぜそんなところに? 僕はあの場所には何もないと聞いていますが……」
あれ? あんな変な扉があったら賢者の一族と繋がりがあったリントブル聖王国の人間も当然知っていると思ったんだけど。そう思ってちらりとエリンの方を見る。
「あの扉は賢者の一族にのみ伝えられていたものと聞いています。だから他の人間には伝わっていないのではないですか?」
なるほど。というかそんな情報が洩れていたら既に扉ごと破壊されるか封鎖されているに違いない。ゼハルが気付いてなかったらしきことが唯一の救いか。
話を理解していない僕とエリン以外の者を代表してラエル王女が口を開いた。
「リク、その扉と言うのは?」
そう言われて僕はもう一度エリンの方を見た。扉の説明をするにあたって、エリンから聞いた話をするかどうかである。僕個人の意見としては、エリンが言いたくないと言えば扉を知った事情を省くだけなので正直どっちでもいいと思っている。
「別にいいですよ。その方が説明しやすいと思いますし」
「ありがとう、エリン」
そう言ってくれたので、僕はエリンから聞いた話と賢者の村へと向かい見知ったことを全て話した。
「それじゃあ、お兄ちゃんって賢者の……」
「らしいね」
「らしいねって……。そんな他人事みたいに……」
いや、そんなこと言われてもそんな事情知らずに生きてきた訳だし、実感が全くないと言うのが正直な感想だ。
「エリン、リク様の着ているコートって作れる?」
「作れるかもしれません。でも、それをしても意味がないと思います」
そんなエリンの言葉に、僕を含め全員が首を傾げた。もしそんなものがあれば闇霧の中でも自由に行動できるわけだし、すごくいいと思うんだけど……。
「例えあの霧を耐えられたとして、リク以外に魔物に対抗できる者がいると思いますか?」
そんな言葉に沈黙が降りる。ちょっと辛辣すぎる気がするが、誰も何も言わないという事はそう言う事なのだろう。……いや――。
「エリン、あそこにあった武器を使えばどうにかなるんじゃない?」
「どうでしょうか……。扱えるかどうかわかりませんし、そもそも武器がどのような性能か分からないのでなんとも……」
確かに。僕は普通に魔力を流せたけど、他の皆が同じように扱えるかは分からない。というか今現在皆が使っている武器より強力かもわからない。ゼルたちの装備を見る限りそれなりのモノを使っているようだし。まあ、武器の事情に明るくない僕の偏見なので、そもそもそれが正しいかどうか怪しいものだが。
そんなことを考えていると、ふいに裾が引っ張られる。
「りく、武器って何?」
「あぁ、ごめんごめん。最初から説明するからちょっと待ってね」
完全に皆を置いてきぼりにしてしまった。顔を上げると皆が面白いぐらいに首を傾げている。本当に申し訳ない。
「じゃあ、取り敢えずエリンから聞いた話から――」
そんなこんなで僕は説明を始めた。エリンから聞いた僕の出自を含めた賢者の話、そしてその後僕が賢者の村の跡地へと向かって見つけたものの話だ。
話を聞き終えて真っ先に口を開いたのはエルミス王子だった。
「すみません、知らなかったとはいえ僕の国が……」
「いえ、気にしなくていいです。今更何をしたって元には戻らないのですから、今は現状を解決するのが優先です」
「……そうですね。リクさんも、すいません」
「僕もエリンと同意見ですよ。現状解決の方が優先事項だと思います」
というか謝られたとしても、エリンには悪いけれど僕には賢者の一族という実感がない。僕は気が付いた時には村で生活していて、賢者の話なんて全く聞いていなかった。いや、それは多分村長が僕の母親の思いを受けてのものだと思うけど。エリンの話を聞いてから思ったのは、僕の母親の手紙を拾ったのは間違いなく村長という事だ。湖が蒸発した時も、魔力の込める量を間違えて農具が壊れた時も、夜中にこっそりと抜け出していた時も村長が誤魔化してくれたし、村長だけが心配してくれていた。村を出るときに親切にしてくれたのも村長だけだ。
それに、エリンの仕組んでくれた魔法陣。あれが無かったら多分今頃生きていない。そして、エリンが僕の魔力を利用して発動するようにしたあの魔法がきっかけで自分が魔法を使えることに気が付けた。
「エリン、ありがとう」
「……突然どうしたのですか?」
「いや、多分エリンが仕組んでくれた魔法陣が無かったら死んでたなと思って」
「気にしないで下さい。私がやりたくてやったことですから。それに、リクの事はガレムに頼まれたので。結局はリクは私が守る必要がないぐらいの才能があった訳ですけどね」
エリンはそんなことを言うが、もう既に一度守ってもらっているわけで、今の僕はエリンがいるから自由に魔法が使えている。というかエリンの精霊魔法のお陰でかなり快適な生活を送れているし、もう十分過ぎるぐらいエリンには助けられている。
そういえば初めて会った時、僕の事を守ると言ってたっけ。エリンと会ってから随分と経つけど、今になってようやく合点がいった。
さて、ここからが重要だ。
「りく、そのてちょうにはなにがかいてあるの?」
そう、僕の手にある手記の中に何が書かれている内容によっては過去に何があったのか、もしかしたらゼハルを封印する方法だって分かるかもしれない。
そう思って手記を開いた僕に、魔王様が声を掛ける。
「リク、文字は俺たちが使っているのと同じなのか?」
「同じみたいです」
これで読めませんでしたとか笑えない冗談だ。
「読めなかったらギルドマスターに頼るしかないな」
陛下のそんな言葉に、僕の頭の中にはてなマークが浮かんだ。
「陛下、ギルドマスターはどうしているのですか?」
「儂たちがここでこれからの方針を話し合っている間、人間と魔族が争わないように動いてくれておる」
またストレスがかかりそうな仕事を……。ギルドマスターの仕事も楽ではなさそうだ。彼らを早く楽にしてあげるためにも早く終わらせないといけないな。
手記に目を落とすと、こんな一文から始まっていた。
”私は人々に大賢者と呼ばれている存在だ。この世界が変わってしまう前に、私の記憶が書き換えられてしまう前に、真実をここに記す”
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