第16話 天才魔法使い、合流する

 僕らが戻ってくると、そこには仁王立ちしたリリィがいた。顔を見る限り怒っているようではあるが、お世辞にも迫力があるとは言えない。というか全くない。そんなリリィを見た僕の頭の中で、怖いと言う言葉よりも先に可愛いと言う言葉が頭をよぎったぐらいだ。



「りく、どこにもいかないっていった」


「えっと、うん。すいませんでした」



 僕がいなくなったのに気が付いたのは多分シエラのせいだろう。言い訳しようとも思ったけど、ここは素直に謝った方がいい気がした。

 ちなみに、リリィの後ろにはいつもの面々が揃っている。



「お兄ちゃん、病み上がりなんだから少しぐらいは自重を……そのコートどうしたの?」



 ……説明すると長くなるし面倒だな。というか話の内容的に他の皆にも周知しておいてもらった方がいい気がする。この時、密かにルカの口から自重と言う言葉が出てきたことに驚いたのは内緒だ。



「後で説明するよ。それで、陛下たちってどこにいるか知ってる?」


「それなら私が知ってるから案内する」



 なぜアイラが? と思って聞いてみると、僕の看病の傍ら食事を作るのを手伝っていたらしい。それも王族の。随分と出世したようで僕としては喜ばしい限りだ。まあそれはさておき、そのついでに僕の容態も報告していたらしいので場所は分かるとのこと。

 ……あれ? シエラも働いてくれてたんじゃなかったっけ?



「妾が知っておるのは牢の場所ぐらいじゃ。魔族の中には妾を怖がるものもおるから、あまり表立ったところには行っておらんのじゃ。他のドラゴンのこともあるし仕方ないのじゃがな」



 ……他のドラゴン?



「エリンから聞いておらんのか? ガノード島のドラゴンも全てこの島に来ておるのじゃ」



 それって完全にこの島のキャパシティを超えている気がするんだけど。というかそんな数のドラゴンの食事何て用意できるはずが――いや、そういえばあったな。この島にはガノード島周辺と同じような食料がある場所が。



「主様の察した通りじゃ。港の者は怖がるどころか歓迎してくれておるのじゃ」



 漁に出れなくなるような原因を嬉々として狩ってくれるのだから、感謝する気持ちは理解できる。

 それよりもあの闇霧とやらはガノード島まで及んでいたりするのだろうか。……いや、あれからエリンはここにこもりっぱなしって言ってたしそれは分からないか。



「それでアイラ、皆がいるのってどのへんなの?」


「お城の中。エリン、城の前まで転移魔法で移動させてほしい。街に出るといろいろ面倒だから」


「いいですけど……面倒?」



 そう言いながらエリンは目の前に街の様子を映し出した。

 それを見る限り、人間と魔族は和解できているわけではなさそうだ。まあ、真実を知ったところで相手への嫌悪が消える訳ではないので仕方ないのだと思うけど。人間が生活する空間と魔族が生活する空間ははっきりとした区切りこそないものの分かれており、街は人と魔族であふれかえっている。完全に住居が足りていない。というかこんな混沌とした状況で争っている様子がないことが奇跡だと思う。エリンがその視界の高度を上げると、街の外にテントを張っているのが見て取れる。それもかなりの数。人口密度とか計算したら凄い数字が出てきそう。



「これは仕方ないですね」



 エリンは納得気にそう頷くと、僕らを城の中へと移動させた。

 僕らに驚いて駆けよってきた魔族の兵士に事情を簡単に説明しておく。城内を見渡すと、兵士の種族は人間だったり魔族だったりしている。王の命令かは分からないけれど、見た感じ険悪と言う訳ではなさそうだ。さて、アイラに案内してもらおうと思ったその時、ふいにコートの裾が引っ張られた。



「りく、りりぃもそれやりたい」


「それって転移魔法の事?」



 そんな言葉にリリィはコクリと頷いた。



「なんで?」


「つぎはりりぃもついていきたいから」



 いやそれは流石に危ないから出来ないんだけど。というかそんなことしたら魔王様に怒られそうだ。



「リリィちゃん、それでもお兄ちゃんについて行くのは危ないと思うけど……」


「でもおかあさんはつよくなったらりくといっしょにいられるっていってたよ?」



 そう言いながらリリィはコテンと首を傾げた。まあ、サリィさんがそう言っているのならば別に精霊と契約させるのがいけないと言う訳でもないのだろう。というか魔法の扱いが上達するのだから、リリィの身の安全のためと言えば魔王様も納得する気がしなくもない。



「リリィ、取り敢えずそれは魔王様とサリィさんに話してから決めることにしよう」


「おとうさんとおかあさんがいいよっていったら、りりぃもりくとおなじことしていいの?」


「うん、いいって言ったらね」



 それはともかく。



「エリン、この場所だと精霊呼び出すのに結構な魔力要るんじゃ……」


「いつか見たリリィの魔法から察するにそれぐらいなら問題ないと思います。ストビー王国の王女とその妹はかなり苦労していたと精霊が教えてくれました」



 そう言えばそんな話もあったっけ。ラエル王女とリエル様の件については、リントブル聖王国の人間から話を聞き出すのに精霊の力を借りたのだろう。……ということはストビー王国で出来た弟子のフェリアも手伝ったりしたのだろうか。

 そう思ってエリンに聞いてみると、



「精霊の力を使ったのはほとんどその子だったそうですよ」



 とのこと。初めて精霊を呼び出した時はすぐにばてていた記憶がある。多分だけどかなりの努力をしたのだろう。

 そんな会話をしながら歩くと、少し離れたところに気品のある扉が見えてきた。



「……ここ来たことあったっけ?」


「リク様は無いと思う。大きな問題が起こった時に魔族が集まる場所らしい」



 ……会議室みたいなものかな? そういえばデルガンダ王国にもそんなのあったな。僕も何度か顔を出した記憶がある。

 そんな扉に近づくにつれ、その扉の前に見知った人間が立っていることに気が付く。



「「「「師匠⁉」」」」


「久しぶりだね、四人とも」



 こんな場所の護衛を任されるとはずいぶんと出世したものである。というか装備が明らかに高価な品になっている。見た感じ兵士しか見えず、冒険者だとは思えない。久しぶりの再開に少し話をしたかったが、今はそれよりも優先すべきことがある。



「中には陛下たちが?」



 そんな僕の質問にゼナが答えてくれた。



「はい。四つの国の王とその臣下が集まっています」



 4つ? ……あぁ、地下に閉じ込められてたリントブル聖王国の王子の事か。確かエルミスって名前だったはずだ。過去にこんな規模の会議があったのだろうか。いや、今更こんなこと考えても何も始まらないか。



「ゼナ、これって僕らが入っても大丈夫?」


「はい。師匠が来たら通すように言われてますので」



 じゃあ早速……。そう思って扉に手を掛けようとしたとき、ゼルが声を掛けてきた。



「体はもう大丈夫なんですか?」


「うん、どうにかね」


「俺たちはデルガンダ王国であれ見てたけど、師匠が倒れた時は本当にこの世界終わったと思ったんだぜ?」


「いやいや。ヴァン、僕が倒れたぐらいで世界は終わらないから」



 そんなどこか能天気な言い草のヴァンとは違い、ユニは随分と深刻そうな表情をしていた。



「でもあれは、師匠じゃないと、倒せない、と思います」


「善処はするよ。このまま全滅とかそんな結末誰も望んでないだろうし。何より――」



 扉に手を掛けて押すと、ギギィという音を立てて扉は開かれる。



「こんな状態じゃ旅なんか出来ないしね」



 扉が開かれると同時に、中にいる者の視線が一斉にこちらへと飛んできた。

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