第04話 天才魔法使い、勇者を救出する

 勇者の事情を聴いた後、僕らはエリンの転移魔法でデルガンダ王国へと移動してきた。



「陛下、そう言う訳なので暫くの間ルカたちを預かってもらえませんか?」


「それは構わんが……リク殿がそれほどいう相手なのか?」



 そんな真剣そうな顔で言われてもうんともすんとも言えないというのが本音である。正直に言ってしまえば、数で押し切られるようなことがあればシエラとエリンは別としても、アイラとルカを守り切れる自信が無かったのだ。まぁ、それ以上に何が起こるか分からないという恐怖もあるので一概に理由がそれだけとも言えないんだけども。



「それで、ロイド殿のその姿は……」


「リクが来るまでいろいろあって牢獄に放り込まれていたんです。陛下、簡易なものでいいので僕に武器と防具を貸していただけないでしょうか?」


「あぁ、すぐに準備をしよう」



 さて、その間に――。



「リク様?」


「お兄ちゃん、どこに行くの?」


「すぐに戻って来るよ。シエラはその間みんなを宜しく」


「了解じゃ」



 エリンとはちょっとした作戦……といえるようなものではないけど、ちょっとした策を練っておいた。シエラの方は僕の心を読んで察してくれたのだろう。どの道アイラとルカにも直ぐに分かることなので、今は時間を優先させてもらおう。ロイドを連れて来てしまったので、あまり悠長にしていると気づかれてしまう。

 僕はすぐにエリンと共に移動した。





「ロイド、準備は――」


「僕は大丈夫だ」


「それでその手に持っているのは?」


「一応、レイスとモンドの分も持って行こうと思ったんだ。先に言っておくが、多分二人も僕と同じことを言うと思うぞ」



 要は自分も連れて行けと言う事か。う~ん、アイラとルカを置いていく意味がなくなった気がする。まぁ、仮にも勇者と呼ばれている存在なんだし大丈夫か。……もし危なそうならエリンの転移魔法で強制的に他の場所に送り付けよう。

 一応、その武器と防具は僕が預かってアイテムボックスに入れておいた。



「じゃあアイラ、ルカのことよろしく」


「分かった。ちゃんと面倒見とく」


「ねぇ、その子ども扱いいつになったら直してくれるの?」


「「ルカが(精神的に)大人になったら」」


「でも、アイラより私の方が年上なんだけ――」


「エリン、お願い」


「分かりました」


「ちょ、ちょっとお兄ちゃん! 私の話を最後まで――」



 時間がないのだから仕方がない。そう、決してルカをからかって面白がっていたわけではない。





 そんなこんなでロイドが捉えられていた牢屋の中。



「シエラ、他の人が何処にいるか分かる?」


「どこに人間がおるのかは分かるのじゃが、勇者がどれかは分からんのじゃ」



 とのことなので、エリンに頼んでシエラが人がいると言った方向を探してもらった。いつものエリンならこのタイミングでシエラに何か挑発的なことを言うのだろうが、空気を察してか何も言わなかった。

 この間のように四角い光に映像が映し出され、次々と切り替わっていく。何というか、牢獄の中の様子がひどすぎてあまり見たくない映像が3回に1回ぐらいの割合で映し出されている。それを続けて3分後には二人の勇者を見つけ出した。



「リク、私たちが行きますか? それともこちらへ転移させた方がいいですか?」


「こっちに転移の方でお願い」


「分かりました」



 すると僕らの身長より少し高い位置に二つの魔法陣が作り出された。……あれ? いつもなら地面に作るのに、今日はどうしたのだろう。そんなことを考えていると、魔法陣から二人が落ちてきた。



「いてっ」


「いたっ」



 僕らがストビー王国へ行ったときに攻撃されたことに対する、ちょっとした嫌がらせなのだろう。……多分。規模は全然違うが、ストビー王国が魔物に襲われていた時も同じようなことをしていた気がする。



「ここは……」


「……ロイド⁉ こんなこと出来たのかい?」


「いや、二人を連れて来てくれたのは後ろの三人だ」



 二人は後ろにいる僕らの方を見ると、少しばつの悪そうな顔をした。



「その……この間は悪かったわ」


「何も考えずに行動してしまった。すまない」



 いや、別に被害受けてないし気にしてないんだけど。寧ろそちら側の被害の方が心配である。さらに正直に言うと、僕よりもリリィに謝ってもらいたいところである。



「私は別に構いませんよ」



 ちょっとやり返したことを知っている僕から見ると、別にそう言っても素直に許したようには見えない。



「妾は……そうじゃな――」



 要求するものを考えるな。



「じゃ、じゃが主様よ、その羽虫だってやり返して――」


「私は何もしていませんよ?」


「嘘を吐くでない! 今の転移魔法絶対わざとじゃろ!」


「あれはちょっと失敗しただけです。リクも失敗することもあるんですから、私にだってあります」



 いや、あれは明らかに確信犯だと思う。エリンが転移魔法を使う寸前ニヤリと悪い顔をしたのを僕は見逃さなかった。

 果たしてこんな調子でこの先大丈夫だろうか。僕の旅先史上最大の危険区域なわけだけど。



「リク、取り敢えず二人の装備を出してくれるか?」



 と言われたので素直に陛下に貰った武器と防具を渡した。ちなみに武器はレイスが杖でモンドは短剣である。で、取り敢えず二人に装備を付けてもらったわけだけど。



「本当に来るの?」


「当たり前でしょ! 私たちの生まれた国なのよ!」


「この国のためにこれまで生きてきたんだ。ここは譲れないね」



 まぁ、レイスとモンドがこう言うのはロイドから話を聞いてたから何となく察せていた。察せていなかったとしたらずっと一緒にいたはずのエリンの煽りスキルだ。



「足手纏いになったら真っ先に切り離すのでそのつもりでお願いしますね」ニコッ


「「……」」



 ……空気が重い。エリンの圧力はその体の小ささも相まって大した事は無いのだが、レイスとモンドは初対面の時に大人数で掛かってきてボコられているせいか言い返せずに黙り込んでしまった。いや、別にこの二人は逃げたから何もされていないのだが。

 さてと、彼らの本拠地を探すとしますか。と、意気込んだがロイドから思わぬ声が掛かった。



「リク、悪いがあと一人牢獄から助け出してほしい者がいるんだ」


「それはいいですけど……どんな人なんですか?」


「この国を収めているルトイロ教皇の息子だ」



 ……この国は本当に僕を退屈させてくれない。勿論良い意味ではなく。

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