第05話 天才魔法使い、牢獄で王子に会う

 ロイドの一言によって、シエラとエリンが再び人探しを始めた。シエラが人のいるところを伝え、エリンがそれをレイスとモンドに見せて、二人が本人かどうかを判断するといった具合である。

 僕にはほとんどできることがないので、ロイドに少し話を聞くことにした。



「なんでこの国の王子がこんな所に?」


「その理由は僕も知らないんだ。ただ、王子が牢獄に捉えられているという話は看守が話していたのを聞いたから間違いない」



 王子ってことは教皇が父親だよね? この国、跡取りの事とか考えないんだろうか。というかそんな看守雇ってて大丈夫か? ……いや、勇者が抜け出すことを不可能と判断していたのかもしれない。事実、ロイドの話だと抜け出そうとはしたものの結果的には諦めざるを得なかったみたいだし。



「あれ? じゃあ何でロイドたちは王子の顔知ってるの? 牢獄にいるんだったら会えないんじゃない?」


「王子が姿を消したのは一年ぐらい前の話なんだ。それまでは教皇との様子も普通の親子だったはずなんだが……」



 まあ、話を聞く限り何かあったのは間違いないだろう。それにしても――。



「王子の姿が見えなくなって国民が騒いだりとかは無かったの?」



「僕が話した通り、城の回りにいられる人間はかなり限定されている。それに、各区域を自由に行き来できるのはさらに限定される。騒ぎが起こったとしてもその区域より外にそれが伝わる事はほぼ無い。それとこれは僕の予想なんだが、城に一番近い区域には教皇の息がかかった者しかいない。彼らは王子の姿が見えなくなったことを知っているはずだが、それで騒いでいるところを見たことがないからね」



 僕はその区域に踏み入る前にロイドと合流してしまったから分からないが、多分その予測は当たっている。もし仮に僕が教皇と同じ立場だったらそうする。となると、この国の兵士も全て息のかかった人間だと考えるのが妥当かな。多分だけど、ロイドたち勇者がそうでなかったのは他の国へ行くようなことがあった時にボロが出ないようにするためだろう。



「だけど、なんでこのタイミングで王子を?」


「この国のトップがどんなことをしているかを知れば、確実にこの国は崩壊に向かう」



 国のトップが突然いなくなったり悪さしてたりしたら、その下への影響は計り知れないか。まぁ、そこら辺の事は僕にはさっぱりなわけなのだが。後でルカにでも聞いてみよう。



「それを完全に抑えるのは無理でも、トップの代理を立てれば少しはマシになると思ったんだ」


「それは確かにそうだけど、そんなことをしていた教皇の子供とかだと反対とかあるんじゃ……」


「それはどうだろうな。僕なら反対するよりも、その境遇に同情すると思う」



 要は悲劇のヒーローを演じてもらうと言う話か。



「勿論、王子が拒否すれば強制はしないさ。でも、もし王子が僕の案に乗ってくれるのなら、勇者である僕ら三人は全力で協力する。こんな状況でもここは僕らの故郷なんだ。崩壊を容認なんてできない」



 ロイドはロイドで色々考えているらしい。まだ国が崩壊するなんて話が確定しているわけではないが、備えをしておいて悪い方向には進まないだろう。

 そんなことを考えていると、レイスとモンドが自信無さげな声を挙げた。



「多分この人……だと思う」


「こんな姿になってると自信が持てないわね」



 僕がエリンが映し出している人の方に目をやると、そこには伸びきっていてボサボサの金色の髪、全く光の灯っていない碧眼をした少年の姿があった。少なくとも、国のトップである教皇の親族と言った雰囲気は全く感じられない。そんな姿のせいで正確な年齢は分からないが、髭が生えていないせいかどこか幼さを感じる。



「エリン、ここに移動させてくれる?」


「分かりました」



 エリンがそう言うと、レイスとモンドの時とは違って地面に魔法陣が現れ、光輝いた。それが収まるころには、魔法陣の中に先程まで見ていた少年が目の前に現れた。



「……?」



 何も言わずに無言で首を傾げる少年に、ロイドが優しく語り掛けた。



「僕です、勇者のロイドです」


「ロイドさん? じゃあここは……」



 そう言いながら王子は辺りを見渡す。エリンに転移魔法で移動されられてから全く反応が無かったから内心かなり心配していたが、普通に動き出してくれて一安心である。……いや、エリンの転移魔法に全く気付かなかった時点でかなり重症か。

 そんな王子に、レイスとモンドも声を掛けた。



「久しぶりね、エルミス王子」


「お久しぶりです、エルミス王子」


「レイスさん、モンドさん……」



 二人を見て安心したのか、少しずつ目が潤んでいく。だが、その瞳から涙がこぼれる前に、何かを思い出したように突然目を見開いた。



「ロイドさん、レイスさん、モンドさん! 僕がここに連れられてきた理由なんだけど、実は――」



 そこまで言って、エルミス王子はようやく僕らの存在に気が付いた。だが、正直そんな事よりもその先の言葉が気になるのでスルーしてくれた方が助かった。……いや、スルーしてもらおう。



「僕らのことは気にせず話してください」


「うむ。妾は興味すらもっておらんしな。気にする必要はないのじゃ」



 そういう本音は抑えていただきたい。



「私も助けられて礼も言えない人間になんて興味ないので、お気になさらず」



 いや、そんな言い方されたら凄く気になるから。というか、こんな時まで変に煽るのは止めて欲しい。……この変な空気、どうしてくれるのか。

 皆が口を閉ざしてしまったので、仕方なく僕が口を開く。



「ロイド、僕らのことは気にしなくていいから続けてもらって」


「あ、あぁ。エルミス王子、彼らは信頼できる僕らの仲間です。どうかお話を」


「ロ、ロイドさんがそう言うのなら……」



 そう言うとエルミス王子はちらちらとこちらを見ながら話を始めた。うん、確実に気が散ってますね。真面目な話なのに申し訳ない。

 そんな中してくれたエルミス王子の話の内容を簡単に纏めると、どうやら父親である教皇の悪事の一端を見てしまった事が発端らしい。いや、その時は捕まらなかったらしいんだけど、その後もその悪事を暴くために一人で頑張っていたとのこと。そうしている内に見つかって捕まったらしい。で、問題の王子が見たその悪事の内容なのだが、初っ端の内容から絶句ものだった。



「聖剣が沢山あったんです! 勇者のお三方が使っているのと同じものも一緒にあったので間違いありません」



 自分たちのことだからか、僕ら以上のショックを受けている勇者三人組の代わりに質問をしておく。



「えっと、エルミス王子、その言い方だとその他にも武器が沢山あったみたいなんですけど……」


「え、えぇ。他にも似たデザインの武器が沢山ありました」



 三本しかない聖剣を扱える唯一の存在。勇者ってそう言うものだったはずなのだが、まさか前半が全て偽りだったとは。と言うかここまで来ると、勇者って何? って思ってしまう。だが、流石に放心して分かりやすくショックを受けている勇者三人の前でそんなことを口にする勇気は僕には無かった。

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