第13話 天才魔法使い、慌しく動き回る

 場所はストビー王国。僕はデルガンダ王国の陛下とその周りの人達と共にエリンの転移魔法で移動し、少し歩いてラエル王女のもとにいた。



「――と、言う訳なんですけど、どうすればいいと思いますか?」



 ラエル王女はぽかんと口を開けて固まる。正直、なんかやばい状況だなと思って報告には来たものの、僕も何をどうすればいいのか分からなかったので、取り敢えずデルガンダ王国に向かって陛下たちに事の顛末を簡単に説明した。

 結果、ラエル王女の意見も聞きたいと言われたので、陛下たちと共にストビー王国へと来たのだ。

 暫くして、ラエル王女は我に返る。



「ど、どうすればと言われましても……」



 ですよね。急にこんなこと言われても困りますよね。真面目な話、僕の顔を見て驚いていた魔族を追ってくれている魔王様の部下の報告を待ってからでもいいかなとか途中で思ったのだ。だが、その時には既にラエル王女の元へ行こうということになっていたので口に出せなかった。



「一応、報告だけのつもりだったんですけど、何か動いた方がいいのならと思いまして」


「リク殿、一度話をまとめたい。少し時間をくれんか」


「別に構いませんよ」



 こんな急ぎ気味になっているのは、敵の存在の大きさが不気味だからだろうか。後ろにどこかの国が付いている可能性があったり、戦争している人間と魔族が手を結んでいたり。さらにはドラゴンすら操れるほどの魔道具を所持している。国のトップとしては不安なことこの上ないのだろう。

 そんなことを考えていると、マルクス王子が口を開く。



「ラエル王女、この国のギルドマスターも呼んでもらえませんか?」


「分かりました」



 ラエル王女は近くにいた兵士に指示をして呼びに行かせる。

 後は僕のできそうなことはなさそうなので、夕食までに戻ってくることを告げて皆の様子を見にメノード島へと戻ることにした。





「あれ? 魔王様は?」


「あ! お兄ちゃん! それが――」



 ルカが言葉を言い終わる前に、地面がぐらりと揺れる。



「一体私たちがいない間に何があったんですか?」


「それより先に魔王様の手助けに行って欲しい」



 手助け? 魔王様が手助けを必要としているってどんな状況だよ。そんなことを考えていると、どこかで聞いたことのある咆哮が聞こえてくる。



「ドラゴン?」


「りく、おとうさんとみんなをたすけて! おねがい!」


「リク、ご助力してもらえませんか? お願いします」



 リリィとサリィさんが頭を下げる。状況はよく分からないが、そんなことを言われなくてもちゃんと助けに行く。



「悪いけど、シエラはここに居てくれる? もしもの時は任せる」


「皆を守ればいいんじゃろ? 了解じゃ」



 それだけ言って僕はエリンの転移魔法で城の上空へと移動する。

 目下に広がっていたのは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。黒い霧を纏ったドラゴンが数十匹、街を焼きながら動き回っている。それだけではない。地上には黒い霧を纏った魔物が闊歩していた。

 僕は躊躇いなく手を上げ、一気に振り下ろす。エリンの魔法陣を通過してドラゴンを消し飛ばす。地上にいるのは見える範囲では倒したが、多分これだけじゃ無理だ。シエラ、城の前の広場に出て逃げてきた魔族から結界に入れてあげたりできる? 多分、シエラが結界を張っていたら魔族が入れないだろうから消したり張ったりを繰り返さないといけないと思うけど。



『それぐらいなら大丈夫じゃ』



 ここからでも聞こえるのは僕のプライベートゾーンがほぼないことを意味する。いや、いまはそれどころではない。魔族が全員味方だとは限らないから警戒しといて。後、出来ればでいいから魔王様に魔族を城の方向に避難させるように伝えておいて欲しい。



『了解じゃ』



 さてと。



「エリン、掴まっててね」


「分かりました」



 僕は全力で街中を駆け抜けた。城を中心に螺旋を描くようにだ。出来る限りの魔物を殲滅して、城へと逃げてくる魔族が魔物に遭遇しないようにだ。



「きゃっ」



 目の前で魔族の子供が転ぶ。そんな子供を後ろから追いかけて来ていたのは、黒い霧を纏い、僕が見たことあるよりも一回りも二回りも大きいオーガだ。時間が惜しいので何も考えずに魔法で蹴散らす。



「お城の方に向かって逃げて!」


「に、人間!?」



 あ、やっば。でも子供なら見間違いで済むかも。と、思ってそのまま突き進む。

 エリンは察して僕に魔族と同じような角を付けてくれる。エリンの姿は変わっていないが、僕から離れるとついてこられないかもしれないので、ここは妥協する。



「リク、あっちに行ってみてください!」


「? 分かった」



 エリンに指さされた方向に行くと、見慣れた魔法陣がそこにはあった。



「転移魔法?」


「おそらくこうやってドラゴンや魔物を呼び寄せたのでしょう」



 そう言いながらエリンは陣に向かって手を向けて力を籠める。すると、ガラスが割れるような音共に魔法陣が壊れる。



「精霊ではなく魔道具の類なのでそんなに時間は持たないと思います。恐らくドラゴンを出せるような魔法陣はもうないと思います」



 その後は、魔物退治に加えて、魔法陣の破壊もしながら道を進んだ。





 私の名前はレルア。この国で魔王様の護衛をしている者です。人間とのハーフと言われている私たち一族は昔から虐げられてきましたが、今の魔王様はそんなことを気にせず、私を護衛として認めてくれました。私の生い立ちを気にせず、実力で見てくれたのです。自分でいうのもなんですが、実力はそれなりにあると思います。

 そんな魔王様が、とある客人を連れてきました。妙に親しげだが、一体誰なのでしょうか。一人は底知れぬ不思議な力を感じる男性。もう一人は、何故か聞こえてくる声と口の動きが妙にずれている気がする少女です。よく分かりませんでしたが、後者の方の「黒です」の一言よって一人の魔族を捕縛することになりました。そして、同じくその方の助言で他の魔族を尾行することになりました。魔王様は、もしもの時は力づくでもいいとまでおっしゃっていました。。

 私は、捕縛した者の身の回りを調べ上げる班と、尾行する班に部下を分けました。魔王様の言葉から察して最大限に警戒した方がいいだろうと思い、尾行の班の人数は尾行がばれないぎりぎりまで人数を増やしました。先ほど姫様を攫ったかどうかの質問で嘘をついていると言った少女はこちらをじっと見ている。私たちの価値でも計られているのでしょうか。いえ、今はそれどころではないですね。魔王様に言われた指示を遂行しなければなりません。





「抑えろ!」


「「「はっ!」」」


「な、何だお前らは!」



 建物の地下へと入っていったところを尾行すると、何者かと魔道具で連絡を取っていました。それだけ聞けば問題なさそうですが、使っている魔道具が問題でした。この魔族の持っていた水晶型の魔道具は魔王様の許可なしに持ち出してはいけなかったはずの遠距離の通信が出来る魔道具だったのです。連絡を取っていたということは、相手がいるはずです。そう思い、急いで水晶を覗きました。すぐに消えていまいましたが、一瞬だけ、確かにその姿が見えました。



(人……間……?)



 なぜ人間と連絡なんて取っていたのでしょうか。そんなこと考える暇もなく、取り押さえられていた魔族がにやりと笑う。その笑みに背筋が凍りつく。嫌な予感がした私は部下たちに指示を飛ばしました。



「下がれ!」



 何をしたのかは分かりませんが、抑えられていた魔族が装備していた指輪にはめ込まれた小さな宝石のようなものが光を発した。次の瞬間、外から様々な咆哮が聞こえました。

 私の判断で指輪をしていた魔族を放って、私たちが急いで外に出ると、まず目に入ってきたのは上空を飛び交うドラゴンでした。この前、海上でエンシェントドラゴンと出会いました。遠くからでも神秘的な力を感じる、明らかに私たちとは次元が違う存在だと見るだけで分かりました。ですが、今目の前を飛んでいるドラゴンはエンシェントドラゴンのそれとは明らかに違います。神秘的な力など一切感じなく、寧ろ邪悪さを感じました。

 それ以外にもあたりからは嫌な気配のする魔物が次々に現れました。皆一様に黒い霧を纏っていました。私は部下をいくつかの班に分け、それぞれで魔物の退治に当たることにしました。

 しかし、知っている魔物にも関わらず、異常に皮膚が固かったり、体が大きかったりとかなりの苦戦を強いられました。しかし、次の瞬間、たった一発の魔法で目の前の魔物は姿を消しました。いえ、消されたと言った方が正しいのでしょうか。



「えっと、あなたは確か……レルアさんでしたっけ?」


「は、はい」



 この人は確か魔王様の客人です。名前はまだ聞いたことがないですが、底知れない力は感じ取っていました。ですが、まさかここまでとは……。



「今の状況分かりますか?」



 私は起こった出来事を出来るだけ簡単に説明した。その後、私が尾行していた魔族の建物に行ってくれると言うので、任せることにしました。先ほどの威力の魔法を使っても息一つ切らしていない。恐らく私の想像をはるかに超える実力者なのでしょう。私の部下達も彼の力を察したのか、彼に任せることにした私の判断に反論するものは誰もいませんでした。



「じゃあ、城の方に向かってください。僕は城から螺旋状に魔物を倒しながら来たので、魔物にはほぼ会わないとは思いますが、気を付けてください」



 ……。言葉を失ってしまいました。さらっと言っているが、魔物を倒しながら来たというのは先ほどのような魔物のことなのでしょう。



「じゃあ、また後で」


「あのっ」


「?」


「例の建物はあっちです」


「分かってますよ。でもまだ街の端で隠れている魔族もいるかもしれないので」



 私はここで素直に「そうですね」とは言えなかった。彼がやろうとしているのは本来私たちの仕事なのです。これ以上は私たち……いえ、魔王様の名誉に関わります。

 後ろの部下たちの目を見ると、どうやら同じことを考えているようです。



「それは私たちが代わります。なのであなたはあちらをお願いします」



 一瞬、何かを言い返そうとしたようでしたが、私たちの目を見て無駄だと察したのか、素直に了承してくれました。私たちには譲れないモノがあるのです。



「ではお任せします」



 そう言って、私たちに回復魔法をかけてすぐに行ってしまった。先程までずきずきと痛んでいた傷も今では何の痛みもない。確かに折れていると思ったのですが……。

 その後、彼を引き継いで螺旋状に街を見て回りました。と、言ってもほとんど魔物はおらず、先程まで目の前の敵に必死で見えていませんでしたが、気付けば上空を飛んでいたドラゴンの姿もありません。それに、途中で合流した仲間たちとも協力したので魔物のせん滅にはさほど時間は要しませんでした。その後、私たちは途中で見つけた市民を連れて、状況を把握すべく城へと向かうことになった。彼の手助けに行くことも考えましたが、私にとっては魔王様とサリィ様、リリィ様が守らなければならない第一候補だったのです。



「お姉ちゃんっ!」


「レーナ、無事だったのですね!」



 この子は私の妹だ。部下の手前顔には出しませんでしたが、とても心配でした。

 そんな妹は興奮気味に話をしてくれました。なんでも人間が助けてくれたと言う話です。話によると、魔法で魔物を一瞬で消し飛ばしたのだそうです。私はその話に首を傾げました。ここには魔族と人間のハーフはいても、人間はいないはずだ。ですが、妹の話を聞いていくうちに話が見えてきました。妹の話すその人間の特徴が先程助けられた魔王様の客人とほぼ同じだったのです。私はこんな体のせいか人間に対してさほど悪印象は持っていません。寧ろ、人間側にいればもう少し優遇されるのだろうか、なんて考えたことさえあります。この一件が終わったら魔王様にさりげなく聞いてみましょう。

 それから辺りを探し、魔王様を見つけ出した。



「レルアか。どうやら身動きの取れないものがまだいるようだ。助けに行ってやれ」


「はっ」


「それと、俺の客人を見なかったか?」


「それなら――」



 私は事の顛末を簡単に説明した。

 そして、魔王様の客人の手助け、住民の捜索・救出、ここに集まっている者の護衛の3グループに分かれて行動することになった。私と魔王様は、魔王様の客人の手助けだ。せめて彼の足手纏いにはならないように気を付けなければなりません。私は妹と会って緩んだ気持ちを再び引き締めて、彼に任せた建物へと再び向かいました。

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