第14話 天才魔法使い、怪しげな組織の一端をとらえる

 僕が言われた建物に入ると、そこに人影はなかった。建物と言っても、パッと見建物とは思えないほどに崩壊していた。そのお陰で、地面にある隠し扉のようなものが露わになっていた。これ以上何かをされると困るので、急いで中に入る。暗く狭い階段を階段を使わずに空中を蹴りながら暫く進むと、異常に大きい螺旋階段に出た。下からは不気味な光が見え隠れしていた。僕はそこでも階段を使わず、螺旋の真ん中に飛び込んで真下へ落下した。



「だ、誰だっ!」



 そこにいたのは数人の魔族……いや、人間もいる。それよりも気になるのは彼らの向こう側にあるシエラの元の姿の背丈はあるであろう巨大な水晶だった。その中には黒色の霧のような何かが上空から集まってきている。



「リク、あの水晶の中、転移魔法に似たものが仕掛けれらています。それと、あの黒い霧、ストビー王国で魔法を無効化していた魔道具と同じ気配がします」



 となると、黒い霧が負の感情ということか。

 そんなことを考えていると、魔族の一人が杖をこちらに向けた。詠唱無しで、黒い霧を纏った火の球を飛ばしてくる。威力が分からないので取り敢えず避ける。が、その後こちらへと追尾してくる。なので、足場を作りながら上下左右前後へ移動しながら逃げる。



「恐らくあれは魔道具です。私たちの知っている杖ではありません」



 ということは別に魔法と言う訳ではないのか。

 他の面々も次々に杖をこちらに向け、黒い霧を纏った多種多様の属性の魔法が飛んできて、追尾してくる。同じ大きさの水の球を火の球にぶつけてみる。が、簡単に僕の出した魔法を蒸発させてそのまま追尾してくる。あんまり騒いでこの建物が崩れたら困る。正直、デルガンダ王国でドラゴンが襲って来てから何の手掛かりもなかったのが、ここにきてようやく見つけたのだ。

 取り敢えず気絶させようとして魔法を放つ。僕が放った雷の魔法はいつものようにエリンの魔法陣を通じて目標に向かって落ちる。



「これは面倒ですね……」



 雷は一瞬現れた光の半球状の壁によって防がれる。魔法では制圧できないと判断した僕は作戦を変更する。

 アイテムボックスから刀を取り出して、魔力を込める。そして、魔法を放ってきた本人たちに向かって行く。だが、その杖を真っ二つにしようと刀を振るった時だった。



「っ!」



 刀は空を切った。追尾してきた魔法を避けながら辺りを確認して、螺旋階段へと移動していることに気が付く。恐らく転移魔法だろう。だが、ここから逃げないということは、逃げるほどの効果はないか、勝機があるかのどちらかだ。どちらにしろ、さっさと杖を壊した方がいいだろう。



「エリン」


「正面の敵から行きます」


「了解」



 エリンの転移魔法で敵の目の前に出て、杖を切りつける。その瞬間、後ろから追尾してきていた魔法が一つ消滅した。その後、適当に一撃を食らわせる。魔法が杖で無効化されているとは限らないため、適当な体術でだ。気絶はさせられたが、体術に関してはからきしなため正直重傷を負わせている可能性がある。だが、敵が敵なのであまり気にしなかった。

 そこから先は同じような作業の繰り返しである。追尾してくる魔法を躱しながら隙をついて転移魔法で接近、杖を破壊して一撃をくらわして気絶させるということの繰り返しである。





「これで全部か……」


「どうかしたんですか?」


「いや、これまでのこと考えたらこれだけで終わるのは寧ろ不安というかなんというか……」


「確かにそうですね……」



 そう、これまで大量のドラゴンやヒュドラを使ってきた。どちらも普通に国が滅ぶレベルである。そんなことをできる集団がこの程度で終わると言うのもおかしな話だ。

 そんなことを考えながら辺りを散策しようとしたとき、近くに大きな音を立てて何かが落ちてきた。突然の出来事に警戒したが、砂煙の中から出てきた姿を見てすぐに警戒を解く。



「リク、無事か?」



 なにこれ、登場の仕方めっちゃカッコいい。そんな感想を魔王様に抱きながら返答する。



「はい。どうにか」


「それは良かった。それにしても、まさか地下にこんなものが作られていたとは……」


「そこに転がっているのがここに居た者たちです」


「っ! 人間もいるのか……」



 真面目な話、僕はともかく、この人たちどうやってメノード島で生活してたんだろう。



「リクが容赦なく攻撃しているので治療した方がいいかもしれません」



 面目ない。ちなみに、何かされると困るので手加減はあまりしていない。魔王様のように体に魔力を流して強化していたので、無傷という事は無いと思う。



「あぁ、分かった。城の前の住民の護衛に残して、他の者もここに向かっているはずだ。俺だけ先に来たんだ」



 護衛についてはシエラがいるのでさほどのことがない限りは大丈夫だろう。

 暫くしてからやってきた魔王様の部下たちにその場を任せ、僕はみんなの元へと戻った。





 みんなの元へ戻るころには、空は赤みを帯び始めていた。



「おかえり、リク様、エリン」


「ただいま」


「ただいまです」



 あの後、魔王様と、その後やってきた魔王様の一部の部下に話した。人間の大陸であった例の負の感情と関係のありそうなことを。その流れで僕が人間であることも。僕に対して嫌悪感を抱かなかったものが全くいなかったわけではなかった。だが、魔王様と共にレルアという女性兵士が周りを納得させてくれた。なんでも僕が助けた魔族の中に妹がいたらしい。その際、人間とのハーフということもちらりと聞いた。人間の街ではそんな人は見かけなかったんだけどな……。というか、人間がいない島で人間とのハーフってどういうこと? とも思ったが、暗い事情だったらどうしようもなくなるので何も聞かなかった。



「シエラは大丈夫だった?」


「見ての通り何ともないのじゃ」



 あれ、そういえばリリィとサリィさんは? と思って聞いてみると、どうやら他の場所で魔族の兵士が護衛しているらしい。何でも、魔王様の指示で集まってた兵士達がリリィとサリィさんの護衛を買って出たらしい。他の魔族からすれば部外者のアイラたちが私たちが守りますと言っても、一緒にいて護衛を手伝うと言っても面倒なことになりそうなので、別々になったというのはルカの弁である。周りの魔族は僕らの事情を知らないし、あまり接触を持たない方がいいのだろう。そういう所に関しては謎の強さを発揮するルカを、僕は心の中で素直に称賛した。



「そういえばお兄ちゃん、お父さん達の方はどうなったの?」


「あ」



 色々ありすぎて普通に失念していた。陛下たちをストビー王国に送ったままだった。夕食までに戻るって言ったっけ。時間ギリギリだな。早くしないと。

 でもこんな人目の多いところで転移魔法なんて使えない。それに、急にいなくなるのも困る。と、言うことでエリンと二人で行くことになった。僕はシエラにみんなの護衛を任せて、町中の人が集まっているこの場所から、人気の無さそうな場所へと移動した。

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