第12話 天才魔法使い、予定を変更する
朝起きて、朝食を頂いた後、僕はエリンと共に魔王様の元へと向かった。
「おぉ、待っておったぞ」
「それで、容疑者はどこにいるのですか?」
「近くの部屋で待たせている。今から呼ぶから少し待っていてくれ。レルア」
「はっ」
さっきから視線を感じるのは、見知らぬ二人が玉座に座っている魔王様の隣に立っているからだろう。そのうち一人は見えている体の9割以上が幻影だったりするのだが。
それにしても、魔王様がこんな実力を持っていてもやはり騎士団のようなものはいるのだなと、先程呼ばれたレルアと呼ばれたレイピアを腰に差した女の魔族を見て思う。が、この魔族を見ているとそのことよりも、角の位置的に二本ありそうなのに、一本しか無いことに気を取られる。魔族の角って、何かの拍子に折れたりするのだろうか。そんなことを考えていると、レルアさんに連れられて数人の魔族がやってくる。そしてこの時点で二人、不審な行動をしたものがいた。
「……魔王様、そちらの方は?」
「俺の客人だ。信用できる奴だから気にするな」
そんなこと言われても自分の国のトップの横に見知らぬ顔があったら気になるのは当然なわけで、僕への不審者を見るような視線は消えない。
「では横に一列に並べ」
ここからは簡単な作業だ。魔王様がそれぞれの目の前に立ち、「リリィを人間の島へと送ったのはお前か」と聞いていくだけの作業。一人ずつに聞いているのは、エリンがその方が正確に分かると言ったからだ。最後の一人まで終わった時、魔王様はこちらを見る。エリンは、一人の魔族を指さして口を開く。
「一応、その人にもう一度質問してもらっていいですか?」
「分かった。リリィを人間の島へと送ったのはお前か?」
「ち、違います」
もう一度エリンの方を見た魔王様に向かって、エリンは笑顔で答える。
「黒です」ニコッ
「レルア、こいつを拘束しろ」
「はっ」
状況を把握できない周りは一瞬たじろぐ。たじろがなかったのは、レルアと言う女性だけである。そして、拘束された魔族も状況を把握できないでいた。
「どういうことですか魔王様っ! こんないきなり――」
「レルア、部下の者にこいつの身の回りを徹底的に調べさせろ」
「分かりました」
レルアと呼ばれた女性は手際よく周りにいた兵士たちに指示を飛ばしていく。
そんな状況を見守っている中、僕は周りに聞こえない大きさの声で、エリンに気になったことを聞いてみる。
「エリン、あの拘束されている魔族ともう一人、僕の顔見て驚いた魔族いなかった?」
他の魔族がかなり不審そうな顔をしていたので、こちらから見るとかなり目立っていた。
「いましたよ。この国の姫を攫ったのとは関係がないようですが、リクの姿を見てかなり動揺していたようです。出来れば魔王に頼んで調べさせて欲しいです」
「タイミング見計らって頼みに行ってくるよ」
「リクを知っている者がいないからと油断して姿をほぼ変えていなかったのが幸いしましたね」
そう、この島には人間がいない。よって僕を知っている者はいない。そう思って魔族の姿を装うのは頭の角を作るだけに留めたのだ。魔族はガノード島の近くにあった船で見ただけなので、まさかここにいる魔族につながっている者がいるとは思わなかったのだ。しかしよく考えれば、この島以外に魔族がいるなんて話聞いたことが無かったのでこういった可能性はあったのだ。ちなみに今の僕らの姿は間違いなく、陛下やラエル王女の前に行けば一発でバレるレベルの変装である。
そして、一人で考察する。僕のことを知っていたということは、ほぼ人間しかいないはずのユーロン島での出来事を知っているという事だ。それで思い当たるのはシエラたちドラゴンが住んでいるガノード島に向かう途中で見つけ、ギルドマスターによって解析された礼の船だ。人間と魔族の技術が使われていて、且つ人間と魔族が乗っていた船である。そして、繋がっている者がメノード島のトップのかなり近くにいると。
「……頭が痛くなってきた」
「リク、これはデルガンダ王国とストビー王国にも早く報告するべきではないですか」
「そうだね。取り敢えず魔王様に拘束されてない方の魔族を監視してもらうように言ってくる」
☆
僕はみんなの元に戻って、今さっきあったことを話した。
「リク様、それって……」
「どう考えてもやばいよね。リリィちゃん、暫くお兄ちゃんから離れちゃダメだよ」
「……? わかった! りくといっしょにいる!」
リリィ、多分だけど今、状況把握できてないのに取り敢えずで返事したね。
「リク、魔族側にリクの顔を知っている者がいるのには驚いたが、そんなに問題なのか? もしかしたらメノード島に来てから何処かで会っただけかもしれんのだろう?」
「それはないです。表情には少ししか出ていませんでしたが、あの焦り方は尋常ではありません」
エリンが言うのなら間違いないのだろう。まぁ、僕の予想が当たっているとしたら、ここで僕の顔見たらそりゃ驚くよね。
「話が面倒じゃな。いっそのことデルガンダ王国とストビー王国の王も連れて来て話し合えばいいんじゃないのかや?」
「まあ、それが早いんだけどさ。そう簡単に予定が合わないだろうし――」
「俺は大丈夫だ。今日の予定を聞いて昨日のうちに空けておいた」
昨日話したの夜ですよね。絶対迷惑掛かってるだろうなぁ、いろんな方面に。
「私も大丈夫ですよ。リリィの頑張って魔法を覚えるところを見に行きたかったので、今日の予定はすべてキャンセルしておいたので」
魔王様とサリィさんの周りの方に凄く申し訳ない。
「リクたちの様子を見るに余程の事なのだろう? リクの判断に任せる。が、せめて状況は説明してくれんか?」
そう言ってもらえると助かります。さて、後はどう動くかだけど――。
「リク様、私たちがリリィのお父さんたちに説明する」
「アイラだけじゃ心配だから私もこっちにいるよ」
となると、必然的に護衛として――。
「妾が護衛として付けばよいのじゃな。任せるのじゃ」
「ありがとう。エリンは転移魔法、お願いできる?」
「任せてください」
話が纏まったので早速動こうとしたが、リリィに服を引っ張られる。
「りりぃはりくといっしょにいるんじゃないの?」
どうしようと少し考えていると、サリィさんが助け舟を出してくれた。
「リリィ、リクさんならすぐに帰ってくるでしょうからお留守番しましょう?」
「でも――」
「リリィ、信じて帰りを待つのは大人の女性への一歩よ」
「わかった! りりぃまってる!」
大人と言う言葉につられたのだろうか。やはり子供と言うのは大人になりたいと思うものなんだろう。僕は小さい頃、周りに尊敬できるような大人がいなかったからそうは思わなかったけど。……いや、何をしてもなんだかんだ見逃してくれた村長を見て、優しい大人にはなりたいぐらいは思ってたかも。
それはそうと、サリィさんの言葉って思い人がいる女性とかにかける言葉だと思う。リリィにはまだ早いのではないだろうか。まぁ、親はサリィさんだし何も言わないけど。
「じゃあ、出来るだけ早く戻るから」
「リク様、気を付けて」
「お兄ちゃん、一応気を付けて」
一応ってなんだよ。そう思ったが、「お兄ちゃんとか心配するだけ無駄だし」という辛辣な言葉が返ってくるのが想像できたのでやめた。
「ここは妾に任せるのじゃ」
「まさかエンシェントドラゴンに護衛される日が来るとは……」
「リクはいつも守ってもらっているんですね」
「りくすごーい!」
「実際はどちらかと言えば逆の立場なんじゃが……」ボソッ
シエラはぼそりとそんなことを言っているが、僕がシエラを守ったのなんて最初の一回だけだし、その後は何かと協力してもらったりして助けられているので、逆の立場というわけでもないと思う。
さて、無駄話もここら辺にしてさっさと行きますか。
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