第11話 天才魔法使い、魔族の問題に手を貸す

 時間は夜、実は例の団長さんに泊まっていくように勧められたのだが、リリィを連れているし、その両親である魔王様とサリィさんに心配を掛けてはいけないと思い、断って僕らは魔王様の城へと帰ってきた。



「と、言うことがあったので港から使者が来たら、その旨伝えてもらえると助かります」


「……一国の王としては本当に敵に回したくない奴だな」


「あなた、お礼が先でしょう?」


「おっと、そうだな。助かった、リク」


「いえ、気にしないで下さい」



 ご飯も美味しかったし、あれぐらいの仕事ならお安い御用だ。



「それで今日も泊っていくのか?」


「そうさせてもらえると助かります」



 魔王様の了承を得て、眠そうにしていたエリン以外が僕らが借りている部屋へと向かったところで魔王様から声が掛かる。



「リク、俺は人間の国の王のところへ行くことに決めたのだが、日程はどうすればいい?」


「それは魔王様の予定を教えてくれれば、僕が仲介してあちら側に連絡しますよ」


「助かる。それと……」



 何か歯切りが悪いな。何か重い話だったりするのだろうか。



「実はまだリリィを人間の住んでいる島へと送ったものを特定できていないのだ」



 そういえばリリィは「気が付いたらここにいた」みたいなこと言ってたな。だから魔王様は誰かの仕業だと考えているのだろう。



「何故その話を僕に?」


「俺も色々と忙しくてな。それにサリィはあまり戦闘は得意な方ではないのだ。出来れば犯人を特定出来るまでリリィのそばにいてやって欲しいのだ」



 そういう魔王様の瞳は真剣そのものだった。これまでの行動が功を奏したのか余程の信頼を貰っているらしい。



「どのぐらいかかりそうなんですか?」


「リリィの元へ近づける者は限られているのだが、どうもそこから先に進めなくてな。それ以上の手掛かりが全くないのだ。俺は外部からの侵入は難しいと考えているのだがその線も無い訳ではなくてだな……。その影響で最近国を管理している者たちの関係が少しごたついているのだ」



 要は人数は限られているが、誰かが嘘をついても判断できないし、そもそもその中に犯人がいないかもしれないと。そして、僕の肩には相手の悪意の有無を見抜けるという特殊なスキルを持った精霊がいる訳だ。



「エリン、魔族相手でも悪意とかって分かる?」


「分かりますよ」


「嘘の真偽は?」


「大丈夫です」



 正直、こういう場面に限っては精霊の力は圧倒的である。ストビー王国で精霊と契約をしている者がそれだけで信頼を得られるのも納得と言うものである。



「魔王様、外部からの侵入だったらどうにもなりませんけど、内部に犯人がいるかどうかなら分かりますよ」


「本当か!?」


「でもその後どうするんですか? 犯人かどうかが分かったところで証拠は何も無い訳ですけど」



 この島では精霊を見かけなかったし、魔王様もその存在を知らないみたいだったので、精霊の証言が信頼されるとは限らない。



「その点は心配ない。俺がリクを信頼しているからな。犯人と特定してくれたら俺の権力で無理やり身の回りを調べ上げる」



 権力って怖いな。トップの意見を曲げられる者がいないとなると尚更だ。まぁ、怖いかどうかはトップに立っている者によるんだろうけど。



「それで俺はどうすればいいんだ?」


「簡単ですよ。エリンがいる前でリリィを人間の島へと送ったかどうかを聞けばいいんですよ。問題はいつにするかですね。いろいろと予定もあるでしょうし――」


「それは問題ない。明日、全員集める」



 いや、それは流石に急過ぎでは? とも思ったが、リリィの身に危険が迫っているのだから一秒でも早くこの問題を解決したいとのこと。リリィ、愛されてるなぁ。

 そんな会話をしていると、僕が中々来なかったせいか元気のいい迎えが来た。



「りくー、まだ?」


「もう少しで終わるから先に行ってて」


「分かったー」



 リリィのそんな姿を見ていると、魔王様の気持ちも分からなくないな、なんて思えてくる。



「明日はどうする予定だったのだ?」


「あ、そのことなんですけど、リリィが魔法を教えて欲しいと言っていたんですけど、一応魔王様の意見を聞きたいなと思いまして」


「魔法? リクに初めてあった時点で大体の魔法の詠唱は記憶していたはずだが……」



 本当に恐ろしいほどの才能だな。初めてリリィに魔法を見せてもらったとき、離れているように言われたので詠唱をしているかどうかの確認は出来なかったのだ。今思えば、僕に対抗して詠唱しているのを隠そうとしていたのかもしれない。湖を蒸発させた後、ばたりと倒れて自慢げな表情をしていたっけ。結局、保護者の許可もなしに教えるのもどうかと考え直して僕が魔法を教える事は無かった。

 閑話休題。



「僕、詠唱無しで魔法を使えるのでそれを教えて欲しいと言われまして」


「そんなことが出来るのか? 聞いたことないが……」



 と、言われたので実際に火の球を作り出して実際に見せる。リリィに魔法を教える件については、あっさりと許可を貰えた。だが、その条件に魔王様の同行を付けられたので、リリィに魔法を教えるかどうかはその時のシエラの気分次第である。リリィの実力を考えれば地上でやるのは危ないかもしれないし。



「明日は昼までには怪しい者たちを集めよう」


「そんなに早く集まるんですか?」


「大丈夫だ。丁度、誰も出払っていないのでな」



 まぁ、そう言うことなら。



「すまないな、何から何まで」


「いえ、気にしないで下さい。泊めてもらっているお礼です。それに、実際にやるのは僕じゃないですし」



 そう言ってポケットの方を見る。途中で疲れたのか自室(?)へと戻ってしまったのだ。



「その精霊もリクが契約しているのだろう? リクがいなければここまで簡単に事は進まなかった。何かできることがあったら言ってくれ」



 そうは言われても、もう魔族の国に入れてもらっているという時点でかなり感謝はしているんだけどな。そう言っても魔王様は満足しない気がしたので、今はないとお茶を濁した。

 そういえばまだデルガンダ王国とストビー王国に何の連絡もしていないなと思いだして、いつ行こうと僕は一人考え込んだ。

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