第08話 天才魔法使い、変装する

「エリン、僕らの姿変えたりとかできない?」



 転移魔法とか言うよく分からない魔法を使っていたのでもしかしたらと思って聞いてみた。



「できますよ」



 まじか。これでデルガンダ王国の観光もできるじゃん。ちょっと気が楽になってきた。とはいっても、これを理由に暴れる気はない。



「どのような姿にすればいいですか?」



 う~ん。子供の姿だとさっきみたいに突っかかられることも多いし……。



「それは主様が元の姿で街に出ればもう解決するのじゃ」


「シエラさん達は知らないかもしれないけど、私の国じゃ勇者相手に同じようなことした上で高ランク冒険者に絡まれてたんだよね」



 そういえばそんなこともあったね。ドラゴン騒ぎの後からはそういう絡まれ方はなくなったけど。



「命知らずもいいところ」


「その話はさておき、そう言う訳で大人がいいかな。後は……人間だと目立つから出来ればこの街によくいる種族のがいいな。この国人間少ないから」


「分かりました」



 僕らはそれぞれ他の種族の姿に変わった。……エリンは変わる必要なくない?



「あ、触れられるとばれるので気を付けてくださいね」


「なぜ妾だけこんな年寄りの――」


「シエラ、相手の思うツボ」


「ぐっ」



 嫌がらせをするところが小さいな。何がとは言わないが、それに反応するシエラも小さいと思う。



「それは聞き捨てならんのじゃが?」



 悪いけど聞き捨てといてもらいたい。さて、これで街に出ても大丈夫だろう。

 エリンが普通に僕の方に乗ってきたが、小人族が肩に乗ってるみたいで凄い絵面である。だが、実際に感覚があるのは元のサイズだ。なるほど、触れられればばれるというのはこういうことか。頭を触ってそこに肩の感触とかあったらバレるわな。なお、エリンの場合は空を切ることになる。



「エ、エリン? 流石にその姿で肩に乗られると寧ろ前より目立ちそうなんだけど。というか精霊と契約してる人も多少はいるし別にエリンが姿を変える必要は……」


「この姿じゃないと喋れないので」



 あぁ、なるほど。

 何にしろ、取り敢えず肩からは降りてもらおう。



「主様、早く行くのじゃ」



 あー、これやばいね。老婆が元気よく飛び跳ねながら扉の向こうを指さしている。こんな元気なお年寄りがいたら関心を通り越して怖いまである。



「エリン、シエラの見た目も普通のにしてあげてくれない?」


「仕方ないですね」



 シエラの姿がリザードマンの若い女の人みたいになった。まぁ、これなら大丈夫か。



「リク様、最初は市場がいい。果物買わないと……」


「それはいいですね」


「何を言っておる。屋台を周りに行くのじゃ!」


「私も屋台がいいー!」


「いや、さっき食べた所じゃない?」


「う~ん。野菜が多いと物足りないと言うか何というか……。デザートは満足だったけどね」



 ルカもシエラと同じく食事には肉が欲しいらしい。まぁ、育ち盛りだしそんなものか。

 ちなみにアイラはまるでそのまま大人になったような姿になっている。元から落ち着いた雰囲気だったので違和感は特にない。ルカは……あれは何族? 扇状の鰓の様な耳が付いている。



「ルカのは魚人族」



 この国の種族豊富だな。



「他の国はほとんどが人間に合わせて物が作られているので生活しにくいのです。その点、この国は国王がそもそも人間ではないので、国全体が様々な種族が過ごしやすいように工夫されていて生活しやすいのです」



 エリンの説明を聞いて納得する。デルガンダ王国でも時折人間以外の種族は見たが、本当に数えるほどしか見かけていない。

 そしてさらりと心を読んでくるエリンさん。



「リクは表情で分かりやすいですよ? それに私達は感情に敏感ですから」



 そんなことを言いながらクスリと笑う。これはルカやシエラのこと馬鹿にできないな。



「エリン、それ言っちゃダメ」


「それは失礼しました」



 ……目標、アイラに心を読まれないようにするということで。



「むぅ」



 少しずつアイラの見たことのない表情が見れるようになってきてなんだか楽しい。

 さて、無駄話もここまでにして街に行こう。向かう先はもちろん市場の方だ。





「あの二人大丈夫かな?」


「大丈夫でしょう。エンシェントドラゴンというのは伊達ではないでしょうし」



 結局シエラとルカは屋台巡りの旅に行ってしまった。

 それにしてもシエラとはあんな喧嘩する癖に案外信頼してるところあるんだな。



「リク様、これとこれ……それからあれが欲しい」


「あぁ、お金は渡しておくから好きなの買ってきていいよ」



 こういうのはアイラに任せておくに限る。見ているとアイラの大人びた姿のせいもあってかかなり割引をしてくれているようだ。



「それにしても随分とお金に余裕がありますね」


「まぁ、暫く困ることはないぐらいにはあるかな」



 僕はシエラの食事代でほとんど消える気がしていたが、デルガンダ王国ではお金払わなくても食事は出てくるし、僕のアイテムボックスに大量の食材が入っているので特になくなる気配はない。今回、珍しく貰ったお金を市場に流せている感じである。お金は使わないと入ってこないっていうし、こういう機会も必要だと思う。



「リク様、これお願い」


「了解」



 それにしてもこの魔法凄いな。今のアイラの見た目と実際のアイラの身長はずいぶん違うはずだが、荷物を持っていても全く違和感がない。手一杯に持っている物をアイテムボックスに入れようと荷物に触ろうとすると空を切った。



「あれ?」


「見た目に合わせているので実際の荷物はもう少し下ですよ」



 なるほど。これは僕には出来そうにないな。



「こんな魔法を軽々使えるのはリクのお陰ですよ?」


「?」



 まぁ、いいや。今度ラエル王女と話すとき、ついでに聞いてみよう。



「キャッ」



 そんなことを考えていると、近くから女の子の小さな悲鳴が聞こえてきた。

 見た感じ、何かに躓いて転んだのだろう。そこにはアイラによく似た獣人の女の子が倒れていた。近くには持っていたであろう荷物が散らばっている。それにしても随分とやせ細ってるな。見てるだけで不安になってくる。



「ちっ。さっさと立て。姉のみたいに売られたいのか!」



 男が暴力を振ろうとした時、その間にアイラが入り込んで庇う。

 アイラの見たことない表情を見れるのは歓迎だが、こんな表情は見たくない。



「何のつもりだ?」


「……」



 周りはその3人を中心に円を作る。やけにアイラがいろいろ詳しいなと思っていたが、恐らくここの出身だったのだろう。さっきの話から察するにあの子はアイラの妹か。



「エリン、僕らの魔法解いてくれる?」


「分かりました」



 エリンは何かを察したように快諾してくれた。



「なっ!」


「お、お姉……ちゃん?」

 


 二人がアイラの姿を見て驚く。周りは姿が変わったことに驚いているが、二人が感じたのは違う驚きだったようだ。目立つのはあれだけど、これは仕方ないと思う。それに、今はエリンがいる。もし目立っても姿を変えればどうとでもなる。

 僕らはアイラの元へと進み出た。

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