第07話 天才魔法使い、残りの報酬を受け取る

「どのぐらいかかるのかな……」


「私の記憶だと10分ぐらいだよ」



 僕らはギルドへと向かっていた。旅を始めた頃に倒したドラゴンの報酬をもらうためだ。デルガンダ王国みたいに顔が無駄に広い訳ではないので普通に歩いて向かっている。多分周りからの妙な視線は気のせいだろう。

 ちなみに、デザートの時に、転移魔法に驚いていた理由などは魔力のことも含めて後でゆっくりとお話しすることになった。



「リク、後で魔法を見せてくれませんか?」



 さっきまでアイラの肩に座ってこれまでの旅の経緯の話を聞いていたエリンがそんなことを言う。



「悪いんだけど、もう少し声のボリューム提げてくれない?」



 エリンが不機嫌そうな顔をする。この街は精霊と会うことが出来る森と近いため、精霊と契約をしている者も少ないがいるらしい。だから姿があっても目立つことはないのと思うのだが、僕らを案内してくれた兵士やラエル王女の反応を見る限り、話す精霊というのはいない。いたら目立つに決まっている。静かに観光するためにも、エリンには申し訳ないが協力してもらうことにしている。



「う~ん、出来るだけ人がいないところでならいいよ」


「ならば妾が――」


「それなら私の転移魔法で遠くの海上へ行きましょう」



 その手があったか。

 言い終わった後、エリンはシエラの方を見てニヤリと笑みを浮かべる。



「」イラッ



 ここで暴れると行けないことを察しているのか、シエラが堪えてくれる。喧嘩するほど仲がいいとは言うけれど、エンシェントドラゴンと精霊王とかいう規格外の喧嘩は勘弁して欲しいものである。



「主様には規格外とは言われたくないのじゃ」


「リク様を基準にすればシエラは規格外にはならない」


「だからお兄ちゃんを基準にするのは間違いだって」



 全く、毎度毎度僕を化け物のように扱って飽きないのだろうか。



「リクが凄いのは当たり前です」


「エリン、リク様の話聞いても全然驚かなかった」


「寧ろ当たり前みたいな感じじゃったよな」


「お兄ちゃんのことなんか知ってるの?」



 皆がエリンの方を向くが、エリンはスッと目を逸らす。



「……あっ、ギルドが見えてきましたよ」



 話のそらし方が下手過ぎる。それにしても……。



「建物大き過ぎない?」





「ガキ共がこんなところに何の用だ?」



 メンチを切りながらガタイのいいおじさんが話しかけてくる。この人は……。



「リク様、その人は巨人族」



 あぁ、どうりで。身長が2メートルは軽くあるので人間ではないことは見てわかった。……もしかしたら3メートルあるのかもしれない。入口からしてかなりの大きさだったのはこの国にはこういう種族がいるからだろう。

 今までの僕ならここでやり返していただろう。だが、今回はそんなことはしない。デルガンダ王国では勇者に仕返しをしたせいで観光の妨げになったのだ。ここは出来るだけ静かに終わらせ――。



「ちょ、ちょっと待ってください、デミオスさん! すみません、リク様ですね。お待ちしておりました」



 気の弱そうで背の低い、声変わりのしていない男の子が僕の方へやってきた。



「この人は小人族です」


「ありがとう」



 アイラの補足情報、凄く助かる。



「おい、ギルマス! 俺よりこいつらを庇うのかよ!」



 この人ギルドマスターだったんだ。



「いえ、この人たちは――」



ドスンッ! ピキィィィ!



 シエラが片足を地面に打ち付ける。と同時に、石畳の地面にひびが走る。人に迷惑をかけないようにと心掛けてきたのに、この様だ。いや、僕は悪くないけど。でも、一応従魔だし僕の責任になるのかな? ……ギルドマスターには後で修理代を渡しておこう。



「おい、人間。妾は今機嫌が悪いのじゃ。さっさとそこをどけ」


「このぐらいで俺がビビるとでも――」



 こっわ。シエラさんこっわ。どうやら満足のいかない昼食とエリンによる煽りによりストレスが溜まっていたらしい。もう少し広い心を持って欲しいものである。それに全く動じず反応してきた彼の声を遮って外野の声が響く。



「おい、あそこの青髪の子供って見たことないか?」


「っ! デルガンダ王国の姫様じゃねぇか!」


「な、なんでこんなところに!?」



 あぁ、この街で視線を感じたのはそれが原因か。周りのざわめきを聞いてさっきの巨人族の顔が青ざめていく。



「あぁ、気にしなくていいですよ。シエラもちょっと落ち着いて」


「妾はいつでも落ち着いておるのじゃ」



 さっき自分で機嫌悪いとか言ってたじゃん。



「そ、その……こちらへどうぞ」


「……なんかすいません」



 ギルドマスター怯えてるんですけど。いや、周りの人たちも随分と怯えてしまっている。変な噂とか立たなければいいが……。





 僕らはデルガンダ王国のギルドよりも一回り大きい応接室に通された。多分さっきの巨人族とかに対応してのことなんだろう。



「ではこちらが残りの報酬になります」


「ありがとうございます」



 お礼を言ってアイテムボックスにお金を放り込む。



「話には聞いていましたが本当に凄いですね」


「は、はぁ」



 あ、これ何か頼み事されるやつだ。さっさと断ろう。



「そこでお願いがあるのですが、昨夜ドラゴンの咆哮が――」


「断りま――」



 これ断っちゃダメな奴だ。普通に考えてその咆哮、昨日のシエラのだよね。流石に正直に話しておかないと。



「あの、実は――」





「そ、そうでしたか」


「ご迷惑をお掛けしました」



 大人しく頭を下げておく。勿論、シエラは頭を下げていない。



「流石は変態脳筋トカゲですね。礼儀も知らないとは」


「おい、羽虫。あまり調子に乗ってるとその羽毟り取るぞ」



 言葉が怖すぎる。



「シエラ、そんなに簡単に挑発に乗るとエリンを調子に乗らせるだけ」


「エリンさん、あんまり人を馬鹿にしてると子供っぽく見えるよ」


「「ちっ」」



 舌打ち止めろ。でも結果的に二人が落ち着いたのは助かった。ルカに子供っぽいという言葉を使うのは違和感があるが、今は黙っておこう。

 それにしてもこの二人肝が据わってるな。周りの人は大抵怖がるものだが……。



「それはリク様といるから」


「お兄ちゃんと旅始めてから多少のことでは驚かなくなった気がする」



 そうですか。



「……もしかして精霊王ですか?」


「あれ、何で知ってるんですか?」


「昔、賢者の方が精霊王と呼ばれる精霊と契約をしたというのと、精霊王は人の言葉を話すという噂を聞いたことがあるので」



 へぇ。ふとエリンの方を見ると、表情に陰りが見えた気がしたのでこの話は今後しないでおこうと思う。



「後、昨夜上空に光の球が見えたと騒ぎになっていたのですが――」


「すいません、それ僕らです」


「その後しばらくして地揺れが――」


「すみません、それも僕らです」



 人に迷惑をかけないようにと心掛けてきたのにこの様である。次はもっと周りを気にしなくては……。



「主様は気にし過ぎなのじゃ。それだけの力があるんじゃからもっと堂々としておればいいのじゃ」


「これだから変態脳筋トカゲは……」



 そんなことを言いながらエリンがやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。



「」イラッ


「シエラ、このままじゃエリンの思うツボ」


「な、何のことじゃ」



 今のでイラついたのが周りにばれていないと思っているのだろうか。流石ポーカーフェイス弱い族である。



「エリンさんもそういう所が……シエラさんのことが好きだからやってると思われるよ?」


「それはこの上なく迷惑な話ですね」



 この二人の喧嘩はアイラとルカに任せればどうにかなりそうだ。出来るだけシエラとエリンが二人きりにならないようにしよう。これまでの行動からして、そうでもしないと辺り一帯がシエラの炎で黒焦げになりそうだ。



「そんなことはない……はずじゃ」



 そこは自信持ってくれないと困るんですけど。

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