第11話 天才魔法使い、退屈する

 午前中は兵士たちの訓練に付き合い、午後はアイラが作ってくれたおやつやフルーツを食べながらゆっくりと休む。そんな生活を続け、兵士の数が残り半分になった頃だった。



「ちょっと来てくれんか」


「あの……大丈夫ですか?」



 城の中庭でゴロゴロしていると、もの凄く体調の悪そうなギルドマスターが僕を呼びに来た。



「これ食べます?」


「それなら妾が――」


「シエラは自分の分全部食べたからダメ」


「シエラさんほんと食べるの早いよね」



 アイラが作ってくれたフルーツをギルドマスターに一つ渡す。



「あぁ、すまん。後で頂くよ」



 この人食べる気あるのかな。

 4人でギルドマスターに連れられ、この間僕の持ち帰った資料の解析結果を知らされた部屋と向かった。そこには、この間と同じ面子がそろっていた。いや、ガロンさん達が増えている。多分公務がひと段落付いたから出てこれたのだろう。とりあえず軽く会釈をしておいた。

 これってもしかして僕ら待ちですか?



「遅れてすみません」


「僕らも今来たところだ。気にしなくていい」


「そもそもリク殿を最後に呼びに行くようにしたのは儂らじゃしな」



 国王より後に呼ぶのはどうかと思う。

 ギルドマスターが一つ咳ばらいをし、話を始める。



「ではこの間の話の続きをさせてもらう。まずリク殿が持ち帰ってくれた資料じゃが、ドラゴンを作り出す素材こそ分かったが、作り方については分からなかった。恐らくそこら辺の資料は船で持ち出そうとしたのじゃろう。しかし、船があの有様じゃからもう分からんと思ってくれ」


「船員の身元は分かったのか?」



 ギルドマスターの話を聞いて、周りが落ち着いてからマルクス王子が質問をした。



「いや、まったく分からんかった。後ろで何が糸を引いておるか分からんから、ギルドと王国で内密に調べてはみたが、それらしい情報は得られなかった」



 う~ん、手掛かりなしか。調査はここで打ち止めかな。



「あと一つ伝えなければならないことがある。船の中にあったばらばらになった資料を確認して分かったことじゃ。それによると、奴らの目的は邪神ゼハルと言われるものの復活らしい。負の感情が必要なのはそのためと考えられる」



 調査が打ち止めなのに謎が増えるとかちょっと鬼すぎません? まぁ、僕には関係ないんだけども。

 その後は解散となった。勿論この内容は他言無用だ。

 僕らはさっきまでくつろいでいた城の中庭に戻った。それにしても。



「シエラがこういう話真面目に聞くなんて珍しいな」


「敵の情報は必要じゃろ?」



 なるほど、確かに戦う相手の情報を知ることは大切かもしれない。だが、その戦う前提みたいな考え方はやめて欲しい。



「そうは言っても主様よ、この間のドラゴン騒ぎを考えると十中八九警戒されておると思うのじゃ」


「そうだろうとは思うけどさ」


「え? そうなの?」


「?」



 この間のドラゴンの動きを見ていると確実にこちらを見て行動を決めている。戦っていた人たちの話ではドラゴンが少しづつこちらに向かって来てたのに、僕が出てきた瞬間全軍突撃してきたこととかね。ドラゴンが一瞬で倒されたのをどこかから見てないとそんな指示は出せないと思う。

 と、言うのを二人に説明した。



「でもリク様と一緒にいるなら大丈夫」


「いやでも僕が狙われてるってこともあるからそうとは言い切れないと思うけど」


「多分お兄ちゃん、狙われるというより警戒されてるんじゃないかな?」


「ま、あんな魔法使える人間を狙うとか正気の沙汰ではないじゃろうしな」



 そうだといいんだけどな。でも、僕を倒そうとするんじゃなく他の皆を狙われて絶対に守り切れるかと言われたらあんまり自信がない。



「それは大丈夫じゃ。主様のせいで霞んでおるが妾はドラゴンの中では最強の存在じゃぞ?」


「そういえばそうだったね。お兄ちゃんのせいで忘れてた」


「リク様と一緒にいたらそれは仕方のないこと」



 相変わらず僕の評価高いなぁ。こういうのなんて言うんだっけ。慢心? 慢心してたらろくなことにならないって聞くし気を付けよう。



「アイラ、またギルドマスターたちに何か差し入れ作ってあげてくれない?」


「分かった」


「一通り調べ終わったみたいだし、落ち着いてからにしたら? みんな眠そうだったし」



 残りのドラゴンの死体を渡すために、時々研究所の方を訪れていたのだが、皆目の下に隈を作っていた。これがデスマーチというやつか。仕事なんてせずに旅をしている僕には無縁のものだ。



「それにしても流石に動かないのにも飽きてきたな」


「そうか? 妾は別にそうでもないが……」



 どうやら長い間、何もないガノード島で暮らしてきたシエラにとってこの程度ではどうということはないらしい。



「私も動きたい! 訓練って言っても同じ作業の繰り返しだし飽きてきた」



 他の皆は真剣に取り組んでいるんだから、それを飽きたとか言うのはやめてあげて欲しい。



「私は午前中は料理の勉強できるし午後はリク様の料理作れてるから満足」



 料理の勉強だけでなく、僕のために作って満足してると言っているところらへんからアイラの献身的な姿勢が見て取れる。最初の街にいたのがアイラでよかった。なんとなく頭を撫でておく。



「///」



 アイラの顔が真っ赤になる。この表情を見るのは二回目かな。



「お兄ちゃん、なんか楽しんでない?」


「いや、アイラのこんな表情あんまり見ないから」


「同じ布団で寝るのになぜ耐えられんのじゃ?」



 確かに何故布団で寝るのがなんともないのに、頭を撫でられるのが恥ずかしいのか謎である。



「……慣れ?」



 まぁ、確かにあんまり頭を撫でたりはしてないかも。



「それで結局お兄ちゃんは何をしたいの?」


「それなんだよね。街に出てもまともに歩けないし、どうしようかな」



 久しぶりに魔法の練習でもしようかな。手加減できるようにならないとこの前みたいに無駄な環境破壊とかしかねないし。場所は……海の人がいない沖の方とかかな。この国海から近いし。



「ほう。それならば妾もついて行こう」


「「?」」


「いや、別に一人でも大丈夫なんだけど」



 寧ろ一人がいいまである。失敗して巻き込んだらどうすると言うのか。



「離れて結界を張れば大丈夫だと思うのじゃ」


「まぁ、それなら……」


「ねぇ、何の話?」


「リク様が行くのなら私も行く」



 アイラさん? どこに行くか分かってないのにそういうことは言わない方がいいと思いますよ?



「それより晩御飯じゃ!」


「確かにお腹空いたな。ご飯食べ終わってから話すよ」


「まぁいいや。楽しみは後にとっとかなくちゃね」



 いや、そんな大した話じゃないんだけども。





「――と、言う訳でして。明日は少し出かけてきます」



 陛下とマルクス王子含めて6人で食事を終えた後、夕食前に考えた予定をみんなに話した。



「それは僕らの見えるところでは出来ないのか?」


「失敗した時のこと考えるとそれは危ないかと」


「お兄ちゃんの魔法なら失敗したら国に滅びそうだよね」



 全く笑えない冗談だ。ルカはこの国の姫という自覚はあるのだろうか。



「そういえば以前のドラゴンを倒した時も少し加減を間違えたと言っておったのう」



 もう少し正確に魔法が使えれば森の被害をもう少し抑えられたのだが……。なんとも情けない話である。



「あの大群相手にそんなことを考えられるのリク様ぐらい」


「妾でもあれ相手なら、なりふり構わずに倒そうとするのじゃが」



 そんなこと言われてもな。

 伝えたいことは伝えたので、無駄話も程々に切り上げて自分の部屋へと戻った。

 陛下に借りている部屋も随分と馴染んでしまった。旅に出てから何回ここに泊まったのだろう。まぁ、陛下から僕が生きている間は僕専用にしてくれるとまで言われているし、寝心地もいいので仕方ないことではあるんだけども。

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