第12話 天才魔法使い、魔法の練習をする
「この辺でいいかな。シエラ、少し離れて結界張っといて」
『了解じゃ』
僕は今海上にいる。ちなみに、デルガンダ王国がある島からは、地平線にかすかに見えるぐらいには離れている。まぁ、そんな大それたことをするつもりはないのだが、一応だ。
それよりもこの距離だとシエラと意思疎通するのが難しいな。僕の魔法でシエラたちに影響が及んでも気付けない。
『聞こえておるから問題ないのじゃ』
あっれー。こんな距離で聞こえてんの? 結構離れてるんだけど。というかこの距離で聞こえるんなら城のどこにいても聞こえるんじゃ……。
『その通りじゃ』
「変態か」
『失礼な。ドラゴンの力をもってすればこの程度容易いのじゃ』
その上地獄耳とか勘弁して欲しいんですけど。僕の考え筒抜けじゃん。
それはさておき、目的に戻ろう。取り敢えず火魔法の練習だ。この間の殺虫魔法も完全にオーバーキルだったし。まぁ、焦げた状態で残るよりはマシか。
随分と前に石を温めて火の代わりに使ったことはあったが、あの程度の威力ならまだ大丈夫だ。だが、実際に火を出すとなると難しい。
「取り敢えず火の威力調整の練習か」
片手を前に突き出し、火を出す。すると、視界が炎に包まれ、前が見えなくなる。こんな威力にするつもりはなかったのだが……。やはり思った通りの威力にするのは苦手だ。旅に出る前には、魔物を倒すための魔法と旅を便利にする魔法を中心に練習していた。
前者は雷の魔法、後者は旅の道中で使っていた魔法である。火魔法なんかは最低限の威力なら調節できる。だが、この規模になるとうまくコントロールできない。
「くっ。もっと小さく……」
込める魔力を減らしていくが、全然変わった気がしない。
『いや、弱まっておるぞ。その場所からだと分からんだけじゃ』
う~ん、結構弱めたつもりだったんだけど。もっと弱く……。
「シエラ、これでどう?」
『水蒸気で全く見えないんじゃが……』
魔法を止めると辺りには水蒸気が立ち込め、海の表面がぷくぷくと沸騰していた。小さい魚たちが浮いてきている。
やばい、やり過ぎた。早く冷やさないと。水蒸気に包まれている場所を抜け、沸騰している場所の中心を確認する。そこを冷やせばいいと思い、真上に氷を出す。
「あ」
真上に巨大な氷が現れる。氷が現れるのはいいんだが、大き過ぎる。水しぶきを避けるべく、結界を張る。
巨大な水しぶきが落ち着き、奇麗な虹がかかっている。その氷はシエラが余裕で乗れるぐらいのサイズはある。火魔法で溶かそうとも考えたが、なんか同じことの繰り返しになる気がするので止めた。何より魚たちが可哀そうである。沸騰してるぐらいだしそのうち解けるだろう
☆
「――って感じだったの!」
ルカが夕食を食べながら今日あったことをみんなに話している。口から色々飛んできてるからせめて飲み込んでから話してほしい。
あの後もいろいろな魔法を放ち続けた。練習前よりはうまく手加減できるようになったと思う。
「まるで天変地異だな」
「まるでじゃない。あれは天変地異そのもの」
「主様には逆らってはいけないと改めて確信したのじゃ」
本当にそう思っているのならもう少し言う事を聞いてほしいものだ。
「話を聞く限り今日あった津波がリク殿のせいという噂は本当のようじゃな」
え? そんなこと噂になってたの?
「何かすいません」
「リクの話を知った者が何人か海岸に見に行ってたらしくてな。巨大な炎が上がったり、空は晴れているのに大雨が降ったり、突然津波が来たりしたと興奮気味に語っていたぞ。被害は出ていないから安心してくれ」
津波があって被害がなかったのは幸いだったな。でも話を聞く限りただの野次馬だよね。これって僕が悪いんだろうか?
それはそうと雨の範囲そこまで届いてたのか。ちょっとどこまでできるのか気になってやってみたんだけど、途中でやめたんだよね。なんか際限なさそうだったし。村にいた頃はこんな規模の魔法使えなかったのでいい練習機会だった。
「そういえばリクは魔力切れになったりしないのか?」
「僕はなったことないですね」
「リク様が魔力切れになるまで魔法使ったら世界が滅びる」
みんな「確かに」なんて言って頷いているけれど、流石に大げさだと思う。
もう十分休暇は楽しんだし、明日からは魔法の練習をしておこうかな。シエラの言っていた通り、多分何かしら警戒されているだろうし、手加減は出来るようになっておかなければ。
取り敢えずもう少し離れたところで練習するようにしよう。この国に迷惑かけちゃうとあれだし。一応みんなに伝えておく。
「見てみたいという人がかなりの数いたんじゃが残念じゃろうな」
「リク様の魔法を好奇心で見たいとか命知らずもいいとこ」
「私たちもシエラさんの結界なかったら絶対生きてなかったよね」
「妾の結界でもあれだけの距離離れてようやく防げる程度じゃ」
「確かその規模の魔法ならこの国までの余波が来そうだ。海岸は王都からの距離もさほどないしな」
まぁ、野次馬の人たちには悪いけれど、身の危険を考えれば納得してくれるだろう。
☆
と、思っていたのだが、それでもどうしてもという連中がいた。今は昼下がり。昼食を食べ終え、シエラに乗った数人と共にこの間より離れた場所へと向かっていた。
『主様の命令とはいえ他の者を乗せるのはなんというか……いや、何でもないのじゃ』
「なんかすみません、シエラさん」
「どうやったらエンシェントドラゴンなんか従魔に出来るんだよ。……師匠だからか」
弟子4人組である。彼らのほかにも連れて行って欲しいという声があったのだが、一番弟子という特権により彼ら4人で済んだ。
僕からしてみれば人が魔法を使うところを見るだけなのに何が楽しいかよく分からない。
『それは主様からしたら他の魔法が大したことないからじゃろ』
「100里ある」
「アイラ、今の会話、分かった、の?」
「もしかして師匠の周りにいる人にはわかるとかですか?」
シエラのことはあの場にいたほぼ全員が知っている。そして、心を読めるということも知っているため、ユニとゼルはこんな質問が出来たのだ。
ルカはそっと目を逸らし、それに気が付いた皆がそれぞれ察する。
「わ、私だってその内――」
「いや、皆に心読まれるとか僕がしんどいからそれは止めて欲しいんだけど」
「むぅ」
頬を膨らませてそんな顔をしても本当に勘弁して欲しい。
そんな会話を聞いて弟子たちは笑っている。いや、全然笑い話じゃないんだが。僕のプライバシーにかかわる大切な話である。
「すみません、相変わらず師匠は楽しそうだなと思いまして」
ゼナが当たり前のことを言っている。
「まぁ、楽しいから旅をしている訳だしね」
「師匠の旅で楽しくない要素とかほとんどないよな」
「旅なのに、みんなでぐっすり、眠れる」
確か夜は後退で見張りをするんだっけ。普通は。
「あんな頑丈なテント、師匠じゃないと作れませんよ」
「最近はリク様のテントにシエラの結界もあるからさらに安全」
ゼルの言葉にアイラが答える。
まぁ、確かに以前よりは頑丈だと思う。
いい感じに離れた場所に着いたので、シエラに離れて結界を張ってもらう。
『準備できたのじゃ』
「了解」
さて、今日はどの魔法から練習しよう。
☆
「そろそろ帰ろうか」
「さすが師匠ですね。あれで手加減してるなんて……」
「あんな魔法を、使えるようになる未來が、まったく見えない」
魔法使い組が褒めてくれる。
魔法を使う二人はともかく、いや、その二人もだけど見る意味あったのかな? 見るだけで何かが変わるとも思えないけど。気になって聞いてみると、
「師匠の魔法は見るだけで価値があるに決まってんじゃん」
「こんな魔法他じゃ見れませんよ?」
とのこと。まぁ、確かにまだ他にこの規模の魔法を見たことがない。
そんな会話をしていると、王都が見えてきた。
『主様、昨日より遠出したのじゃから料理は多めで頼むぞ』
確かシエラは見てみたいと言って自分から付いてきたはずなんだが……。
『うぐっ』
ま、4人を乗せてくれたし今日は良しとしよう。
『流石主様じゃ!』
この時間は訓練場にだれもいなはずなのでそこに降りる。
「「「「今日はありがとうございました!」」」」
4人が僕らにお礼を言って去っていく。シエラが照れくさそうにしていたのは意外だった。始め会った時は物凄い人間を見下してたのに。なんか段々人間っぽくなってきていやしないだろうか。
そんなことを考えながら夕食へと向かった。
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