第09話 天才魔法使い、休暇を楽しむ

 窓から差し込む朝日に、外から聞こえる鳥のさえずり。とてもすがすがしい朝である。昨日は途中からお酒などが出てきてどんちゃん騒ぎをしていたようだが、僕たちは未成年だからと一足先に抜け出したのだ。シエラは飲みたそうにしていたが嫌な予感しかしなかったので無理やり抜けさせた。



「リク様、今日はどうする?」



 布団をどけて起き上がると、隣で寝ていたアイラから声が掛かる。



「最近動きっぱなしだったからゆっくりしようかな」


「城の庭で日向ぼっことか」


「あ~、それいいね。そうしようかな」



 着替えて朝食へと向かう。が、そこには他のみんなの姿はなかった。なので料理を持ってきてくれたメイドさんに聞いてみる。



「他のみんなはどうしたんですか?」


「陛下と王子は二日酔いがひどく寝込んでいます。ルカ様とシエラ様はまだ起きておりません」



 確かあの二人、大人だけずるいとか言ってトランプ持って部屋に入っていってたな。恐らく起きてくるのは昼頃だろう。

 と、言う事で僕ら二人で朝食を頂いた。こんな長机で二人だけというのもなんか寂しいな。



「すみません、この辺で日向ぼっこできそうな場所ありますか?」


「それならこの先にある庭のベンチがあるのでそこがいいと思います」



 そう聞いたので、ベンチに座ってのんびりしていた。隣にはアイラが座っている。よくよく思い返してみると本当に動きっぱなしだったな。旅はそんな急ぐようなものでもないし、たまにはこういうのもいいかもしれない。



「リク様、ちょっと待ってて」


「え? うん」



 アイラがしばらくして果物と飲み物が入ったコップが二つ乗ったお盆を持ってきた。



「これガノード島にあった果物で美味しかったやつ」



 そういえばアイラに言われていくつか果物っぽい何かを回収していた。昨夜、アイラに言われて、城に戻る前に料理長に渡しておいたのだ。それに興味を示してお酒で皆が盛り上がってるのそっちのけで城の厨房へと向かっていたので、今朝既に食べられるのはそのお陰だろう。



「こんな甘い果物初めて食べた。もう一回ガノード島行ってこようかな」


「料理長が種から育ててもらえるようにお願いしてたから多分行かなくても大丈夫」



 料理長が有能すぎる。

 そんな美味しい果物を食べ終わり、心地のいい日の光を浴びて少し眠気が襲ってきた時、ギルドマスターに声を掛けられた。



「休暇中にすまない。お主にも聞いてもらいたい話があるのじゃが」



 休暇中? そもそも働いてないから休暇では……いや、休んでるから休暇なのかな?



「リク様?」


「あぁ、ごめん。ぼーっとしてた」



 頭を切り替えてギルドマスターの方に向き直る。



「目の下にクマ出来てますけど大丈夫ですか?」


「実は昨日から寝てなくてな。お主が持ってきたものを考えれば仕方ないがな」



 なんか悪いことしちゃったな。そういえば昨日のどんちゃん騒ぎにギルドマスター含めた研究員たちは一人もいなかった。後でアイラに何か素材を渡して適当な差し入れを作ってもらおう。



「それで話というのは?」


「陛下と王子にも話しておきたいから付いてきてもらえんか?」


「分かりました」



 こうして僕の休暇は2時間で終わりを迎えたのだった。腰を上げてギルドマスターに着いて行く。



「たまには、何もせずにのんびりするってのもいいなぁ」


「果物集める?」


「あぁ、いいかもね。次、街に行ったときに美味しそうなのあったら教えてくれる?」


「分かった」



 アイラに任せきりで申し訳ないけど、そっちはからきしなので許してほしい。



「お主、物凄い自由な生活しておるな」


「旅人ってそんなものじゃないですか?」


「普通こんなに自由に行動できない」



 まぁ、確かに城に入り浸る旅人とか聞いたことないな。

 ギルドマスターに連れられて部屋に入ると、陛下とマルクス王子、それからすごく偉そうな人が数人いた。孤児院の相談した時の大臣と同じ服を着ているので、多分他の事を担当している大臣とかだと思う。



「すまんなリク殿。休んでいたところをわざわざ」


「陛下たちこそ二日酔い丈夫ですか?」


「あぁ、薬を飲んでかなり楽になったわい」


「僕も薬のお陰で随分とマシになった」



 そんな話もほどほどに、ギルドマスターが資料を見ながら話を始める。



「まずは結論から言わせてもらう。リク殿が持ってきた資料に書かれていたのは人工的にドラゴンを作り出す方法だ」



 周りが騒めき出す。



「リク様、それってシエラが言ってたやつ?」


「確か黒い霧を纏ってるってやつだっけ?」


「リク、それは何の話だ?」



 そういえばシエラに聞いた話も簡単にしか説明してなかったからそこらへん話してなかったかも。と、思ってシエラから聞いた話を懇切丁寧に説明した。一応、シエラ達が人間の方へと攻めてこなかった理由も含めて。黒い霧を纏ったドラゴンはこの間の騒ぎの時にもかなりの数がいたのだが、ドラゴンなんて早々お目にかかれるものでもないのと、状況が状況だけに気にする余裕がなかったのだろう。

 僕がシエラから聞いた話をしたことで、さらに周りが騒めき出した。



「まさかガノード島でそんなことがあったとは……」


「それでそのドラゴンを作るには何が必要なんだ?」



 マルクス王子の質問を受け、ギルドマスターが手元の資料をめくっていく。



「素材はお金さえあれば手に入るものじゃ。ドラゴンの魔石を除いてな。リク殿が持ち帰ってくれたドラゴンの死体からは魔石だけが抜き取られておった。他のものも確認したいからリク殿には後で手伝ってもらいたい」


「分かりました」



 話が進むにつれ、大臣たちが慌てだすのをよそに、一人考え込んでいたマルクス王子が顔を上げる。



「ドラゴンは魔石以外には手を付けられていなかったのか?」


「あぁ、そうじゃがそれが何か?」


「ドラゴンの素材は高値で売れるのにそれをしなかったということは、それが必要ないぐらい資金が豊富か素材を手に入れれるような組織という事じゃないのか?」



 そこにいる全員が静まり返る。



「それには儂らも気付いたのじゃが、船の中にそれらしい手掛かりはなかった。ちなみにその船の中には人間だけでなく魔族の遺体もあった。さらに、船に使われていた技術から見て、人間と魔族のものを組み合わせて作られたものじゃった」



 その話で事の重大さを理解した大臣たちは、顔が青ざめ、額に大量の汗がにじませている。

 要は人間と魔族が協力して何かをしていると言う事か。目的は人の負の感情を集めることだとして、それをして何になるのかが分からない。



「魔族側が人間を滅ぼすために暗躍している可能性はないのか?」



 陛下が話を聞いて質問する。そういえば戦争してるんだっけ。



「その可能性もないとは言い切れぬ。じゃが、一緒に乗っていた人間には拘束されたような形跡はなかったことから魔族だけで動いているとは考えにくい」



 それを言い切ると、ギルドマスターは一息ついて話を続ける。



「一日で分かったのはそこまでじゃ。分かり次第また連絡する。お主には各地のギルドを通して連絡するようにしておこう」


「ありがとうございま……す?」



 これはありがとうございますであってるのか?



「すまんが、何かあった時にお主以上に頼れる人間はおらんのだ。その時は頼みたい」


「まぁ、僕に出来ることなら。その時どこにいるかは分かりませんが」



 国の危機……というか人間の危機だ。流石にそんな状況なら僕だって出来る限り協力する。



「確かストビー王国に行くんじゃったな。あそこのギルドマスターには優遇するように連絡しておこう。何かあったら頼ると良い」


「それなら後で、儂からあそこの国王に手紙を書いておこう」



 なんか至れり尽くせりだな。こんな待遇受けていいのだろうか。まぁ、役に立ちそうなものだし断る気はないけれど。

 ギルドマスターたちが調べて分かったことはここまでということで、その場は解散になった。

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