第08話 天才魔法使い、食料を提供する

「師匠、もう用事はいいんですか?」


「後は僕に出来ることはないから大丈夫」



 隣でとても難しそうな顔をしていたギルドマスターやギルドの人たち、城の研究員たちを置いて、僕は訓練場の方に顔を出した。

 ちなみに他の3人は街へと出ている。アイラにはシエラの抑制を、シエラにはルカの護衛を任せている。この街の人はシエラがエンシェントドラゴンということを知っているので多分手を出されたりはしないと思う。一応、もしもの時は暴れてもいいとは言ってある。その時は主にシエラによる被害を抑えるために急いで向かわなくてはならない。



「それで僕は、何すればいいの?」



 真面目な話、魔法の練習なんて僕は独学だから何を教えたらいいか全くわからない。



「まずは私たちの質問に答えてもらえませんか?」


「色々教えて欲しいことが、あります」



 まずは? まぁ、暇だしいいか。

 ゼナとユニ、それと城の魔導士たちからの質問攻めに何とか答えきり、やっと解放された時だった。



「師匠、あの時のリベンジ戦お願いします」


「一撃ぐらいは当てて見せるぜ」



 そういえばこの街に着いたころにそんなことしてたね。





「やっぱりまだ無理ですね……」


「魔力が多いのに近接戦で切るとか汚いよなぁ」


「汚いとか言わないでくれる? 何か僕がずるしたみたいじゃん」



 二人が息切れするまで適当に木剣で攻撃をいなし続けた。今回は1時間ぐらい持っていたので、十分な成長だと思う。ヴァンはナイフ、ゼルは剣と盾を使っていて、攻撃が当たる瞬間だけ魔力を込めていたのには感心させられた。



「私たちからしたらリク様は存在がずるみたいなもの」



 声のした方を見ると3人が両手に荷物を抱えて戻ってきていた。



「あれ、どうしたの? その荷物」


「お兄ちゃんに渡してくれって皆が……」


「主様が普段受け取らんせいじゃ」



 これは僕のせいではない……と思う。



「それにしても凄い量だな」


「リクへの届け物なら城の方にもたくさん届いているぞ」


「リク殿が持ってくる話が衝撃的過ぎて忘れておったわい」



 陛下とマルクス王子がこちらへとくる。ふと空を見上げると赤みがかっていた。二人は仕事がひと段落したのでこちらへと来たらしい。

 僕がゼルとヴァンと模擬戦をしたことを知ると、見逃したことをとても悔しそうにしていた。



「料理長が素材を見せて欲しいと言っているんだが」



 マルクス王子の言葉に後ろの料理長らしき人がべコリと頭を下げる。



「ガノード島の魚なんてみたことがないので楽しみです」


「分かりました。魚を出すので皆さん下がってください」



 アイラとルカ、シエラは何も言わずに訓練場の端の方に寄ってくれたが、他のみんなは不思議そうな顔をしていた。



「お父さんと兄貴も早く! そこにいると危ないよ!」


「「危ない?」」


「ガノード島の魚は大きいから」



 アイラの言葉に納得し、皆が距離をとる。みんなが離れたのを確認してからアイテムボックスから魚を出す。



「……これは調理できるのか?」


「切断出来ればどうにかなるかと……」


「それはリク様がやってくれるから大丈夫」


「火なら妾も手伝うのじゃ!」



 皆がこちらに目を向けてきたので、スッと指を魚の首の方に向けてなぞり、魔法で頭を落として見せる。



「こんな感じで切断なら僕ができるので大丈夫です」


「師匠、今の魔法は?」


「う~ん、さっき教えてくれた『ウィンドカッター』を強くした感じの魔法、かな?」



 さっき質問に答えている時、僕もちょくちょく質問をして教えてもらった。確か風魔法にそんな名前の似たような効果の魔法があったはずだ。



「あ、毒があるかの確認はアイラが魔道具でしてくれたので大丈夫だと思います」


「これのお陰」



 アイラが料理長の方に魔道具を向ける。



「あぁ、なるほど。役に立ってよかったです」



 アイラの話ではこの人が魔道具を譲るように陛下に頼んでくれたらしい。さらに言えば、アイラに料理を教えてくれたのもこの人らしい。



「アイラがお世話になりました」


「いえいえ。本当に才能のある子ですよ。城で一緒に働いてほしいぐらいです」


「私はリク様と一緒に旅をしたいからそれは無理」



 なかなかうれしいことを言ってくれるので、なんとなく頭を撫でた。するとアイラの顔が真っ赤になっていく。こんな表情のアイラ初めて見たかも。弟子4人がこちらを見てニヤニヤしているのは気のせいか。



「それでリク殿、何匹ぐらいいるのですかな」


「100はいると思いますよ。なので街の人にも分けれればなと。料理人の方には苦労を掛けるかもしれませんが」


「いえいえ、それほどの量、腕が鳴ります」



 そう言ってもらえるとすごく助かる。

 話し合いの結果、城の前の広場を貸してもらえることになった。





「なんかすごく恥ずかしいんだけど」


「これだけ人がいたらね。はい、これお兄ちゃんの」


「ありがと」



 城の前の広場で魚を出して、指示された通りに切断するという作業をしているのだが、僕らを囲むように人が集まってきていた。

 弟子4人はこのことを伝えるべく孤児院やここから離れている家の人たちのところへ、シエラとアイラは料理を手伝いに行っている。まだすべての孤児院に僕の寄付したお金が回っているわけではないらしく、孤児たちに勉強を教えるというのも取り敢えずは、弟子4人がいた所だけでやるとのこと。



「お兄ちゃんも案外やることなかったね」


「まぁ、この大きさだしね」



 切断したのはいいのだが、それを料理するのに時間がかかるため、結局僕も暇となってしまった。



「シエラ、それ以上つまみ食いしたら皆の分が無くなる」


「このぐらい変わらんじゃろ」



 みんなの分が無くなるってどんだけ食べてんだよ。完全につまみ食いの域を超えている。



「主様、妾が場所を教えたあの魚が食べたいのじゃ!」


「いや、あんなサイズのこんなところに出せないから。また旅に出てからならいいから今は我慢してくれ」



 僕らが食べたときも少しだけ切り取って食べtだけなのでほとんど残っている。そもそもドラゴンよりも大きいのだ。こんなところに出したら近くの家が潰れてしまう。



「確かにそうじゃな。我慢するのじゃ」



 シエラが人を気遣うなんて珍しい。魚に毒でも入ってたかな?



「この街の人間は良いやつが多いからな。気遣ってやるのも吝かではないのじゃ」



 そんな話をしていたら陛下とマルクス王子がこちらへと近づいてきた。



「そんなに大きいのか?」


「ここは確かに広いですけど、ここに出したら近くの家が潰れるかと」


「凄いのう。リク殿はどのようにしてそんな魚を?」


「私が教えてあげる!」



 ルカが楽しそうに説明をする。すぐに終わったのでそんなに話すことはないと思うのだが。

 その途中で、今度はアイラがこちらに来た。



「リク様、魔道具だけじゃ足りないから魔法で照らしてほしい。できればこの辺り全体がいい」


「でもそれだと周りの家で寝てる人に迷惑じゃないかな」


「それなら僕たちが聞いてきます!」


「師匠のお陰で私たち結構有名なので、多分許可してくれると思います」



 帰ってきた弟子4人組の後ろには子供がたくさんいる。孤児院の子供だろう。せっかくの提案なので4人にお願いすることにした。ゼナとユニは子供たちの面倒を見なければならないため、二人が手分けして行ってくれた。



「リク殿? ルカから空を飛ばしてもらったという話を聞いたのじゃが」



 陛下がすごくワクワク顔でこちらを見てくる。隣にいるマルクス王子も同様だ。二人とは違い、後ろにいるルカは恥ずかしそうにしていた。



「ルカ、風魔法使えたよね?」


「え? 使えるけどそれがどうかしたの?」


「僕が二人を軽くするから魔法で動かしてあげたりできる?」


「そのぐらいなら出来るよ!」



 ……ギルドから城に向かうときもルカに任せればよかったか。



「何? 顔に何かついてる?」


「いや、何でもないよ」



 一応ルカも含めた3人を軽くする。ルカの魔法で3人がふわりと浮く。



「おぉ」


「これは凄いな」


「じゃあお兄ちゃん、ちょっと行ってくる」


「一応僕から見えるところにしてね?」


「分かった」



 丁度ゼルとヴァンが周りの家の許可をもらってきてくれたので、適当な高さに光の球を設置する。これでルカたちも周りが見やすくなったはず。

 この辺り一帯がちょっとしたお祭り騒ぎのようになっていた。僕のいた村では絶対に見れない光景だ。こんなのもいいなと思いながら僕らは食事を楽しんだ。

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