第07話 天才魔法使い、城に戻る

「生きた心地がしなかったのじゃ……」



 シエラだけがぐったりとしている。中には空の散歩を楽しんでいたものまでいたというのに。口のわりにだらしないやつだ。



「これ妾が悪いのかや!?」



 ちなみに降りたのは城の訓練場だ。そこにはなぜか弟子4人組の姿もあった。



「「「「し、師匠!?」」」」


「久しぶり……でもないか」


「この間まで全然違う場所にいたからそんな気分にもなるよね」


「ガノード島であった出来事が濃いせいだと思う」



 たまにあるよね。たいして時間たってないのに久しぶりに感じること。



「妾はそんなこと感じんのぞ?」



 それはドラゴンから見た時間の流れと人から見た時間の流れが違うせいだろう。シエラが久しぶりって言うのって何十年も会っていなかった時とかじゃないかな。



「ところで陛下がどこにいるか知ってる?」


「それなら私が呼んでま、まいります!」



 訓練していた兵士の一人がそう提案してくれた。せっかくだし甘えておこう。にしてもそんなガッチガチに緊張されたら接しにくいんだけど。



「じゃあお願いします。後、そんなに緊張しなくていいですよ」


「こ、これは失礼しました! では、行ってまいります!」



 いや、別に謝ってほしかったわけじゃないんだけどな。



「あの人、師匠に憧れてんだぜ」


「あの人だけじゃない、です」


「師匠の勇士はいろんな人が見てたので今では王都の人気者ですよ」


「弟子である僕らも鼻が高いです」



 恥ずかしいから人前でよいしょするのはやめていただきたい。

 ふと気になったことを弟子たちに聞いてみる。



「そういえばなんであの時、街の人も一緒にいたの?」



 なんか色々ありすぎて全然気にならなかった。忙しいと細かいところに手が回らないというのは困りものである。



「実は師匠が街を出た後――」



 4人から僕がストビー王国を目指して街を出た後のことをいろいろ聞いた。

 城の訓練に呼ばれたのは多分陛下が戦ってみたかったとかじゃないかな。それにしてもドラゴンの大群が来て国民が逃げないって凄いな。愛国心というやつか。



「待たせたな、リク殿」


「いえいえ、こちらこそ突然すいません」



 4人の話がちょうど終わったタイミングで陛下と王子がこちらへやってきた。



「ガノード島へは行かなかったのか?」


「行ってきましたよ?」


「……まだ2日しかたってないと思うんだが」


「お兄ちゃんのバフ魔法が掛かったシエラが全力で飛んだら数時間で着いたの」


「寝てたから実感ないけど」


「お主ら、妾に頑張らせといて昼寝とは本当にふざけておるのじゃ」



 そんなこと言われてもあんなポカポカ陽気で寝るなというのは酷というものだと思う。

 僕らの会話を聞いて周りは口を開けてポカンとしている。最初に我に返ったのはマルクス王子だ。



「そ、それで僕らに用というのは? 珍しい食料か何かか?」


「そんなところですね。ガノード島の周辺の海の幸採ってきたので後で城の料理人をお借りしたいのですが……」


「おぉ、それは楽しみじゃのう」


「かなりの量があるのでみんなで――」


「リク様、本題はそっちじゃない」



 危ない。大事な話を忘れるところだった。



「この間のドラゴンに刺さってたあれあるじゃないですか。あれに関係ありそうなものをガノード島で見つけて回収してきたので場所を提供して欲しいのですが、いいですか?」



 提供して欲しいのはギルドの人たちなんだけど、まぁいいや。



「おぉ、それは助かる。実は手がかりもなくてのう。儂たちも困っておったのだ」


「我々ギルドも全力で調査はしているにもかかわらずな」



 国とギルドが総力あげて探しても手掛かりなし……っていうか2日しかたってないんだから仕方なくない?



「そう考えると主様が2日で何となしに手がかりを見つけてくるのじゃから、探している者からしたらたまったものではなさそうじゃな」


「あー、それは確かにあるかもね」


「リク様相手なら仕方ない」



 え、これ僕が悪いの?



「リク、場所を案内するから付いてきてくれ」


「儂もついて行くとしよう」


「いえ、それなら私たちがやるので陛下と王子は部屋に戻ってください」



 普通に一緒に行こうとしていた陛下と王子に待ったがかかる。この人は確か孤児院に寄付するときに相談に乗ってくれた大臣だ。



「ではリク殿、また後でな」


「料理人は僕が声をかけておくから安心してくれ」


「ありがとうございます」



 二人がとぼとぼと元来た道を戻っていく。



「実はリク様が来ている間、公務の方が全く進んでいなかったもので今それを片付けているのですよ」


「なんかすいません」


「いえ、リク様のせいではありませんよ。あれよこれよと理由を付けて訓練場の方に顔を出していたあの二人の責任です」



 なにやってんだあの人ら。



「お父さんと兄貴は何というか……戦闘狂なところがあるから……」


「あー、なるほど」



 そんなことない、とは言えなかった。アイラも目をそらしている。



「師匠! 後で訓練に付き合ってくれませんか?」


「いいよ。こっち先に片付けるからちょっと待っててね」



 何かその場が盛り上がった。どっちみちあの大量の資料の解読とか僕じゃ役に立たないし、夕飯までの時間はここで過ごすとしよう。



「では案内します」



 僕達はギルドの人たちと一緒に案内されるがままに進んでいった。





「僕、多分ここに長時間居られない」



 そこら中に何かがびっしりと書き込まれた紙が積み上げられている。その間を縫うように置いてある机では人が仕事をしている。活字に対して拒絶反応が。



「お兄ちゃんこういうの苦手そうだよね」


「リク様はこんなことする必要ないから問題ない」


「ふむふむ、読めん」



 何がふむふむだ。ドラゴンには、人間の文字は難しかったらしい。

 奥へと進むと開けた空間に出た。随分と広い空間だ。ここなら回収した船も全部出せそうだ。



「資料の方はここにお願いできますか?」


「分かりました」



 取り敢えず空間の隅の方に地下にあった資料と魔道具を積み上げる。



「凄い量じゃな。解読に時間がかかりそうじゃ。それにこの魔道具……城で使われるような代物がいったいなぜ――」



 なんかギルドマスターが一人で考えだしたので、船でも出しておこう。改めて見ると辛うじて原型が分かるぐらいに損壊している。



「随分と大きいですね。わが国でもこれほどのものは持っていません」


「その……中に乗っていた人も回収したのですがどうしますか?」



 爆発なんてするからなかなかグロッキーな状態のものがほとんどだ。できればあまり見たくない。



「それは最後で頼む。ここにはそういうのが苦手な人間もおることじゃしな」



 そういってギルドマスターは僕が出した資料の方にいるルカの方を見る。まぁ、確かに。ルカが出て行ってからにしよう。そういえばアイラはこういうの大丈夫なのだろうか。



「私は大丈夫」



 ナチュラルに心を読まれ過ぎてだんだん慣れてきてしまった。嫌な慣れである。



「なぜ妾には聞かんのじゃ?」


「食料が無くなって人間を狙ってたやつが苦手ってことはないかなと思って」


「ちょっと待て、今不穏なワードが聞こえたんじゃが……。人間をなんだって?」


「いえ、なんでもないです」



 世の中知らない方がいいことも多いのだ。今度機会があればシエラが人間を襲わなかった理由を教えてあげようと思う。

 そういえば勇者が何だかんだしてドラゴンと互いに不干渉みたいなことをしたって話を聞いた気がするけど、そこら辺どうなってるんだろう。



「後は腐ったドラゴンですけどどうしますか?」


「一体だけ出してくれるか? 必要になったら――」


「言ってくれればまた渡しますよ」


「すまんな、本来なら儂たちがやるべきなのじゃが」


「困ったときはお互い様ですよ」


「主様が困ることなんてなさそうじゃがの」


「最初のころお金に困ってたぐらい」



 あったね、そんなことも。



「ではリク様、遺体はこちらの部屋にお願いします」


「分かりました」



 部屋を移動して遺体を出す。ちなみにルカは事情を話したら大人しく下がってくれた。

 それを確認してからアイテムボックスから回収した遺体を出した。



「この間は暗くて気が付かなかったけどこれって……」


「魔族?」



 遺体には僕らと同じ人間と、頭から角を生やした、魔族のものがあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る