第20話 冒険者、実力をつける
「よっし!」
ヴァンの嬉しげな声が辺りに木霊する。師匠と勇者の戦いから数日後、ヴァンが魔力で足場を作ることに成功した。まだ一つだけだが、ヴァンの身体能力ならかなり高い位置まで飛べる。
「僕も出来た!」
ゼルは剣と盾、両方に魔力を込められたようだ。二つの物に同時に魔力を込めるのはかなり難しいらしい。後は魔力を込めるのを攻撃が当たる瞬間だけに出来るように練習するらしい。魔力量がそもそも多くないから、ずっと魔力を込めていたら長く持たないとか。ヴァンは射撃の時だけ矢じりに魔力を込めればいいのでその点はあまり困っていないようだ。
「うわっ!」
「ご、ごめん」
ユニのいる方から光が発せられる。師匠が目くらましで使ったのを真似して練習しているようだ。ユニは何か一つではなく、沢山の種類の魔法を練習をしていた。状況に合わせていろんな魔法を使う師匠を目指してのことだろう。私はと言えば……。
<バチンッ>
木が少し焦げ付く。私は雷属性の魔法の練習をしていた。火属性の魔法と違って、思った方向に飛ばすのが難しい。私が目指しているのは雷が手元から走っていく、素早さ重視のものだ。雷の球を作って飛ばすのならすぐにできたのだが、決まった形のないものだと思ったよりもうまくできなかった。上手くイメージできていないからだろうか。
☆
「最近はかなり稼げるようになったよな」
ヴァンの言う通り、私たちは王都に来てからかなりの金額を稼ぎ出していた。まだ数日だが10万ゼルはいっていると思う。師匠の修行のお陰で魔力さえ込めればそれなりの威力の魔法を放てるし、ゼルとヴァンは魔力を込めればたいていの魔物には攻撃が通じるのだ。今日は近くの魔物の討伐依頼が出ていたからその依頼達成の金額も上乗せされていた。
「姉ちゃん、さっき噂話を聞いたんだけど……」
「「「噂話?」」」
お金を持ってきたゼルの言葉に私たちは首を傾げる。最近周りから聞こえてくる噂話と言えば師匠とその弟子である私たち4人のあることないことの話ばかりだ。あぁ、そういえばロイドの雰囲気が少し変わったっていう話もあったかな。そんな話をわざわざゼルが持ってくるとは思えないけど……。
「王都の北側で挑んでくる高ランク冒険者を次々と返り討ちにしてる人がいるって」
王都の高ランク冒険者って実力者が多いんだけど……。そんなことができる人なんて、私たちは一人しか知らない。
☆
私たちが噂になっている場所に向かうとそこには、涼しげな顔で刀を鞘に戻す師匠と武器を切り刻まれて膝をつく冒険者の姿があった。
「やっぱり師匠だったか……」
あの冒険者は確かこの間私たちに師匠の場所を聞きに来た人だ。ギルドに行くとよく腕利きの冒険者に師匠の居場所を聞かれる。最近は私たちが答えないことを理解してから聞かれなくなったけど。
「次々と戦いを挑んだ高ランク冒険者を返り討ちにしてる人がいる、ってちょっとした噂になってますよ?」
私が説明をすると、師匠は不満げな顔をした。多分迷惑しているのだろう。
「そこのあんた! 俺と勝負しろ!」
かかってくる冒険者がすべて高ランクの名の知れている冒険者というのが師匠の凄さを物語っている。きっと師匠、そんなこと知らずに相手してるんだろうなぁ。師匠からしたら誰が相手でも変わらないだろうし。
その後、師匠の隣にいたお姫様とお互いに自己紹介をした。お姫様と聞いて驚いたが、師匠だからということで流した。この流し方をすると師匠は不満げな顔をするのだが、こうでもしないと私たちは頭の整理がつかないのだ。どんな超常現象でも師匠が関係しているのなら納得できる自信がある。
「あぁ、そういえば4人がいた孤児院ってどこにあるの?」
「この王都の北の端にある小さな孤児院ですよ」
師匠の質問に答える。
「なんでそんなことを聞くんですか?」
「寄付しようかなと思って」
私たちは顔を見合わせる。寄付? お金をあまり持っていない師匠が? と一瞬思わなかったこともないが、私たちには一つ心当たりがあった。全く劣化していないドラゴンの死体。相当な値段になるはずだ。私たちは覚悟を決めて聞いてみた。
「あの……師匠?」
「ん?」
「えと、いくら寄付するおつもりです、か?」
「10億ゴールドくらい?」
質問をしたユニがふらりと倒れ、ゼルが支える。
「もしかしてドラゴンを売ったお金ですか?」
「そうだよ。50億ゴールドになった」
次に質問をしたゼルがユニと一緒に倒れていく。寄付する金額が凄すぎる。私たちが頑張って孤児院のためにお金を集めてるのが馬鹿馬鹿しくなるレベルだ。お姫様によると王族ですら簡単に動かせない金額らしい。
「……リク様ならいい国を作れそう。」
師匠は自分では無理だと言っていたけれど、天候を自分で操れる師匠ならかなりいい線いけると思う。
その後は、魔物と戦ったばかりという私たちに師匠が気を遣ってすぐに切り上げてくれた。師匠は旅をしているからそのうちどこかで会うかもしれない。その時には今以上に師匠に追いつけるように努力するとひそかに心に誓った。
☆
数日後、師匠が街を出ていくのを見送り、私たち4人は、寄付をするべく孤児院へと足を運んだ。師匠の話を聞く限り、寄付が必要かどうかは微妙なところではあるが。
「「「「おはようございます」」」」
「はい、おはようございます」
私たちはシスターにあいさつを済まし、孤児院の手伝いへと向かった。
「なにこれ……」
明らかに今までと食事の量が違う。
「国からの支給額が急に増えたんですよ。なぜかは分かりませんが。きっと神の御加護でしょう」
そういってシスターが祈り始める。
「確かに、神って言われても納得できる気がするな」
ヴァンが変なことを言っているが、なんか妙に納得できてしまう。ついに師匠が神様に。そんなくだらないことを考えていると、国の大臣が直々に孤児院へと来た。
「ここの責任者はどなたですか?」
「私ですが……」
シスターが不安そうに前に出る。
「あなたたちには暫く他の場所で生活していただきますので、数日後までに荷物をまとめてください」
「あの、それはどういう理由で……」
「実はですね――」
その大臣の話によると、孤児院を学びの場所として新しく設立する計画の第一段階としてここが選ばれたらしい。優秀な者は直接国に雇ってもらえるとか。ここが選ばれたのは大金を寄付をした人の意向とのこと。その説明を聞いたシスターや子供たちは歓喜に包まれていた。
「あなたたちがリク殿の弟子ですかな?」
「はい、そうですけど……。何か御用ですか?」
「陛下からは出来る限りあなたたちのお手伝いをするように言われております。何かありましたらご連絡ください」
師匠? いつの間に陛下とそんなに仲良くなったんですか? というか国の後ろ盾がある冒険者とか聞いたことないんですけど!
「それとですね、一つお願い事がありまして……」
大臣が申し訳なさそうに話す。内容は、たまにでいいので私たちに国の兵士の訓練に付き合ってほしいというものだった。師匠に弟子がいると知った陛下と王子が興味を示したらしい。なんと、訓練に参加するだけで給与まで出るとのことだ。もちろん、私たちは嬉々としてその申し出を受けた。早速明日の午前中の訓練に参加してほしいとのことだ。
☆
「師匠、凄いもの残していってくれたね」
「僕達は師匠の顔に泥を塗らないように頑張らないと」
「私たちは、師匠の、一番弟子だし」
「陛下とかマルクス王子と訓練するのの楽しみだな」
ヴァンの言う通りあの二人は王族でありながら国のトップレベルの実力者だ。是非とも一度その実力を見てみたい。
せっかく師匠の与えてくれた機会だ。逃さないようにしなければ。
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