第21話 冒険者、城での訓練に参加する
「お前たちがリクの弟子か」
私たちは城の訓練場で兵士の方々に自己紹介をしていた。目の前にいるのはマルクス王子だ。隣には陛下もいる。
「リク殿の弟子ならこの国の兵士じゃ相手にならんかものう」
いくらなんでもハードルが高すぎる。陛下に対してこんなことを考えるのは失礼だけれど、この人は初見で何を言っているのだろう。
「陛下、私たちはまだまだ師匠の足元にも及びません。師匠を基準に考えられても参考にならないかと」
ゼルがすかさずハードルが下げる。師匠を基準にしたハードルなど越えられる気がしない。
「そうじゃな、確かにリク殿を基準に考えるのは参考にならんな」
私たちがほっと胸を下ろしたのも束の間、陛下の口から驚きの言葉が飛び出す。
「と、言うことで儂とマルクスを相手に2対4で練習試合をしようではないか」
何が『と、言うこと』なんだろう。心なしか陛下が楽しそうにしているように感じるのは気のせいだろうか。要は実力を見せろと言う事だろうか。陛下の実力を実際に見れる機会なんて滅多にないので、私たちとしては断る理由なんて無い。
それぞれ訓練用の武器を手に取り、作戦を立てる。私たち4人と陛下とマルクス王子はたがいに距離を取り、武器を構える。いつもは使わないが、私とユニは杖を持っている。たまに杖を使った修行もしているので、加減を間違えたりはしない。
「始め!」
二人が正面から突撃してくると同時に、ユニが両手を前に出し、私たちは目を腕で覆う。ユニの手元からまばゆい光が発せられる。師匠が私たちを助けたときに使ったのを真似したものだ。二人の目がくらんだ隙をつき、ゼルが片手剣を、ヴァンがナイフをそれぞれ陛下とマルクス王子の首筋に当てる。
「参ったよ」
「リク殿の弟子はやはりすごいのう」
周りからも感嘆の声が上がっている。
「師匠のお陰、です。今の魔法も、師匠の、受け売りですから」
ユニの言う通り私たちが凄いのではなく、師匠が凄いのだ。
「リク殿が来てから暇を持て余すということが無くなったわい。儂もまだまだ強くなれそうじゃ」
ふぉっふぉっふぉと笑う陛下。試合に負けたにも関わらず、楽しそうな表情を浮かべている。話を聞くと、実力者を呼んでは模擬戦をしていたそうなのだが、いつからか陛下に勝てる者がいなくなってしまったらしい。それ以来、息子であるマルクス王子を強くすることを楽しみにしていたとか。だが、師匠と会ってまだまだ上がいて、自分の知らない技術があることを知ったらしい。
「若い頃は各地を回っていたのだがの。リク殿から教えてもらった技術は聞いたことがないものばかりじゃったよ」
その後、陛下とマルクス王子、城の兵士と共に訓練に励んだ。私たちがやっているのはいつもと変わらないものだったが。城のみんながやっていたのは私たちが教えてもらったばかりの時にやっていたものだった。まだ教えてもらって1週間も経っていないらしいのでそれが普通なのだろう。
そう考えると、あそこでゼルとヴァンと共に2対2で剣をふるっている陛下とマルクス王子が特殊なのだろう。剣を使う者同士で戦ってみたいというゼルの言葉に全員が承諾し、もう一度模擬戦をすることになった。武器を振るたびに青い光の筋が現れ、武器同士が当たるたびに火花が飛び散ってる。陛下は身の丈ほどある大剣、王子は直剣、ゼルは片手剣と盾、ヴァンはナイフを手に戦っていた。ヴァンは弓だけでなく近接戦のためにナイフを使った戦闘の修行もしていたので、なかなか様になっている。
「なっ!」
陛下とヴァン、マルクス王子とゼルでお互い距離をとって戦っていたのだが、マルクス王子のフェイントにガードの姿勢をゼルがとった途端、マルクス王子が方向を変えて走り出す。
「ヴァン、そっち行ったぞ!」
「これでどうだ!」
「あっぶね!」
陛下の攻撃を後ろに飛んで避け、そこを背後からゼルの隙をついたマルクス王子が狙う。だが、ヴァンは間一髪のところで空中を蹴りマルクス王子の上へと避け、反対側へと着地した。
「今のもリク殿から?」
「はい。師匠みたいに空中は走ったりはできないけどな、です」
ヴァンの敬語があやふやすぎて陛下と王子の機嫌を損ねないか見ているだけで心配になる。今度ちゃんと教えなければ。
「空中を走るか……。儂もやってみたいのう」
陛下の顔には子供のような無邪気な表情が浮かんでいた。4人の決着は次回に持ち越しということになり、後ははいつも通りの修行をすることになった。いつも通りと言っても、私たちがやっているものは周りの興味を引くものだったらしい。
「あの……、さっきの魔法はどうやったんですか?」
私とユニの周りには城の魔導士が、ゼルとヴァンの周りには陛下と王子を含めた城の兵士たちが集まってきた。質問されたのはさっきユニが師匠をまねて使ったものだ。
「あれは『ライト』、です」
「でも、その魔法はあんなに強く光りませんよね?」
「師匠から詠唱の話は聞きましたか?」
「えぇ、聞きました」
「じゃあ、詠唱では込められる魔力に、限界があるというの、は?」
魔導士たちが驚いている。師匠は私たちから質問をしないと、こういうことは教えてくれない。というか、師匠にとっては当たり前のこと過ぎて気付けないだけだとは思うけれど。コップの使い方を教えるときに、わざわざどこまで注げば水が零れるのかを教えないようなものだろう。見れば分かるのだから。
私たちは師匠が見れば分かるものが分からないのだ。だから、ちゃんと質問をしないと師匠も私たちが何を知らないのかが分からない。
「では魔力を強く込めればより強く光るのですね?」
「はい。このように……」
ユニがいつか師匠が見せてくれたように光の球を出し、明るくしたり暗くしたりして見せる。周りの魔導士たちが「ならあの魔法に魔力を込めれば……」「いや、それならこっちの方が……」などと考えに耽っている。確か国に所属している魔導士にしか公開されない魔法とかもあったはずだ。ダメもとで教えてもらえないか聞いてみると、快く承諾してくれた。何でも、私たち4人には出来る限り手助けをしろとの陛下からの命令らしい。そう言えば孤児院に来ていた大臣がそんなことを言ってたような……。
☆
「す、すごい……」
私たちは城の一部の人間しか入れない書庫に来ていた。そこにあったのは大量の魔導書。小規模な誰でも知っているようなものから、数百人で発動させる公開するのが危険なものまであった。
……これ本当に私たちが見ていいものなんだろうか。
「ゼナ、これ……」
ユニが一冊の本を持ってきた。中に書いているのは雨を降らす魔法。百人近いの国の魔導士が集まって魔法を発動させれば、10分程度の雨を降らすことができるらしい。大昔に一度、森の火事を鎮めるために使ったらしいが、範囲こそ広かったものの、雨の量も小雨とも言えない弱いものだったらしい。私たちはこの魔法を見たことがある。雨の強さも小雨などではなかったし、時間も10分ではなく一晩中だ。
「師匠なら意図的に大災害を起こせそうだね……」
「あんな力を持っているのが、師匠でよかった」
ユニの言う通りだ。師匠みたいな力をロイドみたいなのが持っていたら、碌なことにならないのは目に見えている。
☆
私たちはそれからも数日の間、城での訓練に参加していた。いつも通り、訓練を始めようと装備を整えた時だった。
「陛下! 北西の方向から複数のドラゴンがこちらに向かっております!」
そんな声が訓練場中に響いた。聞いた人間がそれぞれの反応をする中、私たち4人の反応は同じだった。師匠ならこんな時どうするか。そんなこと分かりきっている。きっと何の苦労もなく倒してしまうのだろう。師匠に憧れている私たちとしてはこんなことで逃げられないし、師匠の顔に泥を塗るようなことをする訳にはいかない。それに、この国は私たちが育った国で、知り合いが沢山いる大切な場所だ。そんな簡単には諦められない。
私たちは顔を見合わせ、一度頷いた後、陛下のもとへと向かった。
「もし戦うのなら私たちも協力します」
「少しは力になれるはずです」
「ここは私たちにとって、大切な場所、ですし」
「師匠ならきっとこうするだろうしな、です」
私たちの言葉を聞いて陛下は大きくうなずいた後、周りの兵士へ命令を出した。
「即刻国民にこの事を伝え、避難の呼びかけを急げ! 国の兵士は全員召集せよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます