第11話 天才魔法使い、寄付をする
「やっぱり師匠だったか」
ヴァンが話しかけてくる。やっぱり?
「次々と戦いを挑んだ高ランク冒険者を返り討ちにしてる人がいる、ってちょっとした噂になってますよ?」
ゼナが丁寧に説明してくれる。誰だよ、そんな噂を流したやつ。やたら人が集まってきてるのはそのせいか。
「そこのあんた! 俺と勝負しろ!」
8人目。
☆
「さすが師匠です」
「たまに師匠が魔法使いだってこと忘れそうになります」
「師匠は相変わらず人間離れしてるよな」
「たしか今の、Aランク冒険者、ですよね?」
「ですよね」なんて聞かれても相手の冒険者のランクなんて知らない。
「この人たちがお兄ちゃんが言ってた弟子?」
「そう。リク様の一番弟子」
お互いに自己紹介をしてもらった。ルカがこの国の姫というのを知って、驚いていたけれど師匠だからと片付けられた。僕と多少つながりを持った人はだいたいそれで納得する。……解せない。
無駄話もほどほどに4人に宿の場所を聞いてみた。王都を出る前に顔を出そうとしても居場所が分からないとどうしようもないからね。
「俺たち、あんまり宿にはいないぜ」
ヴァンに話を聞くとどうやら、毎日のように王都周辺の魔物の相手をしているので、宿にいるのは寝る時ぐらいらしい。元気いいなぁ。それでも一応ということで教えてもらった。
「お兄ちゃんに用があるときはお城に来てね!」
「師匠、あそこに住んでるんですか……」
「いやいや、少し宿を貸してもらってるだけだから」
「城を宿替わりって……」
4人が呆れ顔でこっちを見る。言い訳もむなしい結果に終わってしまった。……そうだ、聞きたいことがあったんだった。
「4人がいた孤児院ってどこにあるの?」
4人がいたらしい孤児院は王都にあると聞いている。王都のギルドに初心者向けの依頼が少ないため、『シートル』の街に移動してから冒険者になったらしい。採取系の依頼も、王都では採取する場所の魔物が強いせいで初心者では受けられないとか。冒険者も大変だな。
「なんでそんなことを聞くんですか?」
「寄付しようかなと思って」
「あの……師匠?」
「ん?」
なぜか4人が身構えている。
「えと、いくら寄付するおつもりです、か?」
「10億ゴールドくらい?」
聞いてきたユニが後ろにふらっと倒れる。僕も貧乏な村の出身だったからその気持ちはなんとなく分かる。ユニを支えながらゼルが聞いてくる。
「もしかしてドラゴンを売ったお金ですか?」
「そうだよ。50億ゴールドになった」
ゼルがユニと一緒に倒れていく。ゼルをヴァンが、ユニをゼナが支える。ナイスキャッチ。
「お兄ちゃん、孤児院にそんな大金あるって分かったら、いろいろ面倒なことになると思うよ」
ルカの話では、大金が一つの孤児院に入るとそこに他の孤児院から子供が殺到したり、泥棒が入ったりするそう。後者はルカの予想ではあるが。普通、孤児院に警備なんて必要ないしね。お金がないことなんて分かり切ってるし。国中の孤児院に均等に寄付するにしても、泥棒が入るんじゃ大金を寄付するのはまずいかな。そんなことを考えていると、ルカがある提案をしてきた。国にお金を渡して孤児院のために使ってもらえばいいと。一応、孤児院は国営らしいので国の予算からお金が下りるらしいのだが、あまり足りていないらしい。帰ったら陛下にでも相談しよう。
「師匠といると自分の中の常識がすごい勢いで崩れていくな」
「そんな大金出せるのなんて王族ぐらいじゃないですか?」
ヴァンとゼナがそんなことを言う。
「王族でも無理よ。小さいお城を建てられるレベルの大金を、個人で自由に動かせるわけないじゃない」
「……リク様ならいい国を作れそう。」
作らないし、作れないと思う。僕に出来そうなのは魔法で土や天候をいじって、年がら年中豊作にすることぐらいだ。
そういえば、僕の方へ来たのなら何か用があったのかなと思い、ゼナに聞いてみたのだが、たまたま噂を聞いので来てみただけらしい。要はただの野次馬だ。
4人は魔物との戦闘を終えたところらしく、あんまり長くここに居させるのもあれなので適当なタイミングで別れた。
「お兄ちゃん、旅に出る前に武器が欲しい!」
「あぁ、杖か」
4人の修行中に使っているのを見て分かったのだが、杖は魔法の威力を底上げしてくれる。詠唱での発動には、込める魔力にある程度限界がある。簡単に言えば威力に限界があるのだ。杖は、それに魔力を上乗せでき、さらに自分である程度調整できる。その魔力は自分の魔力を吸収した杖からきている。無詠唱の魔法では、魔法に込める魔力は自分で調整できるので必要ない。
しかし、無詠唱で魔法を発動するための魔力を集めるのに慣れていない人間にとって、勝手に魔力を吸って魔法に上乗せしてくれる杖は使い勝手がいい。小さくても魔法を発動できる魔力を集められれば、それなりの威力の魔法を放てるのだ。
弟子になった2人の魔法使いは、杖がなくても威力のある魔法を打つことを目標としていた。杖があればさらに威力が上がるけど、杖がなくても戦える。そんなレベルが理想だそう。わが弟子ながら、素晴らしい向上心だと思う。
そんなわけで、武具屋に来ていた。
「なん……だと……」
そこには、どこかで見たことある効果のブーツが置いてあった。
『魔力を流すと奇麗になります』
コートと刀の効果をご飯を食べながら自慢した時、ルカにこんなことを言われた。
「それお兄ちゃんじゃないと使えないじゃん」
確かに。そもそも詠唱しないと魔力を扱えない人ばかりなのに、こんな効果の道具詐欺に近い。あぁ、それで『シートル』の街の武具屋の人も買おうとしている僕にあんなことを言っていたのか。と、思っていたのだが、店員の人に聞いてみると杖を使えばだれでも使えるそう。なるほど。ちなみに、刀の効果を話した時、マルクス王子はしばらく固まっていた。
もちろんブーツは買った。お値段40万ゴールド。……物価の問題か? 刀の二倍するブーツとはこれいかに。
「リク様……」
「お兄ちゃん! これがいい!」
二人は同じ杖を選んでいた。ユニが持っていたような細身で50センチほどのものだ。アイラが申し訳なさそうに値段を言う。10万ゴールドらしい。2つ合わせて僕が買ったブーツの半分か。何だ楽勝じゃん。……もう少し自分の金銭感覚を見直した方がいいかもしれない。
☆
「見て見て! お兄ちゃんに買ってもらったの!」
ルカが杖を陛下とマルクス王子に自慢する。まるでおもちゃを買ってもらった子供のようだ。
「すまんのう、リク殿」
「いえいえ、お金には困ってないので。それで陛下に相談があるのですが……」
「リク殿からの相談とは珍しいのう」
陛下に孤児院のことについて話すと、担当の大臣を連れてきてくれた。
「それで、いくら寄付してもらえるんですか?」
「10億ゴールドほど」
「……は?」
弟子たちよりもフリーズの仕方が甘いのは、日ごろからそれなりの金額を動かしているせいなのだろう。
「これこれ、リク殿はルカの恩人だぞ」
「しっ、失礼しました!」
「いえ、別に気にしなくていいですよ」
僕は何かあったら4人のいた孤児院を優先するようにお願いをした後、何と無しに気になったことを聞いてみた。
「なぜ孤児院から出た子供は冒険者になる者が多いのですか?」
「文字の読み書きが出来ないのが大きいですね。彼らには、それを身に着ける機会がないのですよ」
冒険者には読み書きが苦手なものも多いため、ギルドの依頼書には絵で表現するなどの工夫がされているらしい。少しでも人手が欲しいギルドなりの工夫だろうか。僕は陛下、大臣と寄付したお金をどう使うかを話し合ってから寝室へと向かった。
明日は二回目の北側の散策だ。お金があるから明日は食べたいものを食べられる。一昨日行ったときに見た高級そうなレストランにでも入ってみよう。
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