第12話 天才魔法使い、王都を発つ
目が覚めた僕は違和感を覚える。アイラがいないことに。10歳にも満たない子供と一緒に寝ないと違和感を覚えるってかなり重症だな。
「おはよう、リク様」
「お兄ちゃん、おはっは~!」
「あぁ、おはよう」
部屋を出ると二人が出迎えてくれた。ルカの奇怪なあいさつはさておき、さっさと午前中の訓練を終わらそうと思う。今はかなりの大金を持っているので、この間のように高すぎて買えないなんてことはないはずだ。
☆
「陛下」
「なんじゃ?」
「わざとやってますよね?」
訓練場に来てみれば、見知った顔が一つもない。全員に教えろと? いや、ご飯とか宿とかいろいろお世話になってるからいいけどさ。
「マルクスだけじゃ物足りなくてのぅ」
「なっ! 父上、今日こそ勝って見せます!」
え、そういう問題? 二人は木剣を握りしめて少し離れたところへ歩いて行く。
「国の警備、大丈夫なのかな……」
「それなら問題ないと思うよ。こくりょくきょうか? とか言って大臣たちが国の兵士の人たちの予定を合わしてたから。昨日お兄ちゃんが急に予定を変更して文句言ってた人もいたよ?」
知らんがな。そんなことになってたのか。というか孤児院に寄付しようとしたときにあんなアドバイスが出てきて、なぜ国力強化って単語が分からないのか。
「おにいちゃんが嫌ならやめてもいいけど……」
「いや、いろいろお世話になってるしこれくらい気にしないよ」
ただ、毎日同じ作業の繰り返しって結構しんどいんだよなぁ。
「詠唱の説明なら私がしてあげる!」
ルカが胸をたたき、任せろというジェスチャーをしてくる。まぁ、それぐらいならルカにでもできるだろうし、何より僕が楽をできるので任せることにした。
☆
「と、言う訳なの!」
なるほどという感じの相槌を取っている生徒?たちを見て、ルカが得意げな表情を見せる。
「どうどう? うまく説明できてたでしょ?」
ルカ……。
「詠唱のことちゃんと理解できてたのか!」
「ねぇ、馬鹿にしてない?」
「そんなことない。リク様はルカの才能に驚いただけ」
「私の……才能……」
ルカが馬鹿にされていないのを確信したのを見てアイラが笑いをこらえている。君たち結構いいコンビだよね。
「ここに一列に並んでくださーい」
「お兄ちゃん、なんか適当になってない?」
いやいや、そんなことある訳ないじゃないですか。
☆
「終わったぁー」
軽く背伸びをする。
「お疲れ様」
「じゃあ行こっか、お兄ちゃん!」
「なんかいつにもまして元気いいな」
「だって今日は好きなもの食べていいんでしょ?」
えぇ、何その前回は遠慮してましたみたいな言い方。パフェ食べてたじゃん。
「王族だから私たちとは感覚が違うんだと思う」
「何の話?」
え? 今僕口に出したっけ? 僕が驚いた表情をするとアイラが得意げな顔をする。アイラには人の感情を読み取る超能力でもあるのだろうか……。
☆
僕らはレストランで異様に高いパスタを食べた後、街をぶらぶらとしていた。そしてふと思う。
「今ならこの間のよりいいネックレス買えるけどどうする?」
「今のままでいい」
「そうよ。これだからいいの!」
高ければいいというものではないのか。アクセサリーなんてあんまり興味がないから分からないな。その後、この間の喫茶店へと入り、僕はパフェを注文した。
「やっぱりこれ美味しい!」
「他の奴も食べてみればいいのに」
「というか王族ならこれより美味しいものとかいつでも食べられるんじゃないの?」
「お兄ちゃんは分かってないな~」
何だ絶妙に腹が立つ言い方だな。
「危ないからってあんまり外に出れないから、こういうところで食事なんてしたことないの。こんなに街を自由に行き来できるのお兄ちゃんが来てからだよ」
知らぬ間に用心棒にされていたとは……。これから一緒に旅をするなら24時間の用心棒ですか。王族の用心棒とか時給にしたら結構いい値段になりそう。お金には困ってないからそんなつもりはないが。
☆
それから数日間は午前中は城で訓練、午後は街を散策する日々を繰り返していた。そして、街にあったレストランを一通り回ったタイミングでそろそろ旅に戻ろうということになった。朝ご飯を食べながら、僕は陛下にそれを報告した。
「では明日、王都を出ていくのだな」
「はい、そのつもりです」
次は島の中心からやや南西にあるストビー王国目指そうと思う。ここからだとあそこが一番近いはずだ。
「これからよろしくね! お兄ちゃんっ!」
「娘を頼んだぞ」
「妹を頼む」
まあ、アイラが何かと楽しそうにしてたし別にいいか。少し面倒なことになりそうな気はするが。
「足手まとい」
「お兄ちゃんに魔法教えてもらうから大丈夫!」
人頼みかよ。さぁ、訓練もこれで最後だ。
☆
「リク、もう一度僕と戦ってくれないか?」
「僕でよろしければ」
周りがざわめきだし、だんだんと人が集まってくる。だから見世物じゃないんだけど。最近は全員に魔力を感知できるようにしたので僕はただ見守っているだけだった。
マルクス王子の希望で僕らが使うのは木剣ではなく真剣だ。
「お父さんはやらなくていいの?」
「儂は勝てそうになってから挑ませてもらおう」
「リク様はそう簡単に負けたりしない」
「それは分からんぞ。魔法ならともかく剣術ぐらいならの」
一国の王と剣を交えるとか勘弁して欲しいんですけど……。
そんな会話の後、僕とマルクス王子は訓練場の中央へと移動した。
「はじめっ!」
マルクス王子の剣と僕の刀が金属音を響かせながら青い光の筋を描く。周りからは歓声ではなく感嘆の声が聞こえてくる。
☆
「はぁはぁ、参った」
結果はマルクス王子のスタミナ切れで僕の勝ちになった。周りからは称賛の拍手とともに人が集まってくる。
「魔力を多く保有するのはやはりずるいのう」
ずるいなんて言われましても……。
「でもリク様、ドラゴンを倒した時もっと強い光だった」
「ほう。是非見せてくれんか」
なんか弟子たちにも同じことをお願いされた気がするな。僕は刀に魔力を流した。
「これで戦われたら僕の剣はまた真っ二つに切られてたということか」
「これは儂らもまだまだ頑張らんとなぁ」
「陛下たちはそれよりも公務を頑張ってください!」
横から現れた大臣からの一声で笑いが起き、陛下とマルクス王子は何とも言えない表情をしている。これ、笑って済ましていいんですか? というか、ここまで見物に来ている大臣が言えるようなことでもないと思う。
☆
今日の午後は知り合いに王都を出ることを報告に回ろうということになり、初めに一番近いギルドへと向かった。着くとすぐに、応接室に通された。
「それで、今度は何があったのじゃ?」
ギルドマスターが真剣な顔で聞いてくる。まるで僕が問題ごとを持ってきたかのように接するのは止めて欲しい。
「いえ、明日王都を出るのであいさつにと」
「そうか。例の竜の事件が解決するまではここに居て欲しかったのじゃがのう」
僕がいる間に何かあったら助けるし、手助けもする。だが、僕の目的は旅を楽しむことだ。本当に起こるか分からない脅威のせいで旅を止められるのは困る。というか、そんなことを言っていたら旅なんかできないし、そういうときのために兵士や勇者(笑)がいるのだ。僕がここに残る必要はない。
「他のギルドマスターにもお主のことは伝えておいた。ドラゴンのお金はギルドマスターに会えばもらえるからの」
「ありがとうございます」
ギルドを出た僕らは城へと戻った。あとは弟子4人組か。……勇者って知り合いに入りますか? いや、入ったとしても居場所なんて分からないし、分かったとしても行く気はないけど。
☆
「タイミングが悪かった」
「まぁあんまり宿にはいないって言ってたし、しょうがないかな」
一応宿の女将さんに伝言は頼んでおいたので、僕らが王都を出ることは伝わるだろう。その後は城へと戻った。ルカが旅に出たらしばらく陛下やマルクス王子に会えない訳だし、そこから先は自由行動にした。
明日、ルカが王都を出ていくということもあり、今日の晩御飯は豪勢だった。ちなみに、食卓に並んでいるドラゴンの肉は僕が提供したものだ。
僕とアイラは食べ終わったらすぐに寝室に向かった。最後くらい家族三人でゆっくり過ごしてもらおうとアイラと決めたのだ。
僕とアイラは明日に備えて早めの睡眠をとった。
☆
翌朝、城を出るときには城のみんなが見送ってくれて、王都を出るときには弟子4人組が見送ってくれた。デルガンダ王国の王都はすごく楽しめた。次の街に期待を膨らませながら僕らは旅路へと着いた。
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