第10話 天才魔法使い、実験をする
次の日、僕は王都の近くの森の中にいた。昨日の夕食の後、陛下に事情を話して僕の授業は二日目にして臨時休講となった。夕食のドラゴンの肉はすごくおいしかった。
「っと、この辺でいいかな」
手元には昨日の謎の物体を魔法で切って針サイズにしたものが数本。あのやばそうなのは魔法で浮かせながら王都の地下まで持っていった。陛下にお願いをしておいたので、誰も入れないようにしてくれているはずだ。また、針の方も一応魔法で空中に浮かせてある。
「アイラ、さっき言ってた魔物ってどんな奴?」
「人型で武器持ってる。後、へんな仮面付けてる」
僕らが探しているのは魔物と人間を見境なく襲う魔物。バーサーカーというらしい。ここに来る途中、小さい魔物何匹かに針を刺してみた。
結果、その魔物たちは僕らを見た途端に襲うようになった。たとえ臆病な魔物でも、どんな傷を負っていてもだ。息絶えるまでただひたすら僕らに向かってくる。そこで一つの疑問が浮かぶ。ただ狂暴になっているだけなのか、人間を狙っているのか。バーサーカーは魔物も襲うので、魔物や人間を手当たり次第に襲いだしたら前者、人間にしか攻撃しなかったら後者だ。
ちなみに、ルカは置いてきた。というかこっそり出てきた。おかげで王宮の朝ご飯を食べられなかったが、事が事だけに僕も自重した。
「いた」
「ちょっと静かにしててね」
「」コクッ
アイラと一緒に木の上に移動してから実験を開始した。
結果としては人間だけを襲うようになっていた。バーサーカーの姿を見て逃げていく魔物がちらほらいたのだが、そちらには全く興味を示さなかった。少し離れたところで僕たちが視界に入ると嬉々として向かってきた。
その後、針を抜いて僕らが身を隠すと、普通に魔物も襲いだした。それを確認した僕らは、針を魔法で塵にしてから王都へと戻った。
☆
「と、言う感じでした」
「なるほどのぉ」
分かったことをギルドに報告しておく。そういう話だったし。
「誰がそんなものを作っているのか調べなくてはならんな。陛下にも相談するとしよう」
「その調査、勇者様にお任せしてはいかがですか?」
「そうじゃな。話をしてみたら本人もやる気になっとったし」
本人がやりたいというのなら是非ともやってもらおう。というか、今のところ手掛かりはあの鉄の棒っぽい何かだけだけど、どうするつもりなんだろう。まぁいいか。僕には関係ないし。
「そういえば、あれに触れていた職員はどうでしたか?」
「何も起こらんかったよ」
それは良かった。魔物で確かめたときは針を抜いたら元に戻ったが、人間でも同じとは限らないから少し不安だったのだ。
ギルドから出た僕らは王都に戻った。先ほどの森が思ったより離れていたせいで、もう既に日が落ちかけている。城の門のところに行くと、ルカが仁王立ちして待っていた。
「お兄ちゃん! なんで連れて行ってくれなかったの?」
「いやほら、危ないから」
本当に今回はどうなるか分からなかったので連れて行かなかったのだ。アイラはお昼ご飯要員として付いてきてきてもらった。
「アイラは連れて行ってるじゃん!」
「私はお昼ご飯作らないといけなかったから」
「作った料理をお兄ちゃんの『アイテムボックス』に入れておけばいいじゃない!」
なるほど。その手があったか。
「それは私が許さない」
「何よそれ!」
アイラの目が怖い。これは逆らっちゃダメなやつだ。ルカを宥めてから、城に戻ってみんなで食卓を囲む。……この状況になれつつある自分が怖い。
「人間を襲う……か」
「いったい誰がそんなことを……」
「それは勇者が調べてくれるらしいですよ」
どうやって調べるのかは知らないが。
「お兄ちゃんは調べないの?」
「そんなこと言われてもなぁ。正直、手がかりなんてほぼない状態だし」
「リク様でもこんな状態から犯人を突き止めるなんて無理」
「……それ、勇者じゃ多分無理だよね?」
「いや、そんなこと言うなよ。ほら、あれでも勇者じゃん?」
そんな報告をしながら夕食を終え、僕は寝室へと移動した。ルカによってアイラとは別の部屋になってしまったが、夜中に違和感に気付いて起きたら、アイラが隣にいた。なんでだろうね。……まぁいいか。
明日、街の南側に行って食料調達したら、その次の日はもう一度北側に行こう。予想以上の大金が手に入ったので贅沢が出来そうだ。
☆
「お兄ちゃん! おはよっ!」
「あぁ、おはよう。なんか今日早くない?」
まだ外が少し白い。
「昨日みたいに逃げられないように来たの!」
「そうか。でも眠いからもう少し寝かせてくれ。お休み」
「ちょっと待って」
「ん?」
「布団のそのふくらみは何?」
布団をめくって確認する。
「アイラだな」
「へぇ」
ルカが笑顔を浮かべているが、目が笑っていない。なにその顔。寝ぼけた頭で考えるが途中で止まってしまった。ばたんと布団に倒れ込んで意識が遠のいていく。
「「ぐうぇ」」
が、上からの衝撃に意識が呼び戻される。
「ねぇ、アイラ。いつからそこにいるの?」
「昨日の夜?」
その会話、どこかで聞いたことがある気がする。
ルカとアイラのひと悶着が終わってから僕らは朝ご飯へと向かった。
「リク殿ならそこら辺の冒険者に絡まれても問題ないな」
「そうですね。リクならルカのことも安心して任せられます」
王都の南側に行くと言ったらこの反応である。もう少し心配してくれてもいいんじゃなかろうか。
「お兄ちゃんはもっと自信持った方がいいよ。この国で一番強いんだから!」
「リク様は謙虚なだけ」
いや、そういう訳じゃなくてね。なんというかこう……うん、もういいです。
☆
朝食を食べ終わった僕らは訓練場に来ていた。
「一昨日と明らかに人数が違うんだけど」
なんなら一昨日いた人なんてほとんどいない。
「すまないリク、君の話が城中で噂になっていてな。気付いたらこの人数だった」
普通に100人くらいいる。……お昼までに終わるかなぁ。
☆
ギリギリお昼までに終わり、昼食をとった僕らは街の南側へと向かった。
「アイラ、お金は気にしなくていいから、調味料とか調理器具とか好きなの買っていいよ」
「……分かった」
僕が大金を持っているのは知っているので、少し迷っていたが了承してくれた。旅の道中の料理がおいしくなるのに妥協をするつもりはない。
「お兄ちゃん! これ食べてみたい!」
ルカはアイラを見習ってもう少し遠慮した方がいいと思う。僕は3人分のクレープを買って、みんなで歩きながら食べていた。
「おい! あんただろ? 勇者より強いってのは」
7人目。なぜこうも冒険者は戦闘狂が多いのだろう。ルカの話では自分の実力を証明したいらしい。なら勇者にでも挑めよ。
「それはお兄ちゃんが勇者じゃないからだよ」
「どういうこと?」
「ほら、勇者に剣を向けるといろいろ問題になるから」
僕ならいいのかよ。今まで通り武器を切り刻んで降参させた。魔法で気絶させないのは、人を気絶させるレベルの威力が分からないから。対人戦は勇者相手にしかしていないので、普通の人間相手には魔法は使わないことにしている。間違えて殺っちゃいましたとか冗談でも笑えない。
「リク様といると周りの人が弱く見える」
「さっきの人Aランク冒険者なんだけどね」
へぇ。たしか弟子4人組はDランクって言ってたかな。王都を出る前には一回探してみるかな。挨拶くらいしておきたいし。孤児院の場所も聞かないとだし。そんなことを考えていると、タイミング良く弟子たちの方からやってきた。
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