第03話 天才魔法使い、再会の約束を果たす

「でっか……」



 王城の大きな門の前へと僕らは来ていた。門は開いていて中には広い庭が見えている。ぼーっと門を見上げていると門番が近づいてくる。



「何か用か?」


「え~と、ガロン兵士長に会いたいんですけど」


「今日はお忙しいと聞いている。日を改められよ」



 う~ん、どうしよう。これは予想外。いったん戻った方がいいのかな? そんなことを考えていると奥から兵士の一人がやってきた。



「リク殿ではありませんか! お久しぶりです!」


「お久しぶりです」


「アイラ殿もお久しぶりです」


「」ペコリ



 元気よく兵士があいさつをしてくる。この人は確か『シートル』でガロンさんの後ろにいたルカの護衛の一人だったはずだ。僕らにあいさつをした後、おどおどしている門番に説明をしてくれた。ちなみにアイラが若干挙動不審になっているのは敬語がうまく使えないからだ。なんで姫様相手なら大丈夫なんだろう。……ルカだからか。



「こっ、これは失礼しました!」


「頭を上げてください。別に気にしてませんから」


「私はリク様たちをお連れするから門の見守りは引き続き頼んだぞ」


「はっ!」





 僕は応接間のようなところに案内され、ソファに座って暫く待っているとガロンさんがやってきた。



「お久しぶりです、ガロンさん」


「久しぶり」


「ようこそお越しくださいました、リク殿、アイラ殿。着くのが遅いとルカ様が心配しておられましたよ」


「ルカは心配性。リク様と一緒にいるんだから心配の必要なんてない」


「姫様は二人が来るのを今か今かと心待ちにしておりましたからな。お二人と別れてから20日したあたりから落ち着きがありませんでしたよ」



 僕らの歩いてきた道のりは普通なら20日で着くのだが、弟子の修行のこともあって普通に1か月以上かかった。



「ところで、陛下がお会いになりたいと常々おっしゃっているのですが、会っていただけますかな?」


「それはいいのですが、田舎者なので正しい礼儀作法なんてわかりませんよ?」


「そのような事を気にするような方ではないので大丈夫ですよ」


「そういうことなら……」



 いや、別に会うのはいいし、ガロンさんにもそういったのだがすぐに会うことになるとは思わなかった。陛下って案外暇だったりするのかな?(失礼) 

 ということで今、僕らは謁見の間に居る。一応膝をついて待っている。確かこんな感じだったはずだ。ガロンさんに別におかしくはないことを確認済みなので多分大丈夫。



「リク様、緊張してる?」


「うん。ちょっとね」



 奥から足音が聞こえてくる。陛下が椅子に座ってかろ「面を上げよ」とか言われるのかなと、初めての経験にドキドキしていた。しかし、なかなか現実は思い通りに行かないものである。そのうち一つの足音がこちらに接近してきている。



「リクお兄ちゃん!」


「ぐうぇ」



 王様が入ってきてから緊張の雰囲気に包まれていた空間に僕の情けない声が響く。……恥ずかしい。犯人は言うまでもなくルカだ。後ろに倒された僕に馬乗りになってニコニコしている。僕はルカに微笑みかけながら左右の頬を引っ張った。



いひゃいいたいいひゃいいたいいひゃいいたいいひゃいいたい! 何するのお兄ちゃん!」


「もうちょっと時と場所を考えて行動してくれ。めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど」



 ルカの行動のせいで周りの兵士の人たちがどよめいている。ガロンさんとその周りの兵士は微笑ましそうにこちらを見ているが。ルカは周りの目に気付き、顔を赤くして飛びのいた。



「これだからなんちゃってお姫様は」


「なんちゃってって何よ! 私は正真正銘お姫様よ!」


「お姫様はあんな行動しない」


「あぅ。あ、あれはその、そう。調子が悪かったのよ!」



 調子が悪かったってなんだよ。そんな理由で僕にダイブするのは止めて欲しい。一国の姫相手に普通に会話するアイラに兵士の人たちは驚いている。ガロンさんたちは相変わらずだ。そんな中、ルカと同じ蒼髪の青年の声が響いた。



「お前か! ルカをたぶらかしたのは!」



 ちょっと待て、そんなことをした覚えはない。冤罪だ。



「ちょっと! 恥ずかしいからやめてよ!」



 ……誰? 僕のそんな表情を察したのか、自ら自己紹介をしてくれた。



「僕の名前はマルクス・デルガンダ。この国の王子でありルカの許嫁だ!」



 王子ってことはルカの兄か弟だよな。……なんだ、ただのシスコンか。



「ちょっと兄貴! 私は兄貴の許嫁じゃないでしょ! だいたい妹なんだから結婚なんてできるわけないじゃない!」



 お兄さんの方でした。兄妹そろってなかなか面倒……じゃない、個性的な性格をしていらっしゃる。そんな兄妹のやり取りを見ている陛下の目はガロンさんたちのそれと同じだ。見てないで止めてほしいんですけど……。その後もしばらく続いたルカたちのやり取りが続いていたのだが、ふいに僕の方に視線が向けられた。



「おい! 決闘しろ! ルカの前で実力の差を見せつけてやる!」


「兄貴、お兄ちゃんはスタンピードを一人で殲滅できるくらい強いのよ。勝てるわけないじゃない。やめといたほうがいいと思うけど」



 いや、そういう問題じゃないよね? 王族が決闘とかしちゃだめでしょうよ。



「それだけじゃない。竜も一人で倒したし、さっき勇者も倒してきた」



 アイラさん? 勇者を倒してきたとかやめてくれる? 周りがざわついちゃってるから。あれでも一応人々の希望なんだから、僕が悪者みたいになっちゃうじゃん。



「それは儂も見てみたいのぉ」



 初めてしゃべりましたね陛下。というかそんなワクワク顔でこちらを見るのはやめていただきたい。陛下はルカと同じ蒼い髪と立派な髭をした雰囲気のある顔立ちをしている。王冠をしていたので見ただけで陛下だと分かった。





「武器、魔法の使用は自由。決闘はどちらかが降伏するか戦闘不能になるまでとする」



 ……なんでこうなった。僕らは今、円状のフィールドにいる。周りには観客席が設けられていて、兵士や陛下が観客席からこちらを見ている。アイラはなぜか陛下たちと同じところにいる。というか王族がやるようなルールじゃないよな。適当に戦って降伏しよう。王族倒したとかいろいろ問題になりそうだし。そんなことを考えているとルカがやってきた。なんでここに居るんだよ。後ろにはガロンさんが付いている。



「お兄ちゃん、わざと負けようとか考えてる?」


「ソ、ソンナコトナイヨ」


「リク殿は優しいですな」



 僕の話聞いてました? ちゃんと否定したはずなんですけど。



「ねぇお兄ちゃん、もし勝ったら王宮の料理とかご馳走してもいいんだけどどうする?」



 いやいやルカ。そんなことで僕が揺らぐとでも思ってるのか? 僕も安く見られたものだ。



「1秒で終わらせる」



 ルカは満足そうな顔をして去っていった。王宮の料理だよ? 絶対美味しいしこれから先食べられるかもわからないじゃん? そう、これは仕方がないのだ。僕が誰に伝えるでもない言い訳を考えていると、マルクス王子が声をかけてきた。



「少しルカに気に入られたからって調子に乗るなよ! すぐにその鼻へし折ってやる!」



 いや、別に調子に乗ってるわけではないんだけど。まあいいや。美味しい料理のためにも申し訳ないけれど降伏してもらおう。マルクス王子が正面に剣を構える。僕は右手を左側に差している刀に手を添える。



「はじめっ!」


「なっ!」



 僕はそのまま王子様に近づいてから抜刀して首筋に刃を突き付けた。カランッという金属音ともに刀の軌道上には青い光の筋が現れ、途中にあった剣は切られ、上半分が地面に落ちる。武器も壊したし、これで降参してくれるはずだ。



「……参った」



 しばらく固まっていた王子だったが、ようやく降参してくれた。王宮の料理とやらを想像しながらワクワクしていた僕に王子の口から予想外の言葉が発せられる。



「約束は約束だ。ルカのこと、よろしく頼む!」



 マルクス王子が深々と頭を下げる。



「へ?」



 いかん、変な声が出た。約束? 何の? ニコニコ顔のルカがこちらに近づいてくる。……嫌な予感しかしないんですけど。

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