第二章 デルガンダ王国

第01話 天才魔法使い、王都に着く

 目を覚まして体を起こす。上から日の光がさしている。完全にふさぐと朝になった時に分からないと思い、ドームの上側にいくつか穴をあけておいたのだ。……雨の日どうしよう。ふと視線を隣のベッドに移すと、そこには誰もいなかった。アイラはもう起きたのか。そう思って体を起こそうとして違和感に気付き、布団をめくる。



「アイラ、何してるの?」


「……夜這い?」



 疑問に疑問で返されても困るんですけど。というかそんな言葉どこで覚えたんだよ。あと今は夜じゃないから夜這いではない。……朝這い?



「いつからここに?」


「昨日の夜」



 僕が寝た後か。アイラの布団買った意味ないじゃん。おませなアイラにため息をつきつつ布団を片付け、僕らは外に出た。



「「「「おはようございます!」」」」


「え、あぁ、おはよう」



 出口でスタンバってたのか。横一列になった4人があいさつしてくる。昨日話して合って、修行は午前中でお昼からは王都に向かって歩くことになった。朝ご飯を食べて修行を始める。朝ご飯は4人が朝早く起きて捕ってきてくれた猪と野草だ。朝から肉はしんどいので僕は野草サラダだけで済ました。



「とりあえず昨日やったこと僕無しでやってみて?」



 みんなが自分の思うように魔力を一か所に集める。



「ゼナとユニはそのくらい魔力を集められれば十分かな。他の3人は魔力がまだ弱い」


「この魔力を火の球に……」


「私は光の球を……」


「魔力がうまく動かせない……」


「くっそ、ゼナもユニも上達速すぎるんだよ……」


「リク様、コツとか無い?」


「う~ん、無いと思うよ。しいて言うなら慣れることかな?」



 魔力の流れを一度感じたからか、みんな魔力の流れは感じ取れているらしい。今まで意識してなかっただけで、一度分かれば普通に感知できるようなものなのかもしれない。普段から魔法を使っているからかゼナとユニは時間こそかかったが、魔力を一か所に集められている。詠唱の時の感覚を体が覚えているのかもしれない。逆に魔法なんて使ってこなかったアイラ、ゼル、ヴァンは全くできていないことはないが魔力の集まりが弱い。昨日は僕が魔力をある程度渡してたし、左手から右手に魔力を流すだけだったからできていたが、体中から魔力を集めようとすると難易度が上がる。





 結局、ゼナとユニは魔法を発動できたが、時間もかかった上に、実用性のないかなり小さいものだった。アイラ、ゼル、ヴァンも魔法が発動できるところまで魔力を集めることはできなかったが、初日としては十分だと思う。朝の残りのお昼を食べた僕らは片づけを終えて出発した。暫くして僕らは林に入った。道の左右には木々が生い茂っている。



「アイラ、あれって食べられないよね?」



 僕の目線の先にはオークがいた。人型で体全体が獣のそれだ。槍をもってずかずかと歩いている。なんというか、ビジュアル的に全く食欲がわかない。



「オークを食べるという話は聞かない。オークを狩った冒険者が持ってくるのは魔石ぐらい」



 じゃあ魔石だけ残せばいいかと思い、魔法を使おうとして待ったがかかった。



「師匠、私たちにやらせてください」



 ゼナの声に振り向くと4人がやる気に満ちた目でこちらを見ていた。4人の戦いを見てみたかった僕は任せることにした。





 ゼルの体が一瞬淡く光る。これは確かユニのバフ系の魔法だったかな。



「ゼル! 下がって!」



 ゼルが体を張ってオークと戦っている間に詠唱を終えたゼナから声がかかる。ゼルが下がるとゼナの方から火球が飛んでいく。オークに直撃し、オークがゼナの方に向かっていく。次の瞬間、オークの背後から矢が飛んできて膝の裏に突き刺さる。オークが膝をついたタイミングでゼルが首を剣で切りつけて絶命させた。



「やりました! 師匠!」



 ゼルが血まみれの状態で魔石を持ってきたので魔法で洗い流して乾かした。



「こんな魔法見たことないです」


「私たちは名前の付いた魔法しか使えないから当たり前、だと思う」


「それに、こんな魔法作ろうとする人なんていないだろうしね」


「でも便利な魔法だよなぁ」


「……才能の無駄遣い」



 最後のアイラの言葉にみんながうんうんと頷いている。失礼な。便利なんだから別にいいじゃん。

 道中、魔物が出て4人組が相手をしたり、村に寄って農作業のお手伝いのお礼に美味しいご飯を頂いたりしつつ、僕らは明日には王都に着くというところまで来ていた。



「見てください師匠!」


「やっと青色になったぜ」



 どうやらゼルとヴァンが枝にうっすらだがきちんと魔力を流せるようになったようだ。ゼナとユニの二人は無詠唱で魔法は使えるようになったが、詠唱よりも時間がかかるため、最近は魔力のコントロールを素早くする練習をしている。練習と言っても適当な的に向かって魔法を放っているようにしか見えないが。アイラは小さい火の球を作れるようになったところだ。料理に使えるところまで仕上げたいそう。



「よし、じゃあ二人は武器に魔力を込めてみて」


「はい!」


「やっと武器を使えるぜ」



 ゼルの剣と盾、ヴァンの矢の先端がうっすらと青い光を纏い始める。……早いな。武器に流せる魔力はまだ少ないが、魔力を動かす速さなら魔法使い組より上な気がする。ヴァンが矢の先端だけに流しているのは彼なりに考えた結果だそう。僕もそれで問題ないと思う。みんなの成長を感じながら僕は手ごろなサイズの木の枝を拾って魔力を込めた。



「その状態で僕に攻撃してみて」


「師匠は武器を使わなくていいんですか?」


「多分二人の武器壊しちゃうから却下」


「くっ、もちろん本気でいいんだよな師匠?」


「あぁ、いいよ」



 5分後、二人は膝をついて息を荒くしていた。



「これ……、難しい……ですね」ハァハァ


「なんだよ……これ……。すごい……疲れる」ハァハァ



 どうやら戦いながら武器に魔力を込めるのはかなり体力を使うらしい。魔力を込めるのにそれなりに集中力がいるし5分持っただけでも上等だ。修行と言っても僕が無しでもどうにかなるものばかりなので、王都に着いたら後は自分たちで頑張ってもらおう。次の日は朝の修行なしで王都に向かうことにした。昼に出ると王都の門が閉まるまでに着くか微妙なので、そういうことになった。そして、ようやく王都に着いた。



「師匠たちはこれからどうするんですか?」



 通行料を払って門をくぐったところでゼナが聞いてきた。



「とりあえずギルドに竜の解体の依頼かな。その後は知り合いのところに行く予定」


「久しぶりに会える。約束通りもう一度泣かせる」



 アイラの発言にみんながちょっと引いている。



「師匠たちの知り合いってどんな人なんだ?」


「「なんちゃってお姫様」」


「へ、へぇ」



 おいヴァン。聞いといてなんだその反応は。というか絶対信じてないだろ。まぁいいけどさ。王都のギルドの依頼を確認したいということで、僕とアイラがギルドに竜の解体の依頼に行くのに4人もついてくることになった。



「……新手の詐欺?」



 僕らがギルドに入ると、勇者を名乗る赤髪の二枚目な男がギルドの窓口でポーションを買っていた。というか貰っていた。お金を払っていなのだから。



「リク様、あれはロイドという名の勇者だと思う。勇者の称号を使って好き勝手してるって聞いたことある」


「私も聞いたことあります。無駄に実力があるから誰も文句を言えないって」


「……僕の想像してた勇者と違う」


「師匠、他の勇者は違うらしいですよ。おそらく彼が特別ひどいだけかと」


「あの人は女癖がひどい、らしいです」


「なんであんな奴が勇者なんだろうな」



 勇者のくせに評判わるっ。あんまりお近づきになりたくないな。そんなことを考えながらギルドの職員の人に魔物の解体をしてくれる場所を聞こうと歩き出したタイミングで向こうからやってきた。



「やあ、初心者の冒険者かい? 君たちは運がいいね。勇者である僕、ロイド様が特別に手取り足取り教えてあげるよ」



 ……うん、僕の嫌いなタイプだ。

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