第05話 天才魔法使い、詠唱を知る

 僕らは焚火を囲んでアイラの作ってくれた料理を食べていた。修行は明日からということになったので、今日はご飯を食べたら寝る。修行って何教えればいいんだろう。そんなことを考えていると、ゼナとユニの魔法使い組が質問をしてきた。



「師匠はどうやって詠唱無しで魔法を使っているんですか?」


「私も気になってました。詠唱しないと魔法って使えません、よね?」


「えっ、魔法って詠唱しないと使えないの?」


「「「「「……え?」」」」」



 あれ? なにその反応。詠唱するのが普通なのかな。あぁ、それで魔法使うたびにアイラが驚いてたのか。今まで他の人の魔法なんて見なかったから仕方ないか。村に魔法使える人なんていなかったし。そうだ、詠唱を聞かせてもらおう。目の前に二人も魔法使いがいることだし。ご飯を食べ終わってからお願いして、ユニが魔法で光の球を作ってくれることになった。ユニが両方の掌を向かい合わせて間に空間を作る。



「我が望むは光 輝き辺りを明るく照らせ 『ライト』」



 そういうと手の間に光の球が現れる。



「ちなみに明るさって調整できる?」


「はい。もう一度詠唱しなお、せば」



 ……ふむ。僕が同じ魔法を使うときは魔力を一か所に集めて、魔力の形を整えてから光に変換する。光の強さも魔力の量で調整できる。ユニが魔法を使ってくれたのを見た感じ詠唱でやっているのは魔力を一か所に集めるのと、形を整えるところまで。最後の魔法の名前を唱えることが魔力が流れ出すトリガーになっていた。明るさの調整ぐらいならできそうなものだが……。



「その状態で魔力をもう少し強めに流したりできない?」


「……それ、どうやるん、ですか?」



 聞いてみたところによると、明るさの調整をできる人なんて滅多にいないとのこと。そもそも魔力の流れを感じ取れる人がいないのかもしれない。自分の中にある魔力量の増減はわかるらしいのだが。ユニに魔法を解いてもらって、僕は実験をしてみた。両手を上げて右手に魔力を集める。



「僕が今、何したか分かる?」


「両手を上げただけ……じゃないん、ですか?」



 答えてくれたユニ以外の4人も頷いている。当たりか。感知もできない魔力のコントロールを詠唱でカバーしてるのか。詠唱ってすごいな。考えた人は間違いなく天才だ。ということは魔力の感知とコントロールができれば詠唱が要らない訳か。ユニにはもう少し実験に付き合ってもらおう。僕はユニと向かい合って両手を繋ぎ、ユニ経由で右手から左手に魔力を流す。



「何か感じる?」


「えっと……。恥ずかしい、です。」



 いや、それは僕が欲し答えとは違う。周りを見ると皆がジト目でこちらを見ている。いや、変な意味はないんだよ? 気にしたら負けだ。僕は魔力の流れを少しずつ強く、速くしていく。



「!」


「お、なんか感じた?」


「えと、体の中を何かが流れているような感覚が」



 これはいけるかもしれない。



「どこからどこに流れているか分かるかな?」


「多分、左手から右手、だと思います」



 僕はユニの右手から手を離す。左手からは魔力を流し続けている。



「その流れているのを右手に集めてみて」


「やってみます。」



 途中でユニの左手からも手を離した。かなり集中しているのか、ユニの頬を汗が伝っている。右手に魔力が集まったところで声をかける。



「その集まっているのを光に変えられるかな。さっき作ってた光の球をイメージして」


「は……い……」



 右手のひらを上に向けて集中し始める。慣れないことはなかなか体力を使うようで、かなりしんどそうだ。1分くらいして最初に見たものよりは小さくて光も弱いが、確かに光の球が現れた。と、同時にユニは膝をついて肩を使って荒く息をする。かなり辛そうだが、表情からは喜びの感情が感じ取れる。



「で……できた……」


「……え、今どうやったの?」



 みんな暫く目をぱちくりさせていたが、同じ魔法使いのゼナが質問してきた。ユニが水を飲んで少し落ち着いたころを見計らって、さっきの実験で分かったことをみんなに話した。



「リク様は最初からできたの?」


「初めて魔法を使ったときは詠唱なんてしなかったよ。そのお陰で詠唱無しの練習しかしてない」


「詠唱にそんな意味があったなんて」


「私も知らなった。魔力が流れる感覚なんて初めて、感じた」



 アイラとゼナは興味ありげに聞いてくるが、他の二人は興味なさげだ。



「でも魔法使わない俺らには関係ないよなぁ」


「そうだね。師匠とは武器も違うし……」



 いや、魔力の感知とコントロールは応用が効く。ヴァンとゼルに教えてあげよう。



「ゼル、剣を貸してくれない?」



 ゼルは一瞬不思議そうな顔をしてから僕に剣を貸した。……あれでいいか。僕は近くの背の高さほどの岩の前に立つと、剣に魔力を込めた。剣が青い光を纏い始める。僕は剣を上げ、一気に振り下ろした。夜の暗闇に青い光の筋が現れ、岩は縦に真っ直ぐ割れた。



「魔力を自由に操れるようになったらこれくらいはできるようになるけど、どうする?」


「「僕(俺)もやりますっ!」」



 明日からって話だったのに、ユニだけずるいという話になり、結局全員に同じことをすることになった。ゼナとにはユニと同じことをした。アイラがしれっと参加している。アイラに話を聞いてみると、料理の準備くらいは僕の手間をかけずに自分でできるようになりたいとのこと。別にそのくらいはいいんだけどなぁ。



「僕たちはどうすればいいですか?」


「俺ら魔法なんて使えないぜ」


「武器に魔力を流せばいいんだよ」



 そういうと二人はなるほどといった感じで、ゼルは剣と盾を、ヴァンは弓と矢を持ってきた。



「ストップ。君たちはこっち」



 そういって僕は木の枝を渡した。



「あの……師匠? なんで自分の武器じゃないんですか?」


「そうだよ師匠。自分の武器のほうがいいだろ?」


「あぁ、それは……」



 僕は持ってきておいた木の枝に魔力を込める。木の枝がを纏う。が、次の瞬間粉々に吹き飛んだ。二人以外のみんなもぎょっとしている。



「武器に魔力込めるのって、武器全体に膜を張る感じで魔力を流すんだけどな。バランスが悪いと靑じゃなくて赤く光ってこうなる。自分の武器に使うのは靑までできてからかな。あと、流す魔力の量が増えれば増えるほど難しくなるから。まぁ、頑張れ」



 僕個人としては魔法よりも武器に魔力を込める方が難しいと思う。ちなみに二人とも木の枝を粉々にした。初日だしこんなものだろう。二人は悔しそうにしていたが、武器に魔力を込めれただけでも上出来だと思う。魔力を感知してもらうために流す魔力の強さと速さには多少個人差があったが、無事全員感知して魔力を集めるところまではできた。明日からは同じ作業の繰り返しかな。

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