第04話 天才魔法使い、竜を狩る

「船ってどのくらいで王都まで着くんだろうね」


「3日あれば着く。陸と違って道が入り組んでないから」



 なるほど。海なら最短距離で行けるからね。ちなみに歩きだと20日くらいかかるそう。のんびり旅を楽しみますか。



~数時間後~

「あれ? 魔物ってこんなに出ないものなの?」


「こんなに出ないことなんて滅多にない。動物もいないし、何かあったのかもしれない」



 今、変なフラグが立った気がする。それよりも今はお腹が空いた。食料である魔物が出てこないから、朝からまだ何も食べられていない。たまに魔法で出した水でごまかしていたが、そろそろ限界だ。日の傾きからして15時は過ぎていると思う。食料探しに道から外れて遠くに見える林に突撃でもしてみようか。そんなことを考えていると、遠くから何人かの叫び声が聞こえた。ついでに何かの咆哮も。向こうから4人の子供が逃げてくる。羽の生えたトカゲに追いかけられていた。



「リク様。早く逃げよう。あの子たちには悪いけどドラゴンに食べられるよりまし」



 僕は人差し指を上に向けた。……デジャヴ? まぁいいや。人命救助を優先しよう。人差し指を下におろそうとして思いとどまる。



「アイラ、ドラゴンって食べられるの?」


「ドラゴンの肉は超高級食材。……じゃない。早く逃げる」



 ほう。なら雷でチュドンして魔石だけ残すのは却下だな。……首ちょんぱでいこう。僕は刀に魔力を込めた。刀が青い光を纏う。アイラには一応結界を張っておこう。



「アイラ、そこから動かないでね」


「え、リク様?」



 魔力で足場を空中に作って空を駆ける。ドラゴンから逃げている子供4人組はこちらに気付いたようだがそれどころではないようで、必死に走っている。ドラゴンの首の真上に足場を作り体を逆さにしながらひざを曲げて左の腰に差している刀に手をかける。そのまま下に向かって飛ぶ。と、同時に抜刀した。魔力を込めた刀は空中に青い光の筋を描きながらドラゴンの首を刎ねた。ドラゴンの体は慣性に従って逃げていた4人の方に落下していく。まずいと思いそちらに向かおうとしたが、4人は無事に避けられたようだ。ごめん、わざとじゃないんだ。助けてあげたんだしその辺は許してほしい。とりあえずアイラを迎えに行こう。



「アイラ? アイラさ~ん? アイラさんや~い」


「な、何?」ハッ


「あれ捌ける?」


「……」



 混乱してるのかな? とりあえずドラゴンのところまで行こうか。僕はアイラと一緒にドラゴンのところまで移動した。



「改めて見るとでかいな」



 僕の身長じゃ顔の半分にも届かない。



「ごめん、リク様。ドラゴンの解体なんてできない。ドラゴンの体は皮膚から内臓まで余すところなく高く取引されてる。それに、素材を保存する道具とか専用のナイフが必要だったはず。王都のギルドでもないと解体なんてできないと思う」


「今日食べる分の肉だけとかでも無理かな?」


「やってみる」



 僕は『アイテムボックス』から街で買った解体用のナイフをアイラに渡した。アイラは切断面から肉を切り取った。ドラゴンの皮膚は固すぎて刃が通らないとのこと。というか取りすぎじゃないかな。二人じゃそんなに食べられないと思う。アイラが肉を回収したのを見て僕は『アイテムボックス』にドラゴンを入れた。『アイテムボックス』内では時間が進まない。簡単に言えば野菜やお肉を入れておけば傷むことはない。今、街で食糧を買っておけばよかったと思ったのは内緒だ。旅の道中で食糧調達するのも旅の醍醐味ということで。まぁ、次からは街で調達するけど。というか、『アイテムボックス』を使ったあたりからアイラがポカンと口を開けてこっちを見ている。



「アイラ、料理お願いしてもいいかな?」


「分かった」ハッ



 近くに会った大きめの石を中心から真横に魔法で切って表面を魔法で熱した。上にやかんとか置いたら水を沸騰させられるレベルで。アイラに言われるがままに調理道具を『アイテムボックス』から取り出す。もう僕ができることはないので腰を下ろした。そこへ、4人組の子供たちがやってきた。……ごめん、完全に忘れてた。



「「「「助けてくれてありがとうございました!」」」」


「どういたしまして」



 アイラの方から肉の焼けるいい匂いがしてくる。同時に4人のお腹が鳴った。



「アイラ、それ6人分に分けてくれる?」


「分かった」


「一緒に食べる?」


「「いいんですか?」」


「いえ、そんな訳には「おい、余計なこと言うなよ!」」



 結局一緒に食べることになった。6人で分けると思ったより少なかったので、『アイテムボックス』からドラゴンを取り出してアイラにお肉を追加してもらった。ドラゴンのステーキはめちゃくちゃ美味かった。ギルドで解体してもらったら、肉だけは死守しようと思う。みんな食べ終わったので4人組に話を聞いてみた。



「みんなは何でここに?」


「王都に向かう途中だったんです」


「王都のギルドの方が報酬がいいので」


「その分依頼は難しいらしいのですが……」


「俺たちなら大丈夫だって!」



 話した順にゼナ、ゼル、ユニ、ヴァンである。ちなみに僕が「一緒に食べる?」と聞いた時に反応した順番も一緒だったりする。ゼナは攻撃が得意な魔法使い、ゼルは剣士だ。ゼナとゼルは双子らしく、ゼナが姉でゼルが弟とのこと。ゼナは地面から胸の高さぐらいまである杖を持っていて、茶色い髪を肩まで伸ばしている。その見た目から、おとなし気な印象を受けた。それとは対照的にゼルはゼナとよく似た色の髪を短く切っており、活発そうな印象を受けた。武器は片手剣と盾だ。ユニは回復が得意な魔法使いの女の子だ。杖を持っているのだが、ゼナとは違い50センチくらいの細いものだ。奇麗な薄い緑色の髪は腰くらいまで伸ばしてある。ヴァンは弓使いで、ボサボサの銀髪の獣人の男の子だ。耳と尻尾があるのだがアイラとは違ったものだ。アイラが猫なのに対しヴァンのそれは狼だ。腰に巻いたベルトには、矢を入れた筒がぶら下がっている。年齢は皆15歳くらいだと思う。見た感じ僕より少し下くらいだから多分そのくらいだ。その後も少し話して4人のことを聞いてみた。

 みんな親がいなくて同じ孤児院で育ったそう。孤児院には、親が冒険者だった子供が多くいるらしい。冒険者は魔物と戦うことを生業にしているため命を落とすことも珍しくないのだ。親を失った子供は孤児院に預けられ、その中には冒険者を志す者がいるというのだからいたたまれない。負のスパイラルのような気がする。話がひと段落した後、4人は顔を向き合わせて頷き合い、僕の方に向き直って口を開いた。



「「「「弟子にしてください」」」」



 4人が頭を下げる。弟子かぁ。別に断る理由も無いかな。僕に教える技術があるかどうかは分からないが。王都に向かっているということだったので、一緒に向かって着くまでの間で教えることになった。空を見ると日が落ちかけていたので、今日はここで野宿することになった。晩御飯の食材は捕ってきてくれるらしいので任せることにした。少し横になって休んでいると、調理道具を洗い終わったアイラが話しかけてきた。



「リク様、私たちテント買ってない」


「あぁ、うん。それなら大丈夫」



 僕は魔法でドーム状の家を作った。ちゃんと石でできたドアも付けたし、換気ができるように窓も付けた。窓は穴が開いているだけだが。寝るときには塞いでおこう。中に入って直方体の台を二つ作って上に『アイテムボックス』の中の布団を取り出して敷く。僕らのテント(?)から外に出ると唖然とした表情のアイラが立ち尽くしていた。その後ろには冒険者4人組が手に持っていた武器や獲物を手から落としてアイラと同じ表情をしていた。

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