帰り道1

「ふぅ……。 終わったぁー!!」


 赤や黄色に染められた一筋の光が、運動部の掛け声と吹奏楽部の音楽が、今日という1日がもう少しで終わることを知らせるようにこの教室に響き渡る。


 そこに、疲労と気怠げに満ち溢れた声が響き渡る。


 そこには青や黒といった次の時間の流れを促すかのような雰囲気があるが、その中にも達成感という光も見えた。まるで真っ暗な夜空の中で無数にある光の中で、一際目立つ一条の光を放つ月のように……。


 彼女には、ずっと昔の光を何億もの年月をかけてまで地球に届かせる光のように、しっかりとした意思があることがこの放課後、反省文を一緒に書いているうちの会話でよくわかった。


「お疲れ様」


 僕はお決まり事のように返す。

 それには彼女に見習ったのか、この短時間で影響を受けたのかわからないが、心の底から言えた気がした。



「それはそれは、もうお疲れだよ。誰かさんのせいでサボりバレちゃうし……。」


「それはっ……!」


 咄嗟に怒った口調で声に出てしまった。

確かに学年主任の先生に気づかれ、廊下に出てきたことは僕の失態だが、転校初日にサボる方もサボる方だ。

 先程の彼女へのイメージが嘘かのように思えた。


「うそうそ、冗談だってば……。別に佐藤くんは悪くないよ。そんなに慌てるとは…笑」



「……。」


 咄嗟に反応してしまったことをからかわれて、少し仕返しがしたくなったが、何も思いつかない。


「……。佐藤くん……? もしかして、怒った……? 」


「……。」


「ねぇってば……。」


 彼女の表情がだんだんと曇っていく。

 さっきのこともさほど怒ることでもなかったが、僕はこの沈黙で仕返ししたくなった。



「……。」


「……。」


「……。」


「……。ぷはぁ、はははは! ごめん、さっきのやり返し」


 沈黙の中、いろんな顔をする彼女を見ていて思わず吹き出してしまった。


「もう……。ほんとに怒らせたと思ったじゃん……。」


 瞳を少し光らせ、奥歯を噛み締めながらこちらを見上げるように見ている。


 その姿はまるで、飼い主に怒られている子犬を見ているようで少しキュンとした。



「ごめんって。それより僕も書き終わったから早く出して帰ろ……? 」


 彼女は、萌え袖している右手のカーディガンの袖部分で目に溜まった涙を拭い、コクリとだけ頷いた。









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