第9話 空腹の旅路




明朝、準備を整えた俺達は志咲の旅装基地まで出向いていた。

ここから四日間、旅装車でラーヴェンツへの航行が始まる。


旅装車とは町の外へと旅立つ事を目的とされ作られた、簡単に言えば巨大な装甲車だ。

周りには、護衛の為に警護兵が四人乗れる縦走車が配置される。

俺自身旅装車には乗ったことがない。

噂に聞く限りだと、主に他の町への貿易や、交換留学の為に使われているらしい。

特に志咲と靖旺では、そのやりとりが昔から頻繁に行われているのだとか。


「せんぱーいっ、ルゼさーん、神野崎さーん!」


俺とルゼと菜乃、三人で指定の場所で待ち呆けていると。

揚々とした声が響き渡る。



「おはようございますっ! いやぁ今日も快晴っ! お出かけには持って来いの日ですねっ!」

「おはよう雅、志咲まで迎えに来てもらって良かったのか? 話によれば、俺達志咲の事は悟られないようにしたいんだろ?」



俺達の装いは志咲の者だとわからないようにとの事、それは今回のラーヴェンツへの訪問は、志咲の関与を秘匿したいって意味だろう。

それなのに靖旺の旅装車が志咲から出発し、ラーヴェンツへと向かう所を見られたらまずいと思うんだが。



「いやぁ、協力を申し出たのはこちらですしっ、靖旺まで来てもらうのは申し訳ありませんからっ! それに靖旺からラーヴェンツに向かうとなるとフィヨンド渓谷がある為、結局志咲の方に迂回しなければなりませんからねぇ」



フィヨンド渓谷。確か西の方に大きく連なる大渓谷だったか。

ここからラーヴェンツに行く為にも、渓谷を避ける為に大きく迂回しなければならなかったはず。


「それに、これは私の予想ですが、黒陽家はわざわざ私達を監視するような真似はしていないと思うんです」

「どうしてそう思うんだ?」

「それは前もって話ていた通り、ラーヴェンツに入町するできる事となった方法も含めて、旅装車の中でお話しますよっ。時間はたっぷりありますからねぇ。寧ろ私としては、四日間の旅路の中で思春期の男性がお一人っ。こんな美少女達と一つ屋根の下で何も起きない筈がなく…。そっちの方が気になりますねぇっ!」

「ふぇっ!? そ、そうでした…旅装車と油断していましたが…。もっと良い下着を買っておいたほうが良かったかも…」


菜乃がいつか見たと時のようにプルプルと震えている。

もしかしてあれは持病かなんかじゃないだろうな。


「中学生じゃあるまいし…。まぁ、雅にスキャンダルにされるくらいなら被害者はお前にして道連れだな」

「うえっ!? 先輩…見かけによらず中々えげつない発想しますね…」


と、そんな茶番をしていたら菜乃の怒号が飛んできたので

俺達は旅装車に乗り込む事にした。




―――――――――――――――

――――――




「おぉーーーーっ。すごいよヤマトっ、景色がずっと動いてる!」


揺れは無い。ルゼの胸の事ではなく、舗装されていない、道とは言えない道を進んでいるにも関わらず、この旅装車はそれを感じさせることなく快適に進んでいる。

内装は車両の中心部に机と椅子が設置さており、後部には一人一部屋の生活スペースが用意されていた。

決して広くはないが、これが移動車両の中だと言う事を考えると文句など出る筈もない。

旅装車周囲に配置されている四両の縦走車には、四旺の人間が乗っているらしい。

ibs二機程度なら即無効化できる戦力との事。そこにルゼと菜乃と雅がいるのだから道中の心配は無いだろう。


「雅さん。早速なんですが、ラーヴェンツにどうやって接触するのか聞いておきたいのですが…」


そういえば俺達はまだ、ラーヴェンツにどう入町するのか聞いていなかった。

まさか正面から堂々と乗り込むわけにもいくまい。

こうして町に向かっている以上は進入ルートが見つかったって事だろうか。


「それは勿論、正面から堂々とお邪魔するつもりです」

「なっ、まさか結局力づくで進入する気なのか!?」

「いえいえ、力づくだなんてそんな物騒な事はしませんよぉ。言ったでしょう? 接触方法は任せろと。これは黒陽家から正式な許可を得ての訪問ですからね」


許可を得て? 確か黒陽は他の町との交流は拒んでいた筈じゃなかったのか?


「どういう事だ」

「今回私は四旺の娘として、シエル軍学院に留学生としてお邪魔します。皆さんには私の付き人、兼、護衛として同伴して貰えるよう、向こうにその許可も取ってあります。まぁ皆さんが志咲の人間だと言う事は伏せていますが、別に嘘はついていません。貴方達には私の留学生活が円滑に進むよう協力してもらいますから」


それは屁理屈と言う物だろう。バレた時が怖いんだが…。


「信じられません。今まで黒陽家が他の町との交流を受け入れるなんて、ほとんど無かった筈です…」

「はい、確かに黒陽は余所者との交流を好みません。好まない、と言うより、あの人達にはそれが必要ありませんから、無駄な事はしたくないんです」

「つまり、今回の雅の留学は黒陽家に得る物があると言う事か?」


にやり、と雅が不適に笑う。一体何をした。


「流石は先輩。話が早い。実は私が志咲で黒陽のファインドと接触した後、すぐにラーヴェンツ周辺に西側の四旺の人間を待機させておきました。そこから志咲との協力が確定した所で黒陽に連絡を試みたんです。そして私自身が黒陽の現家元、黒陽ゆりさんに貴方達の学院に留学したい。と申し出ました」

「ただボコボコにされただけじゃなく。そこまで行動していたとは…。なんというか流石だな…」

「ボコボコにされたとか言わないで下さいよ…。まぁ、今回は私も簡単にやられるつもりはありませんが」


コホンッ、と咳払いして雅が仕切りなおす。負けた話はあまりされたくないようだ。


「話の続きですが、それを聞いたゆりさんは快く承諾。とは行かず。貴方にその価値があるのか? と言われてしまいました。私はそれに、後悔はさせるつもりは無い。それと、ある物を一緒に持って行く。と言ったんです」

「ある物?」

「黒の書です」

「まさか、それは神野崎家が研究中だった物ですか!?」

「そうです。神野崎家現家元である、神野崎さんの、あ、菜乃さんと呼ばせて貰いますねっ。菜乃さんのお母様に相談した所、あの方は快く承諾してくれました。とても話のわかる方ですっ」

「その話のわかる人からそんな大事な話…全く聞いていません…」


確かに時期家元である菜乃には率先して教えるべきだと思う。


「それは色々と急を要しましたから、纏まった話は私からしておく。と言っておいたんですよ。まぁ…全く聞いていないとは思っても見ませんでしたが」


すごいな。急を要した割には、今回の雅の立ち回りはあまりに鮮やか過ぎる。

リスクもあるがこのまま進展が無いよりかは、条件として黒の書を黒陽に差し出す事も悪くはない。

これが次期家元としての実力って事なんだろうか…―――いや、待て。

あの時のあれは…。


「雅、もしかしてお前、わざと黒の書を神野崎家の手に渡るようにしたんじゃないのか?」


菜乃と雅はそれぞれ俺の顔を見る。

一人は何を言い出すんだと。もう一人は、静かに笑みを浮かべて俺の瞳を見据える。

こいつ…。


「話が出来過ぎている。黒の書が神野崎家にあると言うのは、後から佳代さんに聞いたのかもしれない。だが、菜乃との手合わせの後。お前は、靖旺でも黒の書が見つかった。と言った。その時点で俺達はお前に志咲の黒の書の話はしていなかった。俺はお前が二冊目の存在を知っていたからだと思ったが、それだけじゃない。あの時点で俺達が黒の書の存在を知っている前提で話をしていたんじゃないのか?」


俺達が協力関係を結んだのはその時の事だ。

タイミング的に佳代さんから黒の書の所持を聞いていたとは考えにくいし、簡単に言うとは思えない。

もっと以前から協力を申し出ていたとしたら、流石にそれを佳代さんが言わない筈がない。


「それに留学の件もだ。今まで余所者とは交流せず、情報も無い町に、お前はいきなり留学を申し出た。条件に黒の書を提示したとは言え、それを素直に受けるのには違和感がある。お前自身が、黒陽のファインドは志咲の黒の書を重要視していなかった。と言っていたしな。お前は元々黒陽の事を俺達以上に何か知っているんじゃないのか?」


「つまり、今回の件は私が仕組んだと?」

「そうなのかと聞いているんだ」


「―――ウリエス」


―――空間を掻き切った音が車両内に響く。

ルゼのテスタメント、ウリエスが雅の喉元に寸前で止められていた。


「ルゼさんっ!」


菜乃がルゼを止めようとするが、ルゼは紅剣を下げるつもりは無いようだ。

勿論俺も止めるつもりは無い。


「ルゼ、間違っても殺しはするなよ」

「ん、ウリエス大分使いやすくなってる。間違っては、殺すことは無いよ」


ルゼは、間違っては、の部分を強調させる。今まで見せた事の無いルゼの冷たい声。

幼い容姿からは想像できない冷酷な脅しに、雅の眉が微かに動く。

ルゼの行動は俺にとっても想定外の物だった。

だが良くやった。俺達はまだ雅を信用することはできない。

そして一度抱いた疑いは簡単に消えることは無い。四旺が何を企んでいるのか、

こうなると、あらゆる可能性が想定できるからだ。

例えば四旺家と黒陽家が元々グルだったとする。そうだった場合、俺達志咲は、飛んで火に入るなんとやらだ。

俺は佳代さんから菜乃を守って欲しいと言われた以上、わざわざ火中に飛び込むような真似はしない。


「いやはや…参りました。どうやら私はとんでもない人達を人選してしまったようですね…」


ルゼに釘付けにされていた雅が両の手を上げて降参を示す。

おそらく丸腰ではない。相手は靖旺の次期家元、雅からテスタメントを取り上げるか考えていると。


「腰のバックに入っています。ルゼさんに殺されるのは嫌ですからね。このままだと話しにくいですし」


雅自らが己のテスタメントの在り処を示す。

俺が罠かと疑っていると菜乃が立ち上がった。


「私が、失礼します雅さん」


菜乃が雅の腰のバック開き、待機状態のテスタメントを雅から取り上げた。

確かに、雅も菜乃が相手ならば下手な動きはできないだろう。


「そんな警戒しないでください。私達が神野崎家と協力したいと言った事、その目的に関しては嘘偽りはありません。これは靖旺を発足させた四旺家の初代家元、四旺皇(スメラギ)の名に誓ってもいいです。まぁその四旺が信用できないんでしょうが…。今回の件は、私がほぼ独断で行った事なんですよ」


雅を両の手を上げたまま淡々と話す。

俺はそれに抵抗の意思は無いと感じ取るとルゼを下がらせた。

だが、紅剣はそのままルゼの手に収められている。雅が変な動きを見せたら紅の一閃が容赦なく雅を両断するだろう。


「どこからが、お前の計画通りだったんだ?」


「簡単に言えば、大和さんのご推察通り、黒の書を神野崎家に渡るようにした所です。目的は神野崎家に黒の書の存在を知らせる事、そしてあくまで対等な立場による協力関係を、言わば同盟を結ぶ為です」

「それだけの為にここまで手間が掛かることを?」

「そうです。何故なら、この協力関係は四旺家では無く私個人が望んだ事。元々黒の書を独占したがっていた四旺家から、本来協力を申し出る事はありえなかった話なんです。ですが、既に神野崎家の手に黒の書が渡っていたとしたら? 黒の書が手元には無い四旺家にとって同盟を結ぶメリットは大きくなる。ましてや黒陽家を相手にするのですから、それはすぐに了承されましたよ」


つまり次期家元である雅が同盟を願ったとしても、一枚岩では無い四旺家に簡単に通る話では無い。

だから四旺の人間に神野崎家との同盟を結ばせるためにも、その理由を自分で作ったと言うことか。


「黒陽家の事はどこまで知っているんだ? 何故こうも簡単に留学を取り付けれた。まさか…ルゼを餌にしたわけじゃないだろうな?」


悪魔である事は隠しているが、ルゼがファインドとして異質の存在だというのは雅も気付いている事だ。

八大家の悲願、アンサラープログラムの完成。その為にもルゼは神野崎家に協力をしている。

他の組織からしても、ルゼは重要な存在となるはず。


「なるほど、ルゼさんを条件に黒陽へと近づくですか…先輩中々えげつない事を考えますね…。心配せずとも、そんな事は全く考えておりません。むしろ今回、ルゼさんはこちらの切り札ですから、黒陽はルゼさんと言う強力なファインドの存在を知りません。因みに四旺家の人間にもルゼさんの事は伏せています」

「四旺家にも?」

「はい。私は靖旺の事は大事ですし、先代達に敬意はありますが、今の四旺家にはそれほど忠義を誓っているわけでは無いんです。夢は一流の記者ですしねっ。ルゼさんの話をこの状況でしてしまえば、四旺がまた面倒な事を画策する可能性もありますし、それに巻き込もうとは思いませんよ」


確か、雅は好き勝手やっているせいで家元の座から降ろされるかもしれない。と言っていたな。

もしかしてこういう行動のせいか…?


俺は何も言わず紅剣を持って佇んでいるルゼを見る。

雅はルゼの過去をしつこく聞いて俺に咎められた時、本当に申し訳なさそうに反省していた。

今の話も、本当にルゼの為を思っての行動だとしたら…多少は信用しても良いかもかもしれない。


「なるほどな…。話を変えて悪かった。黒陽家の事について聞いていいか」

「何故私が黒陽に留学を申請したかですね。確実、とは言えませんが私は黒陽がそれを受理すると自信がありました。それは、これも大和さんのご推察通り、黒陽の特徴を前々から知っていたからです」

「特徴?」

「実は黒陽家は、ここ数十年の他の町との交流はゼロ、と言うわけでは無いんですよ。ただ、それが公にはなっていないだけです。ここ最近だと、先代で黒陽は四旺家からの手合わせを受けています」


黒陽との手合わせと言うと…菜乃と雅がしたような、ファインド同士の試合って事だろうか。


「手合わせの目的は、四旺の名目上はアンサラープログラム発展の為のテスタメント戦闘試験。ですが、四旺家が黒陽に挑んだ理由は一つ。200年前のibs掃討作戦時、黒陽が四旺よりも秀でていた事実を超えたいが為です。要するに四旺は負けず嫌いだったと言うことですね。だから黒陽へは、純粋なる力比べを求む。と申請し受理されました。ですが同時期に、黒陽へ手合わせを申請していた彩花家は断られています」

「彩花家まで…全然知りませんでした。どうして彩花家は断られたんですか?」


菜乃は雅の話に驚きを隠せない。

神野崎家の人間として、今まで自分が知らなかった情報が立て続けに出ている事に少し困惑しているように見える。


「それは四旺家にもわからない事でした。ですのでこれは、私が個人的に調べた事なのですが…。彩花家は四旺家とは違い、テスタメント発展の為の共同戦闘試験を求む。そのような内容で申請をしています。先程言った通り黒陽家はそれに応じませんでした。ですがそれよりも過去に、黒陽家は彩花家との手合わせを受けているんです」


四旺からの手合わせは受け、彩花からの手合わせは拒否。だが過去に彩花からの手合わせは受けている?

そこに黒陽家が手合わせを受ける基準がある…?


「その時の受理された彩花家の申請内容は、真剣なる勝負を求む。だそうです。私はこれを、四旺家が受理された時の申請内容に近い物だと感じます」

「まさかそれが…黒陽が手合わせを受けた理由だって言うのか?」

「はい、黒陽家はその強さから、勝負において絶対の自信と誇りがあったのだと私は考えます。だから逃げること無く、真っ向からの勝負は受けた。ですが、ラーヴェンツは規模からして、他の町の追随を許さない程に発展していました。きっと黒陽と言う強者は、町の発展やテスタメントにおいても余所者の力など必要なかったのでしょう。だから必要の無い交流は受けなかった」

「じゃあ、雅さんの留学が認められたのは…」

「私は黒陽家、今回はラーヴェンツに留学生と言う形で再戦を挑んだんです。私は負けたとは言え、黒陽から黒の書を奪っている。それは向こうも私だと気付いているでしょう。そこに黒の書でお膳立てすれば、向こうはこの留学を受ける可能性が高いと考えたんです」

「そんな武道家みたいな組織なら、黒の書を賭けて決闘でも申し込んだ方が早かったんじゃないのか?」

「それでも良かったかもしれません。ですが…そっちの方が面白そうじゃありませんかっ!」


何を言っているんだこいつは。


「私はあくまで記者ですから。記者としてラーヴェンツと言う町自体の力も見てみたいんですよ。志咲での黒陽家との戦闘時、彼女はフードを被っていたとはいえ、シエル軍学院の紋章を付けていました。それは隠す事は無いとの力の誇示だと思うんです。これは記者としてのただの勘ですけどね。そしてこの留学自体は、ちゃんとした目的があります。最近負け続きの私自身への糧としたいんです」


つまり、俺達は雅が留学したいが為に巻き込まれたと言う事か…?

いや…ibsの転移をどうにかしたいならば、黒の書は放ってはおけない。それに元々、志咲の人間が一人殺されているのだ。

神野崎家からしたら、どのみち黒陽家との接触はこちらも望んでいる事。

同盟を結ぶ為に、雅が本屋の店主を殺害した可能性も考えたが、それは手間が掛かり過ぎる。

あくまで、ibs発生事件に困らされている志咲の立場を利用したかった。それだけだと考えていいのか…。


「ところで。四旺家の過去を話さなかったのは、その時の試合も黒陽家にボロクソに負けたからか?」

「ぐっ…そ、そうです。先程言った通り四旺家は負けず嫌いでしたので…。これは一応四旺家の極秘情報扱いになっています…。それを私個人が嗅ぎ回っていたとバレるのは面倒でしたから…。因みに彩花も黒陽には負けています…というか先輩、ちょくちょく私に精神攻撃をするの辞めていただけますか…」


なるほど、情報が公にされていなかったのはそういう事か。まぁ、わざわざ他所の町に喧嘩売って負けました。と宣伝する奴はいないだろう。


「ルゼはどう思う?」

「わかんない」

「よし、雅の話は、とりあえずは信じよう。俺達もラーヴェンツには用事がある。今回の手配は俺達にとってもプラスだしな。だが、お前が俺達を利用していた事は事実だ。道中テスタメントは預かっておいてもいいか?」


手放しで信用。と言うのも格好がつかない。

念の為にも雅の危険度は下げておきたい。


「信用して下さってありがとうございます。テスタメントに関しては、このままibsも出現しなければ、どの道出番は無いですし。町に入る前に渡してくれれば問題はありませんよ」


俺は菜乃に目配せすると、菜乃はコクリと頷く。

俺自身が預かった所で、雅がその気になれば奪われるのがオチだ。

自分で言っていて我ながら情けない…。


しかしどうしたものか…このまま後四日間、この空気でラーヴェンツまで旅するのは、なんともやりにくい…。

雅と道中のibsを一緒に警戒しながらというのはお互い疲れるだろう。

まだ始まったばかりだってのに……。これからの旅路に不安を抱いた時、今度は別の形で空気を掻き切る音が響いた。



「ヤマトっ、お腹すいたっっ!」



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