第3話前進の5日目
「今日外に出よう」
俺のその言葉に項垂れていた健二は顔を上げる。
出るのは危険だと判断して家に篭っていたが、少々状況が変わってしまった。
通じないスマホ、いつまでもこない救援、減り続ける食料、静かになった外。
食料はまだ保つが、増える事なく減り続ける現状では、いつかは外に出なければならない。
加えて、今のところ電気ガス水道というライフラインはまだ動いているが、いつ切れてもおかしくない。
ガスボンベや電池、そして何より水の確保をしなければならない。
最悪近くにある用水路を使う事になるかもしれないが、出来ればそれは避けたい。
今は人を追い掛けて、この周辺にはゾンビ達は殆どいない。
であるなら、今のうちに物資の調達を図るべきだ。
加えて今日は雨が降っているから足音も雨の音によって掻き消されている。
この機会を逃すわけにはいかない。
この家から10分ほど道なりを進むと、スーパーがある。
そこから可能な限りの物資の調達を行い、逃げる。
勿論無理はしない。無理をすれば一般人である俺達はあっという間にゾンビになるだろう。
焦らず、無理せず、安全に。これが物資調達の指針だ。
その為にも服装にはしっかりと気を遣いたい。
お互い案を出し合い、夏にも関わらずごつい服を着て、腕周りに雑誌などを巻き、噛まれても一撃を防げる様にする。
脚元は上半身とは逆に薄くして出来る限り早く走れる様にする。家の中でも一番大きなリュックを持ち、左手にフライパン右手には包丁を持つ。残念ながらゾンビ映画でも有能なバットは無い故の代用だ。
健二はフライパンとトンカチを持って行くらしい。
ゾンビ達は目はあまり良くないが、音に敏感に反応している事から、目覚まし時計を持っていく。
最悪の場合これを囮に逃げるつもりだ。
今の時点で考えられる装備で外に出る。2階からこの家の近くにいない事を確認してから動き出した。
道路には、血の跡や燃え尽きた車両、いくつもの窓が壊れた家。勿論俺の家と同じ様に、雨戸を閉めている家もある。
他にも生きている人はいるのだろうか、残念ながらそれを確認する時間は無く、早くスーパーに向かわなければならない。
事前に合図などを作っていないかったので、耳元で会話しながら向かう。
行きは呆気ないくらいに順調で無事にスーパーに着いた。
だからと言って油断はせずに気を引き締めながらスーパーの中に入っていく。
ドア部分は破壊されていて、地面にガラスの破片が散乱していた。
店内に入っていく途中踏んだガラスの音が俺達とは別の場所から聞こえた。
その方向を見ると女の人がいた。
顔は俯いていて見えないが、服装は綺麗だった。だから、健二は声をかけてしまった。
「大丈夫ですか!」
女の人は声を聞くと顔を上げた。
その顔は顎がなく、舌がダランと出ていた。
彼女はすぐ様こちらに走ってきた。向かう先に健二がいた。俺は進行方向から少し横にズレて包丁を収めてフライパンを両手で握った。
こちらに見向きもせず走る彼女の顔をフライパンでフルスイグした。
鈍い音と共に彼女が倒れると上から抑えつける。
細身の体型からは想像の出来ないほどの力に心底恐怖した。
「健二!早くこの人を!」
「あ、あぁ分かった。」
持っていたトンカチで頭を叩いた。
当たりどころが良かったのか、その一撃を受け彼女は動かなくなった。
少しの間俺達は動けなくなってしまった。
恐怖によるものではなく、この手で人を殺したという罪悪感からだ。
その後、なんとか持ち直した俺達ははそれぞれ二手に分かれて、俺が雑貨を中心に、健二が食料を中心に互い集める事にした。
集めている途中、水が多く入る災害用タンクを見つけそれも回収した。
いくつかの物資を集めれたので、スーパーを後にする。
帰りも何も障害はなく、行きより荷物が重い程度の事しかなかった。
今回は完璧とも言える成果だった。だが、俺達はゾンビとはいえ人を自らの手で殺したという事実から、手放しに喜ぶ事は出来なかった。
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