第4話別れの32日目


いつまで経っても救援は来る事なはなく、ただただ日だけが過ぎって行った。


その待っている間も雨の日で物資調達に赴き、合わせて6回スーパーに向かってはいくつもの物資を集めた。




3回目までは前と同じ様に集め


4回目は途中窓が割れている家から回収したより大きなリュックを使い多くの物を集めた。


5回目はいつもの物資のほかにサバイバル術などが載っている本を集め。


6回目は台車を使った物資集めに挑戦して成功今までの数倍の食料や飲み物などを確保。


7回目は台車の音によって何匹もゾンビが集まってきたので、それらを別の場所へ誘導するのに時間がかかり、収集する時間がいつもの半分になった。



大分物資は集まり部屋2つ分は埋まる程集める事が出来た。


一部の腐りやすい物、例えば肉や魚は本を頼りに干し肉などにして保存している。


本当なら干した後冷凍保存をしたいが、残念ながらつい先日とうとう電気ガスが止まってしまった。


まだ、水は出るが、これもいつ止まるか分からない。


今のところ何個もタンクを集めてその中に水を保存しているが、もし止まったら貯めている水もすぐに無くなってしまうだろ。



集めても集めても、不安は消えないどころか膨らむ一方の現状を考えると、溜息が出る。



そして、前回の物資調達から何か悩んでいる健二についても言っておこう。



前回、俺達は二手に分かれてそれぞれ別の場所にゾンビ達を誘導した。


彼等は音を聞くとそちらに向かう習性があるが、人の姿がない状況で音を聞いても走る事はなく、ただ歩き続けるだけなので危険は少ない。

それ故に二手に分かれて誘導した。


息がぴったりのコンビなら良かったが、残念ながらそうではないので、少しのミスで姿を見られ可能性を考えると二手になってしまった。



その分かれていた時に何かあったのだろう。


最初は噛まれたのかと思ったが、一日以上経ってもゾンビになっていないのでそういう訳でもない様だ。


何か悩んでいる様だが、今はそっとしておこうと思いリビングから出ようとすると健二に呼び止められた。



「なぁ………話があるんだ。」


振り返ると何かを決意した様な顔でこちらを見ていた。



「…………何?」


「俺が前の物資調達から何か悩んでいるのは知っていると思う。そのことで話があるんだ。」



「俺達は今二人とも生きている。運が良かったというのもあるが、前提にあるのは他の人達を見捨てる事で、他の人たちを犠牲にする事でゾンビから逃れ生きる事が出来た。」



「でも、いやだからこそ他人の命を犠牲にして生きた俺達にはやらなきゃいけない事があるんじゃないかって思うんだ。」


要領を得ない言葉に少しイライラする。



「だから何?どうしたい訳?」


「俺はこの家を出る。」


「はぁ?ちょっと待てよ何がどうなってそんな事になる?もしかして錯乱でもしているのか?」



少し失礼な事を言っているのは自覚していたが、それでも言ってしまった。


「そう、かもしれない。俺は今自分でも正気じゃないかもと思っている。だが、決めたんだ。めちゃくちゃ悩んだけどそうすべきだと思うんだ。」



「家を出るにしてもなにしに行くつもりなんだ!ゾンビを倒しにでも行く気なのか⁈」



「違う。目的の為にはゾンビも倒すんだろうが、そうじゃないんだ。」


「じゃあ何をするっていうんだ‼︎」


「俺達以外の人を救いたいんだ。何人も人を犠牲にして生き残った俺はそうしなければならないと思うんだ。」




「まず前提がおかしいんだよ!俺達がいつ他人を犠牲にしたよ!」



「お前も聞いていただろう。家に閉じこもっている間に聞いた止む事のない悲鳴と助けを求める声を」



「あぁ、確かに聞いたさ!だがなあの時、俺達に何が出来た?あの時ドアの外にゾンビがウジャウジャいたんだぞ。そんな状況じゃどうしようもないだろ‼︎好きで何もしなかった訳じゃない。何も出来なかったんだよ!」


「だから今、出来る事をしたいんだ。あの時出来なかった事を。だから、俺はこの家から出る。そして今度こそ助けるんだ。」


「……俺達以外の人が生きていると思うのか?生きてる証拠が無いならやめろ!」


自分で言っときながら、失敗したと思った。説得として言ったが、よくよく考えれば 、健二がこういう風に悩見始めたきっかけがあった筈だ。そして多分それは……




「前回の調達の時に人を見かけた。何人かのグループによる集まりだそうだ。俺達より多くの人がいたのに、俺達よりも少ない物資しか無かった。」



ゾンビ達を誘導している途中で見つけたらしい。健二にとって、俺達以外が生きているという事実はかなり衝撃的だったのだろう。

だからこそこんな事を言い始めたんだ。


「まだ、どうやって助けるかは決まっていないけど、それでも助けたいんだ。」



「だから今日、俺はこの家を出る。」



意思は固いように見える。


だが、実際の所は全くわからない。今はこんな事を言っているが時間が経てば変わるかもしれない。それなら……



「今日はもう遅い。飯を食べて、少し寝ろ」



ほんの少しの先延ばしだが、これで頭を冷やして考え直す事を祈る。だがもし考えが変わらないなら、俺はどうしたら……
















目がさめる。

少し胸に手を当てて考える。自分がこれからする事に躊躇いはないか自問する。


そしてないと自答する。


ふと隣で寝ている圭を見る。


ここ最近は助けられてばかりだった。

最初の1日目下手したらゾンビも入ってきたかもしれないのにこいつはドアを開けて俺を救ってくれた。


最初の調達の時に軽率にゾンビかどうかもわからないのに声を掛けて襲われた時も救ってくれた。


その後も何度もこいつに救われた。本当ならついて来て欲しい。でもそれは頼めない。


いつ終わるかもわからない自分のエゴに巻き込む訳にはいかない。



隣で寝ている圭を起こさない様にそっと身体を起こす。


昨日の夜に準備していた服やリュックを背負い階段を降りる。



ゆっくりと噛みしめる様に廊下を歩き玄関のドアノブを掴む。



「挨拶もなしに行くつもりか?」



後ろを振り返りはしない。多分振り返ったら折れてしまうから。

「ごめん」


「謝んなくっていいから。健二。考えは変わらないんだな?」


「………」


「そうか、俺は健二の考えには賛同しない。助かったのは運だ。おれは他人を犠牲にしたとは思えない。だから他人を助けようとは思わない。危険すぎる。負担がでかすぎる。先が見えない。だから、俺は付いて行かない。それでも行くのか?」


「あぁ、やっぱり俺はこの考えを変えられない。あの日の悲鳴が嗚咽が俺をおかしくしたのかもしれない。それでもこの人を助けたいという気持ちは抑えられないんだ。」


「そうか………わかったよ。もう何も言わない。じゃあ、またな。」


そして俺はドアを開けて外に出た。


そして振り返ると閉まるドアの奥で泣いている圭が見えた。





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