第2話始まりの1日目
その日は夏休み中だった。葛木圭の大学生として初めての夏休み。
今朝まで友人と遊んでいたから、全く体が動かない。というか体調が悪い。昨日調子に乗って川に飛び込んだのがいけなかった様で、風邪を引いてしまった。
本当なら今日の9時に両親と弟の4人で服を買いにショッピングモールに出掛ける予定だった。父は苦笑いして、母は少し怒り、弟は溜息をついていた。
俺は留守番することになり、家族は家の閉じまりをしてから出掛けていった。
未だにしんどいので薬を飲み水分補給してから2階にある自分の部屋で寝る事にする。
昼を回ったあたりで、パッと目が覚めた。
自主的に起きた訳ではなく、外から大きな音がしたので目が覚めた。
今日は祭りか何かあっただろうか?と疑問に思いながら、窓の外を見る。
街の様子はいつもと違っていた。街を覆う黒い霧と逃げ惑う人達、そしてその人達を追いかける血塗れの人々
その時は夢を見ているのかと思った。だが、窓を開けた事でより鮮明に声が聞こえた。
多くの人の叫びと助けを呼ぶ声が。
寝惚けていた頭が急に覚醒し、直ぐさま窓を閉めた。
そんな時、ガンガンガンと音が聴こえた。誰かがドアを叩く音だ。その音とともに声が聞こえた。
「たのむ、開けてくれ!家に入れてくれ!」
直ぐに階段を降りて玄関に向かう。
いつもなら絶対に入れないだろうが、訳の分からない非常事態に頭より身体が反応する。
「今開ける!」
鍵を開け中に入れる。
滑り込む様にして入ってきたのは、どこかで見た事のある顔だった。
「あれ、健二?」
滑り込んできたのは中高時代の友達である橋本健二であった。
違う大学になってからはお互い疎遠状態になっていたがまさかこんな形で再開するとは思わなかった。
「そうだよ。久し振り。いや、今はそんな事より早くドアを閉めて!」
ドアを開けた先を見る。こちらに多くの人とそれを追いかける血塗れの人々がいた。
ビビってしまった俺は反射的にドアを閉めた。
すると声がした。
「お願いだ助けてくれ!」
「お願い、家を入れて!」
「ドアを開けろ!」
そんな声が聞こえ、ドアを開けようとしたが
「だめだ!もう間に合わない!」
健二が叫ぶ。間に合わないとはどういう事だろうか?
そんな疑問によって開けるよりも先に叫び声が聞こえた。
「クソが!離せ!俺を噛むな……噛むんじゃねえええええ」
「お願い!やめて!痛い!痛いやめて噛まな……」
「お願いします!お願いします!助けてたすけてえええええ」
その叫びはほんの少しの時間で止んでしまった。
ドアノブを握ったまま動かない右手を無理やり剥がす。
何があったかは見ていない。だが、声からしてもしかしたら。いや、まさかそんな事あるわけが「多分、死んだんだと思う。」
健二の静かな声が聞こえた。
「噛まれたらダメなんだ。噛まれたらアイツらになってしまう。」
「……アイツらって何?」
「分からないか?所謂ゾンビだよ」
健二と俺は幼小中が一緒の幼馴染だった。
高校はスポーツ推薦で県外の高校に入学して、そのまま付属大学に進学したらしい。
違う高校を入学してからは会う事が減り、大学生になってからは疎遠状態になっていた。
今も寮生活をしているそうだが夏休みなので帰ってきたらしい。
まさか、こんな形で再会するとは思っていなかったが。
俺はあの後、健二に寝ていた数時間の間に何が起きたのかを聞いた。
始まりは今日の朝10時
今日は出かける予定があったらしく、駅前にいたから事の始まりをその目で見たそうだ。
今日は日曜日であり、夏休みという事で駅前にはかなりの人がいたから多くの人が目撃していた。
黒い霧は急に街を囲む様に現れた。
急に現れた霧に皆驚き近付くのを躊躇したそうだ。真っ黒な霧なんて見た事も聞いた事もないのだから仕方ない。
だが、いつまでたっても晴れない霧に痺れを切らした何人かが、マスクやタオルなんかを口に巻いて霧の中に入っていった。
これがまず間違いだったのだろう。数分後霧の中から先ほど中に入って行った人達が帰ってきた。この時には既にゾンビになっていたのだろう。周りの人が声を掛けると急に走り出し、そのまま近くにいた人たちに襲いかかった。
身体を掴まれた人達はは引き離そうとするが、あり得ない力故に引き剥がせず、近くにいた人が何人も噛まれた。
噛まれた人達は最初は普通に痛がって言いたが、だんだん口数がなくなり数分で最初の人と同じ様になった。
後は単純にねずみ算式にそういう人が増えて、今街はパニック状態になっているそうだ。
これは俺が2階から見た光景と一致している様に思う。
話を聞いて家族のことが心配になったが、事が起こる2時間前にはここを出ているのでおそらく霧の外に居る筈だ。
霧の外がここよりひどい可能性はあるが、無事を祈るしか無い。
その後、二人で現状を踏まえて話し合いをした結果、今は家に籠城しようという事になった。
本来ゾンビ映画ならこの街から出るのだが、恐らくゾンビ化の原因が霧である事を考えると、出る事は不可能だと判断した。加えて、走る系のゾンビや何故か圏外になったスマホなどの事もあり、今は助けが来るまで待った方がいいという事になった。
いつ助けが来るかわからないが、今外にでる行為はあまりにも無謀に思えた。
後から思うと、賢い選択だったかは分からないが、それほど間違ってもいなかったのだろう。
多くの人の悲鳴と助けを呼ぶ声を聞き続けるという点を除けば。
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