異世界に行く前のお話

ショウ

第1話 終わりの1095日目

今日はこの街が黒色の霧に覆われて3年が経った日だ。


俺以外の人は誰もいない。いや、そもそも動いているモノさえ居ない。


この街でただ一人、俺だけが生きている。


人っ子ひとりいない街の中、車道の真ん中を堂々と自転車に乗りながら、街の端までペダルを漕ぐ。


車やバイクなどが放置されているため道がかなり混んでいるが、今日は自転車に乗りたい気分なのだ。


人や車の喧騒も風の音もないこの街にシャカシャカと自転車の音だけが響き渡る。


気分を変えるためにたまにはチリンチリンとベルを鳴らして、漕いでいく。


前はスマホから音楽を流しながら漕いでいたが、生憎もう壊れてしまって手元には存在しない。


元々、霧に囲まれてからは圏外となり使い物にならなかったが思い出の写真も保存されていて、現像しておけばよかったと思ったものだ。


ただ、壊れた理由は避けようがなかったので仕方ないと割り切っている。



だが、割り切ったとは言えこの自転車の音以外何の音もない状況は退屈で気分を変えるべく歌を歌う事にする。



流行っていた曲を歌う。流行っていたと言っても3年前から外部との連絡も出来なくなっていたから、外ではもう廃れているだろうが。




口を大きく広げ歌う。別に上手いわけではないが、やはり声を出すと言うのは気持ちいい。



碌々喋る相手もいなければ、大声を出す機会もなかった。


だからこそ歌に力が入るし身体にも力が入る。


ガギャ



そんな音ともに、空を漕ぐ脚。


自転車を止め足元を見ると、ペダルが折れていた。




あーあ、またやっちゃったよ。


自転車から降りてペダルが折れている事を確認する。


これで何度目だろうか?3回くらいか?溜息と共に反省する。また、力を込めすぎた様だ。最近はちゃんと制御できていたから油断したのかもしれないな。


3年前のある事が切っ掛けに、俺の身体能力は異様なまでに上がっていた。



最初は戸惑ったし、有り余る力で物が壊れたりもした。


スマホもこれが原因で壊れた。

壊した事実に俺は、流石に呆然としてしまったが、今ではいい思い出…………ではないな、うん。



自転車は壊れてしまった。だが、周りには車やバイクしかない。


免許は持っているが、どれもバッテリーが上がっていて、エンジンが動く事はなかった。


まだ、いくつか調べていない車はあるが、早々に諦めて徒歩で行くことにする。


少し屈伸などして身体をほぐしてから走り始める。

走るスピードはかなり速い。どれくらい速いかというと車くらい速い。


それも一瞬ではなく、かなり長い間走ることが出来る。


そんな健脚で走る。街の端に、霧と街の境目に向かって。















街の端には多くの車両が並んでいる。街から出ようとして、結局出れなかった人達が捨てていった跡だ。


地面にはこべりついた血やゴミが散乱している。

此処から少し離れた場所にキャンプがあった。


霧が晴れたら直ぐに逃げるために居たそうだ。

ただ、霧の近くにいたのが仇となり襲われた際、逃げ場がなくなった多くの人が此処で生き絶えた。


死体は無い。俺が処理したわけではない。虫や鳥が食べた訳でもない。


じゃあ誰かが死体を動かしたのかというとそれも違う。


ただ単純に死体その物が移動したのだ。此処まで言うと何となく察する事は出来るだろうが、はっきり言おう。



彼等はみなゾンビになったんだ。




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