第6話 あの時の君と
大室と僕は喫茶店を出た後、国道沿いの道を歩いていた。
喫茶店で話し込んだ後、大室にちょっと付き合って欲しい場所があると言われたからだ。
この辺りも都市開発が進みだいぶ変わった。
数年前川野辺に高速のICが出来たこともあり道路も整備されチェーン店系の家電量販店やドラックストア、レストランなどの大型店舗も作られ交通量も増えた。
「いったい何があるんだ?」
「まぁいいから いいから」
数分歩くと大きな駐車場を持つ大型の書店に到着した。
新しくできた大型店舗と比べると幾分古さを感じる建物ではあるけど、この川野辺、横川近辺では比較的古くからある老舗の大型書店だ。
この本屋は・・・確か昔若菜と参考書を買いに来たことがあったな。
あの頃は2人で同じ大学を目指して頑張ってたんだっけ・・・
「ここの本屋に何か用があるのか?」
「う~ん。あると言えばあるのかな。まぁ私がじゃないけどね」
「なんだそれ?」
「あ、ちょっとここで待ってて。後少しだと思うから」
僕達は書店の中には入らず、駐車場脇の緑地帯で待機していた。
聞いても教えてくれず正直わけがわからなかったけど、5分程度待ったところで緑地帯脇にある書店の通用口が開き1人の女性が出てきた。
「「あ!」」
目があった段階でお互いが誰だかわかり思わず声を上げた。
そして僕も彼女も大室を見た。
「というわけ。後は2人に任せるわ。じゃまた今度お酒でも奢ってね♪美味しいお酒飲めるといいんだけどな」
と大室は、僕たちを残して元来た道を歩いて行った。
約4年半ぶりとなる再会。
黒髪に眼鏡と見た目の雰囲気はだいぶ変わっているけど、大室が言っていた通り当時の面影はある。
ただ、付き合っていたころの様な笑顔は無く、少し影がある表情だった。
「髪、黒くしたんだな」
「・・・・うん。元々地毛は黒なんだよ。高校デビューっていうと恥ずかしいけど少し自分を変えたくて頑張ってたんだ」
「・・・・」
「あ あの・・・ごめんなさい!!
自分がしたこと、有坂君を沢山傷つけたこと、裏切ったこと、謝っても許されるようなことじゃない事はわかってます。
許してもらえなくてもいい。ただ、謝らせてください」
と僕に頭を下げたまま謝罪の言葉をいい若菜は泣き出した。
「山下さん。顔を上げてよ。もういいんだ・・・怒ってない」
と顔を上げる若菜。涙で顔がくしゃくしゃだ。
若菜も・・・・辛かったんだよな。
「あの時は確かに死んでしまいたいくらいの気持ちだったし2人を憎んだ。でもさ、あの後色々と考えたんだ。
なんで山下さんは僕じゃなく健也を選んだのか・・・・冷静になって考えると、テニス部の部長になってから僕は部の事を考えるので精一杯で山下さんをあんまり構ってあげられなかったし心無い言葉とかも言ってしまってたのかもしれない。それに3年になってからは受験勉強で忙しくなって会話も少なくなっていたと思う。
きっと山下さんにも寂しい思いをさせたと思うし、細かなところで不安にさせることもしてたんだろうなと思ったんだ。
部活だとか受験勉強だとか、こんなのはただの言い訳でしかないし時間は作ろうと思えば作れたはずだ・・・僕はもっと山下さんと一緒にいることも出来たはずなんだ。
それで健也と・・・あいつ優しいからな。だから悪いのは山下さんだけじゃない。ただ・・・一言だけでも僕に相談して欲しかったけどね」
俺の言葉に若菜は頭を振りながら続けた。
「有坂君はちっとも悪くないよ・・・私が1人で寂しがって不安になって・・・優しくしてくれた太田君に逃げただけなんだよ・・・だから悪いのは全部私なの。
・・・私が有坂君を裏切ったんだよ。本当にごめんなさい」
若菜は若菜で苦しんだんだ。
だから・・・もういいんだ。
それに僕も・・・
「・・・・僕さ山下さんの事を忘れようと思って横浜の学校に入学して、今までと違う生活もして・・・・彼女も作ったりしたんだ。
でも何か違うんだ。高校の頃に経験した山下さんとの楽しかった思い出。それに大室に鮎川や栗田、恩田や富田達とのバカ騒ぎ。僕にとってはあの頃が最高に楽しかったんだ。
特に山下さんと過ごした日々は他の女性と付き合っても上書きできなかった。それであらためて思ったんだよ。僕は本当に山下さんが好きだったんだなって・・・」
「ごめんなさい・・・私の事そんなに思ってくれてたのに私は・・・」
「・・・もういいんだよ。
最後に会ってから4年半くらいかな・・・大室に聞いたよ山下さんも自分の行動を後悔してずっと悩んでたんでしょ?僕も忘れようと思っても結局忘れられなかった。あの時もっと山下さんに優しくしてればなって・・・」
「ありがとう・・・相変わらず有坂君は優しいんだね。
・・・でも山下さん・・か・・やっぱりもう名前では呼んでくれないんだね」
「・・・僕は・・・名前呼びでもいいけど今の僕達は付き合ってるわけじゃないし変だろ?」
「・・・・・」
少しの沈黙の後、若菜は意を決した顔で僕を見つめ・・・僕に告白をした。
「有坂君。私、やっぱりあなたの事が好きです。
私も当時の事を思い色々考えました。そしてどうしてあの時あなたを裏切ったんだろうという後悔は今でもあります。それから楽しかった日々・・たくさんの思い出・・・忘れようと思ってもずっと忘れられなかった。
だけど・・・そんなのは私の自分勝手な想いだし有坂君と再び会うつもりもありませんでした。
でも・・・駄目だね。会って顔を見ちゃうと抑えてた想いがあふれてきちゃって・・・
私は・・・有坂君にたくさん嫌な思いもさせちゃったし許してもらえないとは思うけど・・・もし・・・もしやり直すチャンスをくれるなら・・・・もう一度私とお付き合いしてくれませんか?」
高校1年の春。僕は若菜に一目惚れをして告白をした。
あれから約7年。
もう2度と会うことはないと思っていた若菜に再会し若菜から告白された。
言葉を振り絞るような若菜の気持ちがこもった告白だった。
・・何だろう今まで心に閊えていたものが取れたような清々しい気持ちがする。
『そういうことだったのか』
今なら僕にも古橋先輩が言っていたことがわかるような気がする。
僕はやっぱり若菜の事を・・・
僕は彼女の手を引き寄せ、そのまま抱き寄せた。
「有坂君?」
「"若菜"僕もやっぱり君が好きだ。僕からも頼む。もう一度付き合ってくれ」
僕は彼女を抱きしめたままキスをした。
「し 忍君は急にこんなことする様な男の子じゃなかったのになぁ」
と顔を赤くし涙を流しながらも僕に微笑みかける若菜。
久しぶりに見た笑顔。僕が一目惚れしたのもこの笑顔だったのかもしれない。
お互い見つめあう。
若菜は確かに僕を一度裏切った。
でも・・・・もう一度僕は彼女の事を信じてみたいと思う。
僕は彼女の事が好きだから。
その気持ちに嘘はないし誰にも文句を言わせるつもりは無い。
そして、僕も今度こそ彼女を幸せにしたい。
僕達の止まっていた時が動き出す。
そして、もう一度あの時の君と恋の続きを始めたいと思う。
僕は再び彼女と抱き合い失った時間を取り戻すかの様に今度は長いキスをした。
fin
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あとがき
これにて改訂版も終了です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
単純な文字数はオリジナル版の4倍近い量となっていますが、結末などキーとなるストーリーはそのままとしています。
内容は、オリジナル版の作成時に頭の中で考えていた2人の気持ちの移り変わりや過去の経緯、時系列上の矛盾点の修正等と他の作品を書く中で成形された友人キャラたちとのエピソードなどでまとめました。
オリジナル版を投稿した際も色々とコメントは頂きましたので、展開や描写に納得がいかない方も多々いるかとは思いますが、ストーリーについては"こういう結末もあるかも"くらいで読んでいただければと思います。
なお、もしかしたらエピローグ的なものも書くかもしれませんが、このお話はここで一旦完結です。またオリジナル版の方は近々非公開にする予定です。
(2020/05/06)
★本作品に登場の有坂、山下、大室、渋沢らは私の別作品にも登場していますので、興味を持っていただけた方は、よろしければそちらで彼らも見て頂ければと思います。
・あなたの事が好きになったのかもしれません(2020/5/6現在連載中)
主人公が渋沢でヒロインが大室のお話で"あの時の君と"6話近辺の時系列の話。
・僕は彼女が嫌いなはずだ(2020/5/6現在連載中)
有坂の友人の一人である鶴間を主人公としたお話で高校1年当時の有坂達が登場
その他"彼女にはかないません!","おっさんと先生","7年目の約束"等でもエキストラ的に名前が登場します。
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