第5話 友との再会
今の会社で働き始めてから3年目。
俺は主任となりプロジェクトチームのリーダとして忙しい日々を送っていた。
「有坂主任。この間のクライアントからの依頼書ですが、見ていただけましたか?」
「ああ悪い。今見てるところだ午前中には確認して会議開くよ」
「お忙しいところ申し訳ないですがよろしくお願いします」
「了解。ん?何か他にも用があるのか?」
「あの・・・主任は一昨日の結婚式出席されたんですよね」
「ん?ああ古橋先輩の結婚式か?出席したよ。先輩には入社当時からお世話になってたしな。幸せ一杯って感じで中々いい式だったぞ」
「そうですか・・・古橋先輩の事は私も尊敬してるんですけど・・・旦那さんはもっと素敵な人がいたと思うんですよね。どうも納得がいかなくて。あの人って前に私の同期の子をナンパしてたんですよ。あんな軽そうな人・・・」
同期の子って・・・自分の彼女の後輩をナンパするって・・見境ないなあの人。
「まぁ確かにな。でもさ、幸せの形って人それぞれだぜ。古橋先輩があの人と一緒に居ることが幸せだって言うなら外野がとやかく言うことじゃないぞ。それに結婚を決めたってことは相手の男もそれだけの覚悟も決めたって事だろうしな」
「確かにそうですけど・・・」
「ちなみに俺も同じように思って何年か前に古橋先輩に直接言ったことがあるんだ。今のセリフはその時に俺が古橋先輩に言われた言葉だ。古橋先輩は周りに何言われようがブレずにあの人の事をずっと好きでいたんだ。あの人もその想いに応えたんだろ。先輩の事を不幸にはしないさ」
一昨日。古橋先輩が結婚した。
相手は浮気性の幼馴染。あの後も相変わらずな感じで付き合ってたらしいけど、昨年末、古橋先輩に関西支部への異動の話が出たときに"俺と一緒になってくれ"って正式にプロポーズされたらしい。
浮気はしていたけど彼氏さんも先輩の事が好きで離れるのは嫌だったみたいだ。
随分自分勝手な話だけど、プロポーズ後は浮気癖もなくなり先輩だけを見る様になったとの事。もっとも先輩は"いつまで続くかしら"とか言ってたけどね。
やっぱり先輩は凄いですよ。
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仕事を終えて会社近くのマンションに帰宅すると高校の同窓会のお知らせが届いていた。開催は来年の1月。幹事は栗田・栗田(旧姓鮎川)となっている。
あいつら結婚したんだな・・・高校を卒業してからだとおおよそ4年。大学に進学したやつは卒業して就職している年だ。皆変わったんだろうな。
『にしても同窓会か・・・どうしようかな』
若菜や健也とはその後も連絡は取っていない。
僕の方で若菜たちを避けていたという事もあるけど、正直今でも2人の事を引きずってるところはある。
学生時代含め何人かの女性とも付き合ったけど、どの人とも長くは続かなかった。
美化されてるとこもあるんだろうけど、若菜と過ごした時間が楽しすぎて、その記憶を上書くことはできなかったんだ。
『若菜は健也とまだ付き合ってるのかな』
今の自分にはどうでもいい事と思いつつも何となく久しぶりに若菜の笑顔を思い出した。
『吹っ切れたと思ってたんだけど・・・』
ヘタレだな僕は。。。
古橋先輩に話したら"自分に正直になれ"とか叱られそうだよ。
そんな事を考えながらソファに座りテレビをつけようとしたところで懐かしい友人から電話の着信を受けた。
スマホに表示された文字は『渋沢』だった。
『いつもはメールなのに電話なんて珍しいな。どうしたんだろう?』
と受話ボタンを押し電話に出ると沈んだ声で”飲み・・付き合ってくれないか?"との誘いを受けた。
普段あまり見せない様子だったので、何かあったんだなと察した僕は彼が今いるという横浜駅近くで待ち合わせをして飲むことにした。
「悪いな急に呼び出しちゃって」
「いや構わないさ。それよりどうしたんだよ何かあったのか?」
「・・・香苗と別れた。いや正確には別れを告げられたって感じなのかな」
「えっ上原さんと?この間もデートしたって言ってたしそんな感じなかったじゃないか」
「他に好きな人が出来たんだそうだ・・・・僕みたいな真面目なだけの男は刺激が無くて駄目なんだってさ」
「そんな・・・」
上原さんとの事は付き合う前から僕も相談を受けたりしていたので知っていた。
確かに写真を見せてもらった限り綺麗な人だったけど、少し気が強そうなところは優しくマイペースな渋沢と合うのか気にはしていたんだけど・・・
だとしても理由が身勝手だな。
「渋沢は、それで別れ話を受け入れたのか?」
「ああ。受け入れた。僕は彼女の事を本気で好きだったけど、彼女の方はこんな簡単に別れを切り出せるくらいにしか思っていなかったんだって思ったら急に気持ちが冷めちゃってな。しばらく会いたくないって言ってそのまま別れたよ」
「そっか・・・後悔はしないんだな」
「・・・それ言うなよ。確かに気持ちは冷めて啖呵をきってきたけどさ、まだ未練があるといえばあるんだからさ。。。そうじゃなきゃ急に飲みになんか誘わないさ」
「仕方ないな。親友の為だ。明日は休みだし今日は朝まで付き合ってやるよ」
「・・・やっぱりいい奴だなお前! 今日は飲むぞ~!!!」
・・・・・・そして僕たちは朝まで飲んだ。
渋沢と上原さんとの思い出話や未練、愚痴etc
僕はほとんど聞き役に回ったけど、僕も珍しく自分の気持ちを吐露することもあった。会社の飲みとかでは話せない内容だけど相手が渋沢だから安心できたのかもしれない。
そして始発の時間帯。僕たちは閉店する店から追い立てられるように外に出た。
「う~気持ち悪い」
「飲み過ぎだって。そもそもお前そんなに酒強くないだろ?」
「たまには限界まで飲みたいときもあるんだよ~」
「ま、そうだなそういうときもあるよな」
「でも・・・・ありがとうな付き合ってくれて。少しは気持ちが晴れたよ」
「まぁなんだ、また何かあれば遠慮なく呼んでくれよ。お前や鶴間は俺にとって大切な友達だからな」
「ああ、そうだな」
「あ、後さ上原さんの事まだ好きな気持ちがあるなら、彼女の幸せを祝ってやるのもいいかもしれないぞ」
「祝う?」
「そ、渋沢は上原さんの事が本当に好きだったわけだけど彼女は他の人を選んだわけだろ?でもそれで彼女が幸せになるんならって思う様にするんだ。好きな人が幸せになるって思えば少しは気持ちも楽になんないか?」
「・・・そうかもしれないけど、今の僕にはまだそこまでは割り切れないかな。僕が彼女を幸せにするつもりだったわけだし。でもありがとな参考にさせてもらうよ。だけど・・・それってお前の・・・」
「さっそろそろ始発が動き始めるぜ 早く帰って寝るぞ」
渋沢に言った古橋先輩の言葉・・・僕自身に向けても言えることなんだよな。
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渋沢との飲み会からしばらくたったある日、帰宅途中に見慣れないアドレスからメールが届いた。高校時代の友人"大室"からだ。
ちょっと相談ごとがあるから会えないかという内容だったけど、渋沢に続き最近は懐かしい奴らからの連絡が多いな。
やっぱり同窓会があるからか?
だけど大室とは高校時代に仲良くはしていたものの卒業以来会っていないし"何で僕に"という思いもあった。
むしろ僕に相談するなら幼馴染の栗田や鮎川の方が・・・と思いつつも久々に会って見たい気持ちもあり僕は指定の待ち合わせ場所に行くことにした。
"会ってみたい"か・・・同窓会の案内を見たせいかもしれないな。
僕も人の事は言えないか。
待ち合わせ場所は川野辺駅と横浜駅の丁度中間となる横川駅のとある喫茶店。
僕の勤めている会社からは2駅隣の比較的大きな駅で、大室の職場がこの近くらしい。
「あ!こっちこっち」
待ち合わせの時間ギリギリに指定の喫茶店に入ると、奥の席で大室が手を振っていた。
少し大人びた感じはしたけど、学生当時の面影はある。
高校の時はバスケ部で活躍していたスポーツ少女。
それに確か文化祭ではバンドとかもやってたよな。
かと思うとバスケ部引退後は僕や太田の勧めで読み始めたラノベに嵌って独自に買いあさり今ではすっかり腐な人だ。
「卒業以来だね。有坂君は元気にしてた?」
「・・・まぁぼちぼちな感じかな」
「うん。そっか。今日は悪いね急に呼んじゃって」
「いや構わないさ。それにしてもなんだよ悩み事って」
「うん。あ、そうだったね悩み事だよね。
同窓会の案内来たでしょ? 有坂君どうする?」
やっぱりその件か・・・
「正直悩んでる。僕って卒業前はあれだっただろ。
あまりみんなと話とか出来なかったからね。仲が良かった栗田や鮎川さん達とは会いたい気もするんだけど・・・」
「・・・若菜ちゃんの名前を出さないのは意図的?それともやっぱりまだ引きずってるの?」
「痛いところつくね・・・ 自分では吹っ切れたつもりだったんだけど同窓会の案内をみて、最近また思い出しちゃったんだよね」
「・・・やっぱり若菜ちゃんの事はまだ許せない?」
「正直わからない。当時は確かに許せないって気持ちでいっぱいだったけど、僕も3年になってから構ってあげる時間も少なくなってたし不安な思いもさせたかもしれない。だから一概に若菜だけを責められないとは思ってる。
それに若菜と付き合ってたとき凄く楽しかったんだよね。入学式の時、たまたま若菜を見かけて・・・多分一目惚れだったんだと思う。
それにね。最近色々と思うところもあってね。僕は若菜の事が本気で好きだった。若菜と幸せになりたいとずっと思ってた。だけど・・・若菜が選んだのは僕じゃなかった。辛いけどそれで若菜が幸せでいてくれるんならそれでもいいのかなってね」
「まだ・・・好きなの?」
「ごめん。本当にわからないんだよ。卒業してから連絡も取ってないし」
何でこんな事を今更聞くんだ?確かに大室や渋沢は僕のために色々としてくれてはいたけど・・・
「一昨日ね。偶然若菜ちゃんに会ったの」
「え!!」
「眼鏡に黒髪で、ずいぶん見た目は変わってたけど雰囲気でわかったわ。彼女も有坂君の事をまだ引きずってるみたい」
「そうなんだ・・・でも、あいつには健也が・・・」
「そっか、有坂君3学期はあんまり学校に来てなかったもんね。若菜ちゃんと太田君はあの後すぐ別れたよ。私達が2人に詰め寄ったからかもしれないけど太田君は"僕は悪くない"って若菜ちゃんに責任押し付けて逃げ出したわ。若菜ちゃんとはそれっきりみたい」
「そう・・・なんだ」
健也は口では色々と言うけどメンタル弱かったし行動力は無かったからな。
大室さんや栗田とかバスケ部のガタイが良い連中に詰め寄られたら・・・逃げ出すか。それにあの時は珍しく温厚な渋沢の奴も怒鳴ってたしな。
にしても、僕から若菜を奪ったんならもう少し根性を見せて欲しかったよ。
「私さぁ、前にも話したかもしれないけど、有坂君と若菜ちゃんの2人にはちょっと憧れてたんだよ」
「僕たちに?」
「うん。私ってがさつだし自分自身に彼氏作るとか恋愛ごとはあんまり興味なかったんだけど、私の周りって何故かカップルが多かったのよね。
バスケ部の先輩方はウザいくらいイチャイチャしてるし、栗田君と瑞樹はイライラする位に中々付き合わないしって感じだったんだけど、2人は有坂君が告白して若菜ちゃんがそれを受けて変に気取らず自然体で仲良く付き合っていて何というか私の中ではベストカップルだったのよね。何だか小説の中の話みたいで。
だから、もしいつか私も恋人を作れるなら2人みたいになりたいなって・・・当時の乙女な私は思ってたのよ」
「そうなんだ・・・ちょっと複雑だな」(っていうか乙女な私って・・・)
「うん だからねお節介かもしれないけど2人の別れ方は自分の事の様に辛かったんだ。だからあの時浮気した若菜ちゃんにもきついこと言っちゃったんだよね。
でもね。この間若菜ちゃんに会って話を聞いて、あの子もずっと悩んでたんだなって知ったの。若菜ちゃんね有坂君にあまり会えなくなって嫌われたんじゃないかってずっと不安だったんだって、そんなときに太田君に優しくされて気を許しちゃったみたいなのよ。クリスマスも太田君に誘われたみたいだし太田君の方が若菜ちゃんに積極的だったのかも。あっクリスマスの日はまっすぐ帰ったらしいから何もなかったみたいだよ」
「・・・・」
「まぁ有坂君にとっては太田君も大切な友達だったと思うから信じるか信じないかは任せるけど、若菜ちゃんも自分の軽はずみな行動を悔いてて、許されないとしても有坂君には謝りたかったみたいなの。だけど有坂君とも連絡は出来なかったし頼れる友達も居なくてずっと悩んでたみたいでね」
「そ・・・っか」
「まぁだからと言って若菜ちゃんが浮気した事実に変わりはないし許してあげてっていうつもりもないけど・・・このことは知っておいてもらいたくて」
「ありがとう大室」
そっか・・・・若菜も・・・・
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長文失礼しました。調子に乗って長くなってしまいました。。。
次の6話が最終話です。
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