第4話 友との再会 -Side 若菜-
高校を卒業した後、沢山いた友達との付き合いもピタリとなくなった。
私自身も誰とも会う気になれず独り実家の部屋に籠る日々が続いていた。
そして、卒業して半年。
私は大学受験を諦め就職の道を選んだ。
私の事を心配した両親と話し合った結果だ。
就職先は実家からも近い街道沿いの大型書店。
お父さんの知り合いが勤めている会社の系列店で、私の事を中途採用してくれることになった。
昔・・・有坂君とも本を買いに来たことがある思い出の店だ。
就職にあたり身だしなみも整えたけど、結局華やかな世界は私には合わなかったんだと髪も元の色にして、コンタクトも元の眼鏡に戻した。
多分、高校時代の同級生も私だってわからないんじゃないかな。
でも・・・これが本当の私だ。
見た目を変えても人はそんなに変われない・・・
書店での私の仕事は本の整理や店舗での販売。
忙しいのは時々行われる作家さんのサイン会などのイベントや人気作品の発売日位で、都心の書店と違ってそれ程忙しいわけでもない静かな職場だった。
同じような日々が繰り返され、これといった刺激も無い仕事だけど自分にはぴったりの職場だとも思えた。
そして、元来人見知りな私は、他のスタッフの中に溶け込めず、一人でいることも多かった。
入社した当時は、高卒の若い女性ということもあり男性社員からチヤホヤされたけど、私の素っ気ない対応などもあり仕事上の付き合いのみの関係であまり深い付き合いをする様な人は出来なかった。
唯一仲良くしていたのは川野辺高校の同級生だった生田さんだ。
彼女は私が働き始めた翌年にバイトとして入ってきた。
高校時代は1年の時に同じクラスになっただけで、ほとんど会話もしたことはなかった。ただ、私の事は有坂君や太田君との事も含め知っていたようで、最初の内は彼女も私に距離をおいて接してきていた。
だけど一緒に仕事をしている中で、彼女から私に話しかけてくれることが増え、いつの間にか一緒に食事をしたり遊びに行ける間柄となっていた。
彼女は川野辺大学に通っているそうだ。
有坂君と一緒に受ける予定だった大学だ。
近隣の大学の中では規模も大きく教育や情報処理方面に力を入れている。
もし・・・あのまま有坂君と一緒に大学受験して合格していれば生田さんとは同じ大学に通う同級生になっていたのかもしれない・・・
"もし"なんて今更ありえないけど・・・
「ねぇ 山下さんは彼氏を作るとか、新しい恋はもうしないの?」
「私は・・・」
「だって山下さんって普通に可愛いしモテると思うし勿体ないよ。
やっぱり、有坂君の事が忘れられないの?それとも太田君?
・・・有坂君や太田君との事は私も知ってるけどこの先ずっと独りでいるつもり?気持ちはわかるけど今のままじゃ山下さんが辛すぎるよ」
「ありがとう心配してくれて。有坂君の事は・・・今でも好きなんだと思う。
・・・でもね私は有坂君に酷いことをしたの。大学に行くのもやめたみたいだし、彼の人生も狂わせてしまった。私だけ幸せにはなれないよ。
それに・・・仕事とかなら大丈夫なんだけど、男の人に優しくされるとあの日"クリスマスの夜"の有坂君の悲しそう顔を思い出しちゃって」
そう。入社当時は食事に誘ってくれたりする男性も居た。
でも・・私は有坂君の事を思い出してしまい誘いを受けることはなかった。もうこれ以上有坂君を裏切れないし、私だけ幸せになっちゃいけないんだと思って。
こんな事をしても許してもらえるわけでもないのに・・・
「私ね。そんなに仲が良かったわけじゃないけど有坂君とは中学も同じだったし普通に顔見知りで話しとか出来るくらいの付き合いはあったの。だから彼が見かけだけじゃなくて本当にいい奴だってことはわかってたつもり。
だから山下さんとの事を聞いたときも有坂君に同情したし山下さんの事を酷い人だって本気で思ってた。多分そういう人も多いと思う。あいつ友達多かったから。
でもこうして山下さんと話をしてるとね・・・何だか山下さんが可哀相に思えてきちゃって。
確かに浮気をしたのは山下さんが悪いけど、山下さんは十分反省したと思うし後悔もしたと思うの。もういいんじゃないかな。有坂君とのことを忘れて山下さんも新しい一歩を踏み出しても」
「新しい一歩・・・有坂君を忘れる・・・」
「そう。それに山下さんのそんな辛そうな姿は有坂君も求めてないと思う。有坂君も山下さんのこと好きだったんだしね。あいつはそういう奴だと思うよ」
「・・・ありがとう生田さん」
でもね・・・やっぱり私は・・・有坂君の事を忘れるなんて・・・
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働き始めて4年。
堅実な仕事ぶりが評価され、私は現場のチームリーダとしてアルバイトの指導や管理を任されていた。
仲が良かった生田さんは就職活動をするためにバイトを辞めてしまったけど、不器用ながらに頑張っている私を慕ってくれる後輩たちも出来て、仕事に対するやりがいや楽しさも得られる様になってきていた。
そんなある日、本の整理をしていると文庫本を見ていたお客様に声を掛けられた。
「もしかして山下さんじゃない?」
「・・・・大室さん?」
声を掛けてきたのは、高校生の頃に同じグループに居た大室さんだった。
有坂君と別れた後、色々と詰問されてその後はお互いに気まずくなり会話もなく卒業していた。
だけど、グループ内では一番仲が良く有坂君や渋沢君含め学校以外でも遊びに行ったりしていた仲だった。
卒業以来だから4年ぶりくらいだろうか・・・
「随分・・・雰囲気変っちゃったんだね」
「うん。でもね・・・これが本当の私。高校の頃は変わりたくて色々頑張ってたんだよ」
「そっか・・・」
仕事中だったけど何だか懐かしくて少しだけ大室さんとの昔話の時間となった。
お互い、高校卒業後に何をしていたのか、最近どうだとか他愛もない会話だったけど、当時の事を思い出すと昔馴染みと普通に会話が出来たことが嬉しかった。
そんな中、私は気になることがあった。
私達が居るのはラノベやマンガのコーナーだ。
大室さんは当時はこういう本を読むタイプじゃなかったし、話をしたこともなかった。もしかしたら実は好きだったのかなと、思い切って聞いてみた。
「そういえば大室さんってラノベとか読むの?あんまりこういう本を読むイメージが無かったんだけど」
「うん。結構好きだよ。最も私って高校生の頃は本とか読むタイプじゃなかったんだけど部活を引退して暇だ暇だって言ってたら、有坂に"これお勧め!"って当時人気だった[異世界転生したら勇者候補に!!]ってラノベを勧められてね。これが本当面白くてすっかりラノベに嵌っちゃったのよ。それ以来かな色々読むようになったの。山下さんも好きなの?」
有坂君に勧められて・・・彼女の一言に私は衝撃を受けた。
「あ 有坂君もラノベとか読むの?」
「え?知らなかった?あいつラノベとかマンガとか大好きだよ。渋沢君や太田君とも小学生の頃にそれきっかけで知り合ったみたいで、よくマンガの貸し借りとかしてたみたいだし。そもそも私にラノベ勧めたのも有坂君だしね。
でも、知らなかったとすると山下さんの前ではカッコつけてそういうオタクっぽい話題はださなかったのかもね」
「そ そうなんだ。。。」
「え?山下さん?どうしたの?」
私は何故か涙を流していた。
無理をしないで彼には素の自分で話をしてもよかったんだ。多分素の自分でも有坂君は受け入れてくれた。初めから彼にちゃんと話をしていればよかったんだ。
それに悩みを相談していた太田君は彼がマンガとか好きなのを知っていたのに教えてくれてなかったんだ・・・
有坂君・・・ごめんね。やっぱり私はバカだよ・・・
忘れたと思っていたのに当時の自分を色々と思い出すと涙が止まらなくなった。
有坂君やグループのみんなとの楽しかった日々、幾ら後悔しても戻れない日々。
悔しくて辛くて・・・・有坂君・・・
大室さんは困ったような顔をしながらも私に連絡先を渡しこう言ってくれた。
「何だか色々あるみたいだから仕事終わったら連絡して」
「ありがとう・・でも私・・大室さんに優しくしてもらう資格なんて・・・」
「確かに有坂君の件は私も思うところはあったし、あの時は強く言っちゃったけど・・・それとは別で"若菜ちゃん"は私と友達でしょ?違うの?」
「・・・・ありがとう"小春ちゃん"」
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仕事の後、少しためらいながらも私は大室さんにメールをした。
遅い時間だったけど近くに住んでるから会ってくれるとの事で、書店近くのファミレスで彼女と会った。
私は当時の気持ちと出来事を全て話した。
有坂君との事、太田君との事、そして今の気持ち・・・
小春ちゃんは黙って聞いてくれていた。そして、
「太田君が仕向けたところもあったかもしれないけど、若菜ちゃんが浮気した事実は変わらない。この部分は若菜ちゃんが悪いし有坂君を傷付けたことに変わりはないと思う。だけど・・・本当ボタンの掛け違いというかお互い相手の前でカッコつけすぎだったのかもしれないね」
「・・・・・」
「若菜ちゃんが思っていた不満とか寂しい気持ちを有坂君に話が出来ていれば・・・。有坂君が部活や勉強よりも若菜ちゃんを優先していれば・・・。
今更タラレバの話をしても仕方ないけど、違った結果になってたかもしれないよね」
「うん・・・」
分かってる。
太田君と浮気してしまった過去は他に何があったとしても今更消せない事実。
でも、頭ではわかっていても辛いよ。
私は再び泣いてしまった。
「若菜ちゃん・・・過去は消せないけど、未来は今からまだ作れるんだよ。
まだ・・・有坂君の事が好きなんでしょ?
何が正解なのか私もよくわからないけど、私も力になるからさ」
「ありがとう・・・・・」
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