第2話 出会いと別れ -Side 若菜-

小学校、中学校と私はクラスでも地味で目立たない子だった。

いじめこそ受けてはいなかったけど、友達も少なく休み時間になるといつも一人で小説やマンガを読んでいて、クラスの輪に中々入れずにいるような子だった。


だけど、私もこのままじゃ駄目だと思っていた。

だから、高校に入ったら変わろうと思って家から少し遠かったけど叔母が住んでいる川野辺市の高校を受験した。

ここなら中学の同級生はあまり来ないだろうし生まれ変わることが出来る。

そんな希望を持って私は川野辺高校を受験した。


進学校ということと私の前向きな受験理由を聞いて親も受験を許してくれた。

ただ、特に成績が良かったわけではなかったので受験勉強は大変だった。


そして、努力が実って私は川野辺高校に合格することが出来た。


中学を卒業して迎えた春休み。

私は髪型を変え髪色も明るめの色に変えた。眼鏡もコンタクトにしておしゃれな服装やお化粧も色々と勉強した。


そして迎えた入学式。

私は少し無理をしながらも陽気なキャラを演じ、頑張って近くに居た子に声を掛け友達を作ることに成功した。


最初に出来た友達は鮎川さんと大室さん。

地元川野中出身の子で2人は幼馴染だという。

鮎川さんは羨ましくなるくらいに綺麗な女の子。そして大室さんは綺麗というよりは可愛いらしく元気いっぱいな女の子といった感じだった。

2人共中学からバスケ部で活躍していて、明るく友達も多かった。

彼女たちの輪に加わったことで私もクラスの中で目立つ存在となり友達もたくさん出来ていった。


そんな中、私は密かに思いを寄せている男の子がいた。

"有坂君" 彼は凄く目立つ男の子というわけはなかったけど、明るく自己主張があり誰にでも優しく親しみやすい男の子だった。

鮎川さん達と同じ中学の出身ということもあり同じグループで一緒に行動することも多く私はどんどん彼に惹かれていった。


そして、5月のスポーツ大会の後に有坂君から告白を受けた。

正直信じられないという思いの中、私達は付き合うようになった。

有坂君は、いつも私を優先して優しくエスコートしてくれた。

遊園地や映画館、緊張もしたけどデートも色々なところに連れて行ってくれた。全てが本当に初めての体験でとても楽しかった。

グループのみんなでお祭りに行ったときは、私の浴衣姿を見て綺麗だって褒めてくれた。みんなの前で恥ずかしかったけど嬉しかったな。


そして・・・付き合い始めて初めて迎えた夏。彼の家でお互いの初めても交換しあった。

今まで独りぼっちだと思っていた自分が大切な人を得て一つになることが出来た。今まで生きてきた中で一番幸せな瞬間だったのかもしれない。


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2年生に進級し私は有坂君とは別のクラスになってしまった。

同じ教室に有坂君が居ないのは少し寂しかったど連絡もたくさんくれたし帰りも一緒に帰ったりと交際は順調だった。

ただ、夏休みが終わり2学期になると有坂君はテニス部の部長になった。

そのため今まで以上に部活に関わる時間が増えて会える時間も少なくなっていってしまった。

それに・・・部活のストレスか時々有坂君の語気が荒くなり怖く感じるときもあった。


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そして、3年生。

お互い受験勉強が忙しくなり、会える時間も更に少なくなっていった。

付き合いが長くなってきたためか、彼の優しさを当たり前のように感じるようになってしまっていた私は、ちょっとしたことでのすれ違いや彼に会えないことから不安や寂しさも感じる様になっていた。


そんな中、2学期が始まり一人で帰宅している途中で彼の親友の太田君と出会った。

太田君とはクラスは同じだったけどほとんど会話はしたことが無かった。

でもあの時は太田君から一緒に帰らないかと声を掛けてきてくれた。

有坂君に会えない寂しさから彼を知る太田君と何となく会話をしたくなり駅まで一緒に帰ることにした。そして、その会話の中で彼が小説やマンガが好きなことを知った。

文芸部ということは前に聞いていたので、もしかしたらとは思っていたけど、大好きな作品の話が出来る事は嬉しくもあった。


高校に入ってから出来た私の友人は鮎川さんや大室さんをはじめ運動部で活躍する明るく社交的な人達が多かった。

有坂君にしてもそうだ。彼はテニス部で活躍する人気者。小説やマンガの話しとかをするようなことはなく、素の自分を出したら彼に振られてしまうんじゃないかという不安も常に持っていた。

この点が彼に対する唯一の不満で、私にとってのストレスでもあった。


そして、文化祭も終わり受験が近くなると彼と会える時間は更に少なくなった。

彼は3年生になる頃には成績も上位に名を連ねる様になっていたけど、私は人並みより少しいいくらいの成績だったので彼と同じ大学に入るため一生懸命に勉強する必要があった。そういった鬱憤・ストレスからか逆に自分が無理せず話し愚痴も言える太田君と会う機会も増えていった。


「あいつ酷いよな若菜ちゃんをこんな寂しがらせるなんて。あいつってモテるしもしかしたら他に好きな子とか出来て若菜ちゃんにわざと冷たくしてるのかもしれないよ」

「そ そんな有坂君がそんな事・・・・」

「だって最近は一緒に帰ったりもしてないんだろ?いくら受験生だからって彼女との時間を作れないなんてありえないよ?浮気だよ う・わ・き」

「・・・・でも そんな」

「僕だったら・・・・僕だったら趣味もあうし若菜ちゃんの事をもっと大切にするんだけどな」

「え?太田・・・君?」

「あいつみたいな陽キャは僕や若菜ちゃんの趣味とか理解できないだろ?僕なら若菜ちゃんの事を一番に考えてあげられるんだけどな。僕は若菜ちゃんが好きだからね」

「・・・・・」


そして、いつしか私は有坂君に会えない寂しさを紛らわせるため、優しくしてくれる太田君と関係を持つようになっていった。



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あのクリスマスの日。

私は太田君の家に招待されていた。

・・・彼とはまだ体の関係にはなっていなかったけど彼は私に会うといつも優しくしてくれた。

今までも何度か迫られたことはあったけど、いつも有坂君の顔が浮かび一線を越えるのは拒んでいた。そんなときも太田君は無理しないでいいと言ってくれた。

だから・・・その気持ちに応えるため、あの日私は声を掛けてくれた有坂君に"嘘"をついて太田君の家に行くつもりでいた。


そして、あの時・・・

私と太田君を見た有坂君は今まで見たことが無いほど辛く悲しい顔をしていた。当然だ。私は今まで優しくしてくれて沢山の思い出をくれた彼を裏切ったんだ。

そして信じていた彼の親友も奪ってしまったんだ。


あの日静かに去っていく有坂君を見て、私は追いかけることが出来なかった。

彼を裏切った私に追いかける資格はあるのか・・・

そして・・・あらためて気が付いた。

自分はやっぱり有坂君が好きだったんだと。

でも・・・今更その気持ちに気が付いても遅い。

太田君とは・・・一緒に居る気持ちになれず、引き留める声も聞かず家に帰った。


許してもらえるとは思っていなかったけど、どうしても謝りたくて有坂君に電話やメールを送った・・・でも全て拒否されてしまった。

振られても嫌われても仕方がない・・・私はそれだけの事をしたんだから。


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3学期が始まり私と太田君は気まずい雰囲気にはなっていたけどクラスメイトとして普通に振る舞っていた。

でも、有坂君は私や太田君を避けクラスにも滅多に顔を出さなくなっていた。


そんな中で私と太田君の事はクラスでも話題に上がるようになった。

有坂君はテニス部の元部長で友人も多かったことから塞ぎこむ彼を擁護する人は多かった。

そして、私や太田君は皆から責められ彼が居たことで出来ていた楽しかった仲間との居場所も無くなった。


そして、唯一の味方であるはずの太田君はまったく頼りにならなかった。

彼は元々内気で争い事を好まない人。

共通の友人として仲が良かった渋沢君や大室さんに強い語気で責められたときも萎縮し何も言えずに私を置いて逃げ出した。

そして私が追いかけて問い詰めると・・・彼は簡単に私を見捨てた。


「なんで私を置いて逃げるの!私の事が好きだったんじゃないの?一番に考えてくれるんじゃなかったの?」

「う うるさい! あの日だって若菜は・・・本当は僕を置いて有坂を追いかけたかったんじゃないのか!散々優しくしてやったっていうのにさ。それに僕は何も悪くない。お前が勝手に僕についてきて有坂を裏切ったんだ」

「そんな・・・酷いよ。太田君が私の事好きだって言ったから」 

「ふん。僕は"有坂の彼女"が欲しかっただけだ別にお前の事が好きだったわけじゃない」

「ど どういうこと?」

「僕はね。有坂が心の底から悔しがるところを見たかっただけなんだよ」

「そ そんな!何言ってるの? 太田君は有坂君の親友じゃなかったの!」

「親友だよ。ガキの頃からいつも近くであいつのこと見てきたよ。明るくて運動神経も良くて優しくてそれでいて努力家でみんなから慕われて・・・本当にいい奴だ。だけどなそれが凄く妬ましくもあったんだよ。同じ男として。だからあいつが一番大切にしていた"若菜"お前を奪うことにしたんだ。

 おかげで最高にいい気分になれたよ。だいたい、あの真面目な有坂が浮気なんてするはずないだろ。コロッと騙されて。本当バカだなお前」

「・・・・嘘・・・・だよね。嘘って言ってよ!」

「とにかく僕はもうお前とは関係ない!全部お前が悪いんだ!じゃあな」

「・・・・・わたし」


結局彼とはその後学校で顔を合わせることはなかった。

それにもう彼には会いたいとも思わなかった・・・


そして、私も学校へ行くことは少なくなっていった。

部屋に引きこもり

"どうして太田君の話を聞いたときに太田君を信用してしまったんだろう"

"どうして有坂君に直接自分の気持ちを話すことが出来なかったんだろう"

"どうして有坂君を信じることが出来なかったんだろう・・・"

"どうして有坂君を裏切って太田君を受け入れようとしてしまったんだろう・・・"

と自問自答を繰り返していた。

失った信頼や愛情は簡単に取り戻せない。

今更ながらに自分の軽率な行動と有坂君を裏切り傷つけた事に心が痛んだ。

自分が悪いことはわかってはいるけど・・・・・幸せだったあの頃に戻りたい。

今の私は独りぼっち・・・寂しいよ忍君。


そしてそんな不安定な精神状態の中で受験も失敗した。

当然だ。

有坂君は大学受験をやめて進路を変更してしまった。

だから、もう私と一緒の大学に行くことはない。

私は今まで彼と一緒の大学に行くという目標の中で勉強も頑張っていたのにその目標も無くなったのだ。


頑張っても空しいだけだ。

そもそも私の目標って何だったんだろう・・・

有坂君はコンピュータの勉強がしたいって言っていた。

私は何をしたかったの?有坂君と同じ大学に行ければそれでよかったの?

空っぽだな私って・・・


結局私は強がって高校デビューしたけど根本は変わってなかったのかもしれない。寂しがり屋で自分の意見も言えない意気地のない駄目な女の子。


高校生活最後の3学期。私は大好きだった彼と一言も話すことなく卒業した。

そして、楽しい日々を一緒に過ごした多くの友達も失った・・・・

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