第弐話
「俺、お国のために戦ってくる」
美冬にそう告げた秋人の声色は、どこか興奮気味だった。
熱に浮かされているような、そんな感じだった。
「なんで私に?」
驚きで幾ばくか固まっていた美冬がようやく紡いだ言葉。
「そ、それは、美冬だけには知っていてほしくて」
秋人は一瞬落ち込んだ顔をしたあと、照れ気味に言う。。
美冬には、どうしてわざわざ自分に伝えに来たのか理解できなかった。
身近にいた人が突然戦地に赴くのを見送る辛さを冬美は知っている。
それなのに彼はなんでこんなにも嬉しそうにこんなことが言えるのだろうか。
伝えにこれた彼はいいのかもしれない。
でも美冬の気持ちは?
「……カ」
「ん? なんて?」
美冬が口を動かすが、秋人には聞こえない。
そんな秋人の態度が気に入らなかった冬美は、声を荒げる。
「バカじゃないの! 死ぬかもしれないのに。なんでそんな嬉しそうな顔すんのよ! 言われる私の身も考えてよ!」
美冬は思わず叫んでしまう。
「そんなこと言うもんじゃない! お国のために身を捧げる。誇らしいことやないか!」
秋人が美冬の頬を叩いた。
お互いの叫び声も、雪の音でかき消されていく。
美冬は叩かれた頬を抑え、秋人を睨んむ。
「なんでそんなこと言えるのよ。一番大事なのは自分の命じゃないの?」
美冬は弱々しく言った。
「戦争に勝つためにはこの命も惜しくはない。この命で大切な物が守れるのなら。みんな同じこと思ってる」
そういった秋人の目には確かな覚悟があった。
美冬にはわからなかった。何が秋人をそこまで駆り立てているのかが。そこまでして守りたいものは何なのか。
女だから理解できないのだろうか?
それとも自分がおかしいだけ?
「守りたいものって何? もし死んじゃったら元も子もないじゃない。どうして秋人まで行かなきゃいけないの?」
もう失うのは嫌。と言うのを美冬はぐっと堪えた。
美冬自身、なぜ疎遠になっていた秋人のためにこんなにも必死になっているのかよくわからない。
「俺が行きたいから行くんだよ。お前を、家族を、みんなを守るために、この国が勝つために行くんだよ」
秋人が今までにないくらいに強い口調で言い放った。
「もしか―――」
「まだ入ってこないの?」
美冬の言葉を、心配して出てきた母が遮る。
「美恵子さん。お久しぶりです。秋人です」
秋人が美冬から目を離した。
「随分大きくなったのね。ところで今日はなんでうちに?」
美冬は俯いたまま二人の話を聞いていた。
「明日、出征することになりましたので、そのご報告に参りました」
それだけいうと、秋人は美恵子の返事も聞かずに雪をかぶりながら帰っていった。
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