第5話魔獣化した子Ⅴ

「その魔人教が本当に魔人教か、という点が重要だ。」

「つまり…?」

「例えば、ガラリアの魔人もそうだが、件の魔人教が主犯格で、総本山だとしたら、今日私が見た魔人教も本流を司るものなのか、という事だ。」

「なるほど、アルは、今回の依頼主の自宅にあった魔人教は、魔人教の名を語る何者かの仕業であると睨んでいるわけだな?」

「ああ、だが一つ腑に落ちない。同じ宗教団体を名乗るのであれば、もっと適切な宗教があるだろうに。なぜ魔人教なんだ。物々し過ぎやしないだろうか。ましてや魔人だ。一般常識から一番遠い宗教だと私は思う。」

「確かにな。しかしまあ、探ってみないと何とも言えんな。…あ、アル…まさかお前…。」

「察しが良くて助かるよ。頼めるか?」

「ダメだって言ったって引き下がらんだろ…まったく…。この仮は高くつくからな!」

「それは困った。経費で落とせればいいんだがな。」

「俺はお前と違って、平穏無事で安定した生活がしたいんだよ!」


 加藤さんはそう口では言っているが、心は赤ではなくオレンジに近かった。好奇心や高揚した時の色。この状況を楽しんでるように見える。


「あと、次いでと言っては何だが…。」


 プチッ


「痛ッ!!」


 アルフレッドは徐に私の髪の毛を一本抜き取った。抜き取った髪の毛を丁寧に短めの試験管に入れると、栓をした。


「ちょっと何するんですか!?痛いじゃないですか!」


 私の必死の怒りを完全にスルーしてアルフレッドは試験管を加藤さんに渡した。


「何だよこれ。」

「優子は『魔眼』保有者かも知れん。調べて欲しい。」

「魔眼ッ!!?ちょっと待て、本当なのか!?」

「だから、かも知れんと言っているだろう。優子は他人の心を視覚的に見分ける事が出来る。」

「優子ちゃん…マジ…?」

「ハイ…。」

「…って事は今も見えてるの?」

「一応…。」


 今の加藤の心は紫色。疑心や不安の色。きっと私を疑っている。しかしすぐにオレンジ色に変わった。加藤さんは基本的に好奇心旺盛なんだろう。


「いや〜恥ずかしい!俺はずっと見られてたって事かぁ、優子ちゃんも言ってよ〜。」

「…すみません。」

「大丈夫、大丈夫、職業柄『魔眼』には慣れてるから。にしても義眼じゃなくてオリジナルなんて珍しい。分かった。本当は予め申請書とか必要なんだけど、なんとかねじ込んでみるわ。」

「助かる。」

「じゃあ優子ちゃん、検査結果出たら連絡するから、電話番号と住所だけ教えてもらっていいかな?」

「あ、わかりました…。」


 アルフレッドは立ち上がると、代金を机の上に置いた。


「ここは俺の奢りだ。」

「当たり前だ!ったく、危ない橋渡らせやがって。」

「持つべきものは友だな。恩に着る。」

「持つべきものはの友の間違いだろ?」

「何を言う。私は君に絶大な信頼を寄せているよ。」

「…まあ、なんだ、悪い気はしねえな。」


 今の加藤さんの色は…。


「あ、優子ちゃん、心は見なくていいからね!」

(バレてた。)


「加藤は帰らんのか?」

「俺はもう少しゆっくりしてるよ。大丈夫、仕事はキッチリやるって。」

「そうか。では、行こうか、優子。」

「あ、ハイ。」


 私は慌てて残りヒトカケのケーキを頬張り、コーヒーで流し込んだ。


「桃子さん、ご馳走さまでした!美味しかったです!」


 奥にいる桃子さんに聞こえるように少し声を張ってお礼を言った。慌てたようにカツカツとヒールの音がなると、暖簾をまくり揚げ、桃子さんが顔だけ出した。


「もう帰っちゃうの?」

「桃子さん、お代はテーブルに置いてある。また顔出すよ。」

「はいはい。優子ちゃんもまた来てね!」

「ご馳走さまでした。」


 残された桃子と加藤は顔を見合わせて、微笑む。


「ホント、昔っから慌ただしい人よね。雰囲気は落ち着いてるのに。」

「まったくだよ。あいつが現役時代の時も俺はどんだけ振り回された事か。」

「でも、悪くないんでしょ?」

「ああ、悪くねえ。むしろ最近は張り合いがなくてな。安心したぜ。全然変わってなくてさ。」

「おかわりいる?」

「お願いしようかな。」

「はーい。」


 一週間後、加藤さんから連絡があり、私は魔導管理局に足を運んだ。

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