第4話魔獣化した子Ⅳ
加藤さんは腕組みをしながら溜息とほぼ同時に椅子の背もたれに寄り掛かった。少しだけ天を仰ぐと、すぐに起き上がり、話を続けた。
「なあ、アル。魔人教についてどれくらい知ってる?」
「知識程度だ。詳しくは知らん。私は無神論者だからな。」
「魔人教ってのは、その名の通り、魔人を主神とするカルト教団だ。本来、魔人ってのは
「ふむ。それは知識として知っている。」
それから加藤さんは続けた。
1911年にブラジル、コンタジェンで初めての魔人が確認された。推定全長約120mの巨躯はコンタジェンに黒い影を落とした。当時は、政府の自作自演や、陰謀論など様々な憶測やデマが流布されたが、翌年の2件目で魔人の存在はほぼ確定的であると結論づけられた。
一つの都市が地図から消えたのだ。
「最初の魔人は出現後、5 分と経たずに自壊し始めたそうだ。まるでエネルギーが足りないとばかりに泥のように。インパクトの割に被害が全くでなかったもんだからどこか浮かれてしまったんだろうな。」
「そして、ブラックホール事件か。」
「ああ。現在のイスラエル、ガラリア湖。あそこにはその名の通りガラリアという比較的大きな都市があった。たった一発だ。たった一発の攻撃が直径53キロにわたり都市を飲み込み、壊滅させてしまった。攻撃後、すぐに魔人は自壊してしまった、と機密記録にはある。」
その後、現在に至るまでの120年間、魔人出現報告は5件あったが、攻撃されたのはその一度きりだった。だが、魔人という脅威に対して、絶望という印象を植え付けるには十分過ぎる出来事だった。
「そして、ガラリアの魔人が出現したと思われる場所を調査した結果…。」
「魔人教のマークがあったというわけか。」
「当時の政府はその事実を極秘機密として隠蔽、ひた隠しにしていたらしいが、人の口に戸は立てられないってやつだな。あるジャーナリストによって暴かれ、魔人教は大衆に晒されたというわけだ。」
「しかし、その割には情報がほとんど出回ってないな。私も文献で少しかじった程度だった。人類の存続に関わる重大な事じゃないか。」
「重大だからだよ。当時の首相や大統領、国王は自国民に過剰な不安を与えない為に情報規制を徹底させた。結果、120年後の俺らは何も知らずに平穏に暮らしてるってわけさ。」
「それでも120年の間に少なくとも5件は魔人が出ているんだろ?なぜ話題にあがらない。」
「…だから言ったろ?情報規制だって…。」
「まさか…目撃者を全員消したってことか!?」
「まあそうなるわな…そしてその時に設立されたのが、魔導管理局の前身組織、魔導研究所だ。ここから先はお前も研修受けたから知ってるだろ?」
「道徳的な意味ではなく、当時はそれが世界にとっての『善』だったというわけか。」
「そうだな。今となっちゃ完全に『悪』だよ。黒歴史もいいとこだ。」
私は混乱していた。と、言うより私がこんな重要機密事項を聞いてしまって大丈夫なのかという不安の方が大きかった。
「あの…すみません。こんな話私が聞いちゃっても良かったんでしょうか…?私もけ…消されたりとか…」
加藤さんは目を丸くして、次の瞬間ゲラゲラと笑って見せた。
「ああ、大丈夫!大丈夫!確かに一般にはあんまり出回ってないけど、特定の専門書には歴史として記載されてるから。」
「そうですか…。」
私はホッと胸を撫で下ろした。少し緩くなったコーヒーを口に運ぶ。冷めていても美味しい。心地よい風味が鼻から抜ける。
「本題はここからだ。」
アルフレッドは少し勿体ぶったように続けた。
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