第21話 マット・フォーダーとの再会
登場人物
―ジョージ・ウェイド・ランキン…息子を失った退役軍人、『ワンダフル・ピープル』紙の記者。
―マシュー『マット』・フォーダー…合衆国政府機関に務めるインディアンの男、魔術と科学に熟達する天才。
一九七五年、九月:ニューヨーク州、マンハッタン、ソーホー
マット・フォーダーはジョージとまた会って話ができないかと言ってきた。マットが今回泊まっているホテルの位置やら何やらで話し合って、ソーホーの辺りのレストランで落ち合う事となった。
ソーホーに行くのは久々であった――多分三週間ぶりぐらい。
今回はバスがちょうどあったのでそれを利用したが、マンハッタンの様相は異常事態を何も知らぬまま進行しているように思えた。
とは言え、実際のところは皆それぞれの『大変』があって、辛いのであろう。であれば己が裏の悪を取り除くべきだ。
この国際都市には様々な顔ぶれがあった。ふとバスの窓から見れば、中東から来たと思われるビジネスマンが隣にいるどこかヨーロッパの国から来たと思わしき白人男性と話し合いながらタクシーを呼び付けていた。
軍人であった頃は世界中を飛び回ったジョージはアメリカへの来訪者に親近感を
できれば私は、あなた方が忌むべき邪悪に遭遇せぬよう今後も努力していきたいところだ。
自らがアメリカの一市民だと改めて確認した時、そこには使命感が生まれた。己の国を恥ずかしいものにはしたくない。
自分にできる範囲で、悍ましいものを罰し、排除するべきだ。その様はやはり、魔王にとっては噎せ返る辛味であった。
マットはジョージに気が付いて手を上げ、口元をナプキンで拭った。彼らは握手をして、ジョージは招かれるままに対面に座った。
「忙しいところ来てくれてありがとう。どうしてもお前さんに会いたかったんでな」
この時間はまだあまり人も多くはなかった。もう一時間程すると昼食を求めてごった返すと思われた。
「そうでしたか。ここはどうです?」
「ん? ああ…私が泊まっているホテルはサービスそのものの質には文句が無い。特にあの忌々しい枕はい何個でも持って帰って、親戚にも配りたいぐらいだ。だが食事は二流でな、その点ここのカラマリは絶品だな。せっかくだしニューヨーク風のユダヤ料理も注文してみるか」
やはりこうしていると心の中にあった怒りは萎むものだ。それは忘れなければよい。然るべき時に再燃させればよい。
だが相手はそうしたジョージの心を見抜いていたらしかった。
「何かあったのかね?」
その質問に何を答えるべきかジョージは悩んだ。己が裏で悍ましいものと戦っている事は多分誰も知らないはずだ。
目の前の男は明らかにそうした『この世』の裏にも詳しいようだが、しかしそれでも言うべきか否か。
「これは私の感じた事だが」と相手は言った。「四月のあの一件以来、何やら邪悪な怨霊や異界の怪物が討伐される話が増えた。ああいうのを狩る者はここニューヨークだとあまりいなくてな。東海岸全体でも正直そこまで多くはない。魔術師にせよその他のそういう類いにせよ、自分の研究や欲望で手一杯で公共事業は二の次といった次第だ。
「誰がやっているのかは知らないが、しかしその者はとても優秀だ。容赦が無く、しかも跡形も無くそのような超自然の邪悪を消し去る。私が思うにそれはお前さんと出会って以降増えた。お前さんがそうした事例に対して密かに強い感心を持っている事は知っているし、お前さんの知識量は恐らく平均的な魔術師どものそれとも同じぐらいか、それより上のはずだ。少なくとも、超自然的実体に関してはな。そんなお前さんに、その魔を狩る何者かについて心当たりが無いかどうかを是非とも聴いておきかった」
ジョージは相手の洞察に驚きつつも落ち着いて受け止めていた。悪意は感じない。意図はわからないが、しかしそう悪い話でもなかろうという予感があった。
「そうでしたか、というのも私の『知り合い』がそういう事をしているので」
「ほう、その『知り合い』の話を是非とも聞きたい」
そうしてジョージは半ば茶番じみた前提を立てた上で『知り合い』の怪異狩りについて話し始めた。
これまでの間に経験した戦い、そして今追っている事件についても。だがリヴァイアサンの話をすべきかは迷った。
だが結局彼はそれを話さないと説明できない箇所が多過ぎるので、結局マットにその話をした。
「何、お前さん…の知り合いはあろう事かリヴァイアサンと契約したのか!」
マットは明らかに引いていた。軽蔑や敵意ではなく、そこには純粋な困惑が見えた。とんでもない変態性癖を見るような、あんぐりと空けられた口とそれに合わせた目。
「フン、それはそれは。まあいいだろう。しかし…」
そう言ってから目の前のインディアンの男は笑った。ジョージがそれについて不思議がると相手は説明した。
「というのもな、白人がインディアンをやれ悪魔崇拝だのと言うのが世の中の典型だったから、白人が悪魔と契約するというのはインディアンの私から見れば随分面白かったのだ」
ジョージはなんと言うべきかもわからずに運ばれて来た料理をちらりと見た。愉快そうなマットの様子からして、そうネガティブな空気でもないのであろうが。
だがジョージは、ジャーナリストとしてこのマットという男について気になった。政府機関の者だと名乗るこの男の半生、彼から見たアメリカ。そうしたものが気になった。
「…何、私の話か? まあお前さんは色々話してくれたしな、私も話すのが礼儀というものか」
あまり期待せず聞いてみるとマットは意外と乗り気であった。ジョージは俄然、知りたいという欲求が強まった。
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