第10話 その十
「マリアはどうしたいの、総一について行くき?」
「そうね、あいつ私がいないとさみしがるもの」
二人は、くくくと笑いあう。
「あなたも総一がいないとだめなくせに」
マリアはふっと息をはいて、頬杖をつきながら森を見つめる。
「そうね……」
「エヴァもジークがいないとだめじゃない」
エヴァも森を眺めやる。
「そうだけど、私とお兄様は一緒になれないわ、これはどうしようもないのよ」
マリアの顔がジークに変じた。
「エヴァ、私たちは血のつながった兄妹だ。恋人よりも深い絆で結ばれているよ。そうだろう?」
「ええ、わかっています」
「けどお兄様が好きなんです」
「私もだよ」
お兄様の顔が総一になる。
「体、ひやさないんだよ」
「ありがと」
「もう寝たら?」
「寝てるようなものよ」
「それもそうだね」
おばさまになる。
「おばさま、私結婚なんてしたくありません」
「いいんじゃない?」
「まあ。この国はどうなるんですか」
「それが嫌なら、結婚したら?」
エヴァは黙り込む。
おじさまになる。
「自分のことだ、よく考えなさい。流されてはいけない。自分で考えることが大切だよ」
「はい」
お父様になる、お母様になる、おじいさま、おばあさま、家庭教師、メイド、執事、料理人、兵、町の人、それはいろいろな顔になる。
エヴァの悲鳴が森にこだまする。
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