第12話
当時のリスプにとって年の近い人間で気軽に話せるのはコトリンだけだ。そしてそれは今も変わらない。
「今は状況が違うの。私は町の遺跡について何かしらの成果を掴まなくちゃいけない。それはあんたにも話したわね?」
「聞きましたけど……色々あったんだなってことは分かります。でもウチの宿に泊まることにするからよろしく。もし正体ばらしたら割ったのあんただって実家に話すって書いてたじゃないですか。手紙をもらって何だろうって思ったら、あんな脅迫まがいのことがあるなんてひどいです。断れるわけないじゃないですか」
「ごめんなさい。こっちも必死だったの。でもあんたのそういう誠実なとこ好きよ。客商売向きのいい心がけね」
「……あんまり褒められてる気がしません」
「まあ、皮肉みたいに聞こえちゃうわよね。でも、そういうときは焼き菓子を食べるの。甘いものを食べれば、気分だって変えられるわ。これは皮肉でも何でもないわよね?」
「……はい」
リスプはコトリンが数焼き菓子を食べ終わるまで待ち、終わってから本題を話すことにした。
「で、あのタスクっていつからこの町にいるの? ギルドじゃ地元の人間じゃないって聞いたわよ」
「……うう、やっぱり話さなくちゃダメですか?」
「別に個人的なことを細かく聞きたいわけじゃないわ。気になるのはあの魔石をどこでどうやって手に入れたかね。帰るまで少し話したけど、人にもらったって言ってたわ。コトリンは知ってた? 本人から聞いているから隠すようなことじゃないと思うんだけど……」
「タスクさんから聞いてるなら……」
「じゃ、教えて」
「その話は聞いたことあります。この町の遺跡を調べることを条件に、魔石を譲ってもらったって言ってました」
「それっていつのこと?」
「……三年位前です」
「あんたが城で働くより前の話ね。そのときのことって詳しく聞いてる?」
「……いえ、聞いてません」
リスプ本人が聞いた話と違いはなかった。新しく入った情報は、譲り受けたのが三年前だということだけだ。
「……あの、リスプ様」
ある人物からあの魔石を譲り受けたという話が、本当かどうか断言できるものがない。あの魔石について知るために本人に聞くしかないかと考えていると、コトリンが恐る恐る口を開いた。
「様はいらないわよ。どうしたの?」
「タスクさんのことですけど、あんまり昔のことには触れない方がいいと思います。そのうちタスクさんからも聞くと思いますけど、あの人は元々行商人の子供で、この町にも家族でよく来る人だったんです。でも三年前、町の遺跡の近くにいたガーディアンに襲われました」
「……それで、どうなったの?」
深刻に話し始めたコトリンに影響され、リスプの口調も冷静になった。
遺跡の近くを通る人や馬車が、たまたま近くのガーディアンに襲われるというのは、悲しいことではあるがそう珍しいものではない。
「助かったのはタスクさんだけで、ある冒険者に助けられたそうです。ですがその冒険者もガーディアンとの戦いで大ケガをしてしたと聞いてます」
「それで魔石を譲ってもらったってわけね。でもそれじゃあ、その冒険者はどうなったのよ?」
「それからすぐに亡くなったそうです」
「他には何か知ってる?」
「タスクさんが冒険者になったのは、家族の遺品を探すためでもあるそうです。冒険者として人助けをするのも、それを探す手掛かりが欲しいからだって言ってました。でもどんなものなのかまでは知りません。一度聞いたことがあるんですけど、はぐらかされました。人には話したくないことなのかもしれません」
謎は謎のまま、詳しいことは明らかにならなかった。
「悪かったわね。そんなことがあったとは思わなかったわ」
「いえ、それでリスプ様は……」
「様はいらない」
「……リスプはどうするんですか?」
「遺跡の中を見てみるわ。調べたいこともあるしね」
「ガーディアン、また現れるかもしれませんよ。危険じゃないですか?」
「平気よ。私にはこれがあるわ。光を噴射する光射の魔石ってところね。すごいでしょ?」
リスプは腕輪を見せるように右腕を上げ、腕輪の周囲に光のリングが現れる。
「わあ、きれいです。これって魔石ですか? これなら暗いところでも安心ですね」
「……でしょ」
珍しいものを見て明るい反応を示すコトリンに対し、あれこれ聞いた気まずさもあって、明かりだけじゃないと言わないことにしたリスプだった。
「……ねえコトリン。タスクが不死なるタスクだって言われてるのは知ってるのよね?」
「知ってますよ」
「ならタスクが首から取れた頭を元に戻せるって言ったら、あんた信じる?」
「まさか。タスクさんでもそんなこと出来るわけないじゃないですか」
「どうしてそう思うのよ」
「私だって魔石を見たことはあるんですよ。兄さんだって昔は冒険者やってたんですから。魔石が出来るのは傷口を塞いでケガの治りを早くすることだけです。無くなった手足を戻すなんてまるで手品じゃないですか。あ、手品って言えば、王都で見に行ったことがありましたね」
「あったわね。あんたが見たいって言うから、私が行きたいってことにしてね」
「もー、そんなこと言わなくていいじゃないですか。言い出したのは私ですけど、リスプの方が楽しんでましたよね」
ここから話題は王都にいた頃の思い出話に移っていく。
リスプは気になることがまだあったが、コトリンと話すことを優先した。こんな風に思い出話をするのは、彼女にとって楽しいことだった。
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