第四章 クセーニャの物語 移住

皇帝一家のある問題


 十九歳のアタエフ伯爵令嬢クセーニャは、ある日を境に、天涯孤独の身になった。

 なんとかナスターシャ大公女に仕え、オストプロイセンのケーニッヒベルク城で働いていると、あるお仕事が……


 クセーニャはミハイロフスキー城で、十二名の女学生上がりの清女たちと奮闘する羽目に……


     * * * * *


 その女はクセーニャといい、十九歳のアタエフ伯爵令嬢であった。

 アタエフ伯爵家は没落貴族といっても良く、名門ではあるが、二代前の当主が放蕩の挙句、ほとんどの領地を手放すことになり、不名誉な自殺を遂げた。


 ただ小さな領地が一つ、サンクト・ペテルスブルグ近郊に残され、お陰で何とかスモーリヌイ女学院を卒業することができた。


 クセーニャの父でもある現アタエフ伯爵は、ロシア帝国皇帝ニコライ4世の近従として仕えていた。


 アタエフ伯爵は皇帝の信任も厚く、その関係か、妻も皇后の側近くに仕え、さらには次のアタエフ伯爵でもある、クセーニャの兄も侍従武官、そしてクセーニャも母と同じく皇后に仕えていた。


 あの日まで、そう、クーデターが起こるまでは……


 ある日、皇帝ニコライ四世は誰かと会談していたのですが、エカテリーナ皇后が無理やりに部屋に入られたかと思ったら、泣きながら退室され、しばらくしてクセーニャが呼ばれると、綺麗で小柄な女性が、皇帝のそばにいたのです。

 

 ……この方、皇帝陛下の新しい愛人かしら……皇后陛下が泣かれていたし……


「クセーニャ・アタエフ、このご婦人を、玉座の間に案内してくれ」

 その婦人がミコ様であった。


 近づいて、「ご案内いたします」といったクセーニャでしたが、思わずドキッとしたのです。


 女性に対して、胸が高鳴ったクセーニャ、自分でも変だと思いながらも、何かどきどきしながら、案内したのですが……


「そんなに怖いですか?」

「いえ、そんなわけではありません」

「あんまり緊張していると、私にお尻を触られますよ、ほら、このように」


 ミコ様にお尻を触られ、悲鳴を上げたクセーニャでした。

 その後、ナスターシャがやってきて、クセーニャたちを下がらせたのです。


 ……いったいあれは誰だったのかしら……

 ミコさんの姿が忘れられなくなったクセーニャ

 ……もう一度……今度はお尻ではなくて……


 そして問題の日がやってきました。

 サンクト・ペテルスブルグの六月下旬、白夜の真っ最中で、一年でもっとも快適な季節、なのに朝から曇り空、今にも雨が降りそうでした。

 

 午前十時、ニコライ四世はナーキッドがいうところの献上品について、当人のナスターシャ大公女を交えて、ロマノフ一族の皇帝一家として、話し合いをしていました。

 

「覚悟はできているな」

「昨日、私はマリッジ・リングをいただきました、明後日には愛人の端くれにと、裸で懇願いたします」

「覚悟を示せば、あの方は嫌とはいわれないと、確信しています!」

 この後、しんみりとした空気が流れたのです。


「では、この後、侍女たちにお別れを伝えようと思いますので、これで」

「そうだな、私もお前の覚悟を聞いた以上、帝国としても、この後の対策を協議するとしよう」

 

 部屋の外では、侍女や侍従がそれぞれの主を待っています。

 まずナスターシャ大公女が出てきました。

 次に皇帝と皇太子が、しばらくしてエカテリーナ皇后が、さびしそうに出てきました。

 そして何もいわず自室に戻っていきます。

 クセーニャも母も、黙ってついていきました。


 長い廊下を歩いていると、銃撃の音が聞こえたかと思うと、突然爆発が起こったのです。

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