ザッハトルテに紅茶はいかが?

 

 美子さん、壁の花を決め込んでいたエッダに、つかつかと歩み寄り、

「私と踊っていただきたい」

「えっ、まさか、喜んで♪」


 優美に踊る二人……ただエッダの背中に、羨望と嫉妬の矢が……


 ……この程度、反対に快感だわ……

 この瞬間、エッダは大人の女性になったのです。


 休んでいたエッダにヘディが、

「いま踊っていた相手はだれ?形容しがたいほどの美しい方だったけど……まさか……」


「あの方に心を奪われたわ♪」

「エッダ!」

「だって、ミコ様ですもの、わざわざ男装してきて下さったのよ♪」

 

 母娘がそのような会話をしている頃、美子さんはディアヌと踊っていました。


「美子様、あとでアリシアが文句を云うでしょうね」

「仕方ないでしょう、近々にディヴィトソンの主催する舞踏会に出れば、文句も収まるでしょう」

 

 美子がディアヌと踊り終わると、シャルル枢機卿が近寄ってきます。

「では先ほどのお約束、このリストの娘と、踊っていただきます」

 そう云いながら、顔写真付きのリストを渡しました。

 肩をすくめる仕草の後、美子さん、次々と誘っています。


 エッダは、美子が次々と相手を変えながら踊っているのを見て、心穏やかではありません。

 ……ディアヌさんならいいけど……なんで見ず知らずの女と踊っておられるの……


 へディも心中穏やかではありません。

 淑女然としているディアヌに比べて、エッダがあまりに小娘に見えるのです。


 ……並べばエッダは小間使いに見えるわ、これでは引き立て役じゃないの、何とかしなくては……


 ディアヌにない魅力……そういえばエッダがいっていたわね……難しいお話の相手は、ディアヌさんやアリシアさんでも無理なのって、エッダは本が好き、そしてその知識を活用できる力がある……


 そうよ、女の魅力を身につけて、知的な会話をミコ様とできれば可愛がってもらえる……

 そうよ、女の魅力なら、ディアヌにはかなわないけど、会話なら太刀打ちできるのではないから……そうよ、それよ♪


「エッダ!会話よ!貴女は知的な会話で勝負すればいいわ、そのあたりに磨きをかけるのよ!」

 この後、長々と美子さんの寵愛を得る為の、ヘディなりのノウハウを伝授していました。


「そろそろディアヌさんのところへ行ってくるわ、何といっても、私の上司でもあるしね」


 その頃、美子さんはシャルルさんのご指名の相手と、次々と踊っています。

  

「シャルルさん、このあたりで良いでしょう、ドイツの範囲をかなり逸脱していますよ、貴方たちの計画が必要になるとは決まってはいないのですからね」


「とにかく枢機卿、エッダ達を頂いた以上は、かかわりを持った相手は何とか致します」

「チェコ、スロバキア、スロベニア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア……かなりお美しいご令嬢ばかりですが、危険な雰囲気が漂ってきましたのでね」

「ディアヌさんやエッダさんに抓られそうですし」


「あと一つ、クロアチアの生徒と踊っていただけませんか?」

 美子さん、ため息をついたようでしたが、

「私と踊っていただけませんか?」

 と、誘いました。

 


 その後、踊り終わった美子さんは、殿方たちと談笑していた、シャルル枢機卿のところへやってきて、

「クロアチアもですか、枢機卿も大変ね、例の計画、不必要になればよいのにね、さてギャラリーの殿方たちも、満足されたでしょう」


「出来ますれば、受け取っていただきたいものですが……」

「私は紅茶が好きなのですよ、でもね、時々似合わないお菓子を出されるの」

「しかし今回のザッハトルテは、私の紅茶に合いました、好みのお菓子を作る地域は、大事にしたいものです」

 そういうと、枢機卿や殿方たちの安堵の顔に送られながら、すたすたとエッダとディアヌの元へ。


「お嬢様方、そろそろ舞踏会も終り、この後私とお茶でも致しませんか?」

「喜んで♪」


 両手に花の状態で美子さん、ホテル・ザッハーへ、どうやらディアヌさんも、このホテルへ泊っているようです。

 ロッシチルド財閥の力で、何でもありなのでしょうね。


「さて、有名なザッハトルテでも頂きましょうか♪」

「でも、お飲み物はコーヒーになりますが、よろしいのですか?」

「勿論、紅茶でね」

 エッダとディアヌはウィンナ・コーヒーでしたが。

  

 このオリジナルザッハトルテは、美子さんの紅茶に合ったようでした。

 そのおかげか、オーストリアはマルス移住の時、かなり優遇されたのです。

 ザッハトルテをマルスに持ってくるために……


  FIN


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