男装の麗人がやってきた


「どう、舞踏会は楽しい?」

 ヘディの問いかけに、エッダは

「こんなに気を使ったことは生まれてはじめてよ、うまく断るのって難しいのね」

「断りきれなくて、若い方とも踊る羽目になったわ、交際を申し込まれた方もいたわ♪」


 まんざらでもない顔の、エッダでしたが、

「でも、踊りながら、つまらない話しかしないのよ、うまく断ったわ」

「だれなの、まだいるの?」

「あの方」


 エッダの視線の方向には、それなりの美男子が踊っています。

「ジーメンスの息子ね、まったくハスプブルクの娘にいいよるなんて!」


 そんな会話をしているとき、

「おや、ご主人はおられないのですかな?」

 と、シャルル枢機卿が声をかけてきました。


「これは枢機卿、舞踏会で会うなんてお珍しいこと、どうされたのですか?」

「いえ、クロアチアのカトリックの学校の生徒が、ウィーンへ社会見学に来ていたものですから、若い子たちですから舞踏会にでも招待しようかと、ちょっとばかりコネをね、まぁ神もお許しになるでしょう」


「それは善行を、きっと生徒さんたちも喜んでおられるでしょう、主人はあちらの方で、舞踏会なのに、無粋にも殿方たちと話などをしているようですわ」

「では私も、無粋なお仲間にいれていただきましょうか」


 おほほ、と品よく笑って対応していたヘディでしたが、

「おや、ディアヌ・ロッシチルドがやってきたようですわ、相変わらずお綺麗ね……でも、誰かしら……まさか……」


 ヘディの言葉に、シャルル枢機卿が振り向くと、ディアヌ・ロッシチルドが、恭しく誰かを先導してきたようです。


「やはり、ちょろちょろと……失礼、少しばかり知り合いなので」

 

 ディアヌが、

「シャルル枢機卿がこちらに、かなりお怒りのように思えますが……」

「いいじゃないの、どうせこれをネタに、なにか要求するのでしょうから」


「美子様!」

「シャルルさんのお誘いで来てあげたのですよ、なにをすればよいのでしょうね」

 ニャっと笑った美子さんです。

「まぁ、そうなのですが、まさか男装とは……」

「いけませんか?ご多分に漏れず、シャルルさんもパイデラスティア――少年愛――なのかと、ローマカトリックには蔓延しているのでしょう?サービスですよ」

「冗談でもおこりますよ!」


「言いすぎでした、陳謝いたします」

「では、私の希望をかなえていただきたいものですな」

 

「別室のローマンカトリック修道会の幹部さんたちとお話ですか?」

「そうなのですが、先ほどの戯言の代価として、もう一つお願いがあります」


「面倒な臭いがプンプンしますが?」

「簡単な事ですよ、私が指示する相手と、踊っていただきたい、そして受け取っていただきたい」


「私に水を向けた以上は、計画していたのでしょうが、受け取るのはご遠慮いたします」

「でも次の言葉をささやきましょう、枢機卿の望みの回答ですよ」

 

 そして美子さんは、こう云ったのです。

「エッダはドイツ民族の献上品、大ドイツとしての私の認識は、今日踊る相手の出身地域も含みます」

 

「やはりお見通しですか……されどお言葉に安堵しました、ではまずエッダと踊ってください」


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