ローマンカトリック修道会


 しばらくして一人が、

「我らローマンカトリック修道会の幹部を招集した訳を、お聞かせ願いたい」

 と、口を開いた。


 ローマンカトリック修道会とは、ドイツ騎士団、つまりはチュートン騎士団の流れを汲む組織で、法王領の中欧、東欧、バルカン方面のキリスト教徒を守る組織として認識されている。

 事実、担当方面の国家に、それなりの影響力を持っている。


「バルカン方面の神の子らの居住地域を、異教徒と分けておいてほしい、それとなく迅速にお願いする」

「この先どうなるかは分からないが、世界淘汰計画が動くなら、我々はなんとしても、神の子らは守らねばならない」


「申し訳ないが、異教徒の方々は、それぞれの神にお願いするしかない」

「われらとて、契約の娘を差し出したとしても、救われる保障はないのだ、ただ出さなければ確実に救われない」


 再び静寂が会議室を包みました。


「分かりました、とにかくバルカン方面の件は、お任せください」

「ところでエッダ・ハスプブルク・ロートリンゲンの警備は、大丈夫なのですか?」


「無用であろう、断言できるが、誰も彼女に害をなすことなどできない」

「一応ここにいる者は、エッダのダンスの相手となっている、もちろん表の顔で踊っていただくが、よく注意していてほしい、たぶん運命の審判者が現れると思う」


「その理由は?」


「その方は女性ではあるが女好き、つまりはレズ、そしてエッダをかわいがっておられる、おまけにへそ曲がり」

「昨日、舞踏会の件を申し上げ、お出ましを固くご遠慮いただきたいと申し上げた、だからだ」


 シャルル枢機卿は言葉を続けます。

「その時は、何とかして私が各地域の娘たちと踊っていただくようにする、意味がわかるであろう?」

「しかし踊っただけで、その娘たちの心がなびくのでしょうか、力ずくは好ましくありませんが?」


「皆はあった事がないので分からないだろうが、とにかく人を魅了する方だ、魔力とも云うべきで出会った女は必ずなびく、ある意味罪深い方だ」


「それで……急に法王領が、この舞踏会を後援したのですか、しかも電話による招待、納得しました」

「嫌がるロッシチルドに、金を出させるのは苦労したが、ところで通達どおり、名花の手配は出来ているな」


 翌日の舞踏会、そうそうたるメンバーが集まっています、ロッシチルド、ディヴィトソンの関係者、リヒテンシュタイン、チェコ及びスロバキア、ブルガリア、ルーマニア、スロベニアの各国の財界人や旧王室関係者、そのほかバルカン諸国のカトリックの団体幹部などの子弟や令嬢なども呼ばれ、盛大に催されました。


「お母様、お相手しなければならないのですか?私は決まった方がおられるのですよ」

 エッダがヘディに訴えています。


「だからです!その方の周りには魅力的な方ばかり、その中で、ご寵愛をいつまでもいただける自信はあるの?」


「……」


「貴女は美貌と知識は人に負けない、でも、美貌はすぐに飽きられてしまう、知識はそれだけだと鼻につく」

「人としての魅力、女としての魅力が足りないのよ」


「だからこの舞踏会で人との付き合い方、あしらい方、男の気の引き方、いろいろ勉強するのよ、もちろん夜のことは私が教えてあげるわ!」


 仕方なく、エッダはヘディの薦める相手と踊り、一巡してからは、山のように誘われるのを苦労して断り、壁の花を決め込んだのです。


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