夏の舞踏会の裏側で


 翌日に、夏の舞踏会フェット・アンペリアルの招待状が届きました。

 ホーフブルク王宮の、スペイン乗馬学校で開かれる今年のフェット・アンペリアルに、エッダ・ハスプブルク・ロートリンゲン嬢が招待され、社交界デビューの噂は瞬く間にウィーンの社交界に広まりました。


 ハスプブルクの深窓の姫君、その後押しを、ロッシチルドが公然としているのですから、噂にならぬほうがおかしい訳です。


 今回のフェット・アンペリアルは、エッダの噂が話題を独占していますが、招待状は広く思わぬ方面にも、急遽送られていたのです。


 そして招待された者の、随行員の控え室として、ホーフブルク王宮の会議室があてられてたのです。


「本日は急な呼び出しに、出席していただき感謝いたします」

「明日、フェット・アンペリアルが開かれる、その前に大事な話をがあります」


「皆さんは世界淘汰計画の関係者でもありますが、今から話すことは他言無用とお考えいただきたい、人類の存続がかかっていますので」


「枢機卿、そのことは心得ている、しかし緊急な会合、しかも中欧のものばかり、なにかあったのですか?」


「聖ナタナエル十字が予言通り破壊された、世界淘汰計画は、いやおうなしに動き始める」

 シャルル枢機卿がこう切り出しました。


「各地に断片的に伝えられている、ナタナエル黙示録はどうやら事実のようだ」

「先ごろ運命の審判者が現れた、そして黙示録は幕を開けた」


 シャルル枢機卿は次の言葉をつぶやいた。


 ――その輝けるその神子は闇を纏いひっそりと降臨なされるだろう。

 悪しき者はその前に膝を屈するしかないだろう。

 もう一人の悪しき者、力の過信者もひれ伏すしかない。

 さらに神のお言葉を守る信仰深き者、聖なるものも神子の怒りに触れるだろう。


 三者はひれ伏しておのが愛する血と肉を差し出すだろう。


 神子は神を従え、聖母を従え、さらに異界の神と多くの美しい女を伴う、その名は悪しき帝王の名を名乗られる。

 その姿は卑しい身、女の身として現れる、そしてハルマゲドンは幕を開けるだろう――


「悪しき者とは、ロッシチルド財閥、もう一人の悪しき者、力の過信者とは、ディヴィトソン財閥、神のお言葉を守る信仰深き者、聖なるものとは、われらのことと判明した、そしてこの三者は世界淘汰計画でつながっていた」


「では『おのが愛する血と肉を差し出す』とは?」

「美しい女性ということだ、生贄ではないが女奴隷として差し出す、さすれば契約の場に望める」


「ディヴィトソンは娘のアリシア、ロッシチルドはあのディアヌ、そしてわれらはエッダ・ハスプブルク・ロートリンゲン、そして少なくとも良き神の子らは、守られるかも知れない、最後の審判に受かればの話だが」


「それではメキシコの一件は、第一のラッパが鳴り響いたということですか?」


「そのとおり、

『第一のラッパが鳴り響く時、アステカの地にうごめく悪しき者どもは滅せられる。不信心な者の嘲笑いの中ラッパが鳴り響くことになる。』、

そして、

『第二のラッパが鳴り響く時、突如として、黒い霧が現れる。あちこちで赤い水が湧き上がり、空には不吉な虹が輝き、そして何事もなく消える、諸人に死ぬものはいない。ただ第二のラッパが鳴り響けば、世界は選択するしかないだろう』、

も起こった」


 ホーフブルク王宮の会議室は、重苦しい沈黙がしばし流れた。


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