初めての休暇
それから忙しいのか、電話もありません。
母親のヘディは、気が気ではありません。
十五歳の娘が、愛人のようなメイド生活をしいられている。
そう思うと、自らホットスプリングに行こうかと考えたりしているのです。
そして久しぶりに、エッダから電話がかかってきました。
「お母様!今度一週間のお休みをいただいたの、今、こちらでは午後六時、いまから出るわね」
「いまから?一人で大丈夫なの?」
「ホットスプリングス・メモリアル・フィールド空港から、ディヴィドソンさんがプライベートジェットを用意してくださるの」
「シャルル・ドゴール空港につくわ、そこからウィーンの空港までは、ロッシチルドさんが用意してくれるって」
「なんでもホテル・ザッハーに部屋を用意してあるからって、ウィーンの時間で六時ぐらいになりそうなので、そこに一泊しなさいって、ミコさまがおっしゃったの」
「お土産は何もないけど、迎えにきてくださる?」
「もちろんよ、でも……その、ミコ様はご一緒じゃないの?」
「私一人よ」
初めて聞くエッダの明るい声、娘がどこか遠くへ行ったような、さびしい思いがした、ヘディではありました。
ホテル・ザッハーで、夫とともに娘を待っていた二人の前に、別人かと思えるほどのエッダが現れます。
OLのような、質素で実用的な服を着ているエッダですが、少女のような雰囲気の中に、何かしら大人の女を感じさせる。
それゆえに、美貌が引き立っているようなところが伺われます。
ホテルのロビーにいたものは、この清楚ではあるが妖艶がにじみ出ているエッダが、まぶたに焼きついたでしょうね。
それはエッダがかもし出す自信のようなものが、強烈な印象を与えたのです。
「エッダ!お帰り……」
「お父様も、お元気そうで……」
母親であるヘディは、一目見て理解したのです。
娘は女になったのだと……
「エッダ、もう何もいわないわ、大事にされている?」
「ええ、でも詳しいことは部屋でね、ここでははばかれますから」
「それよりお父様、お食事でもいたしませんか、私、おなかが減ったのですが」
「おお、そうだった、何が食べたい?、ターフェルシュピッツ――ウィーンの高級牛肉料理――にするか、好きだっただろう?」
「ヴィーナー・シュニッツェル――ウィーン風子牛のカツレツ――にするわ、お肉は好きだけど、アメリカにいるからステーキばっかりで、コートレットのような揚げ焼きフライはあまり出ないの」
「そうなのか、食べたいものを、好きなだけ食べなさい、食後のデザートもね、アメリカではおいしいお菓子などないだろうから」
三人はホテルのレストランに、でも特別室なのですけどね。
結構な食事を済ませ、ホテルの部屋に戻ると、ヘディが、
「ねえ、先ほどの話だけど、大事にされているの、他の女に意地悪されてないの、どんなところに住んでいるの、貴女には、女性の嗜みを何一つ教えてなかったけど、大丈夫なの」
「そんなに矢継ぎ早に質問しないでよ、大丈夫、こうして元気に帰ってきたでしょう、大事にされているわ、でも、お仕事もきついけどね」
「お仕事?」
「私、ミコ様の事務担当補助をしているの、大体は事務担当の方がやってくださるけどね、わかりやすくいえばメイドさんを指揮して、屋敷の維持とミコ様たちの身の回りのお世話をすることよ」
「事務担当って誰なの?」
「ディアヌ・ロッシチルドさん、アリシア・ディヴィドソンさん」
「ディアヌ・ロッシチルドは確かに有能ね、それに綺麗だし……」
「お母様、お父様も聞いて、私はもうミコ様に身をささげたの、ディアヌさんもアリシアさんも、私たちはベッドで一緒に愛されたの、恥ずかしいことをしたわ」
「私はもう女なの、ミコ様は公平なの、夜毎のことも公平、不思議なことに嫉妬もないわ」
「ミコ様がそのような女は嫌われるそうなの、だからお側に侍る者は、他人の悪口などいわない、ミコ様にお気に入られるように、努力するだけなの」
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